閑話 その後の二人
「は、はい。申し訳ありません。以後気をつけるように致しますので」
『まったく、本当にお願いしますよ。こう言っては何ですが、風間さんなら絶対こんなミスは犯しませんでしたからね』
「……直ちに修正してお送り致します」
受話器を置いた瞬間、阿久津のこめかみがピクリと跳ねた。電話口では平身低頭に謝っていたが、内心では罵声が渦巻いている。不機嫌さを隠しきれず、眉間の皺は深く刻まれたままだ。
元はと言えば、すべて風間が追い出されたせい――いや、自分で“追い出した”と言ってもいい。
顧客情報流出の濡れ衣を着せ、得意げに彼の仕事を奪ったまでは良かった。だが、引き継いだ案件は膨大かつ繊細。取引先が投げる細かな要望を処理しきれず、ミスは雪だるま式に増え続けていた。
「阿久津、ちょっと来い」
修正データを送信したばかりだというのに、部長からの呼び出し。うんざりしながらも応接スペースへ足を運ぶと、案の定、低い声が突き刺さった。
「お前が作成した資料、あまりにお粗末で使い物にならん。最近はミスも目立つ。もっとしっかりしろ」
阿久津は悔しさのあまり奥歯を噛みしめた。さらに追い打ちのように小さく漏れたひと言。
「風間の資料は、本当によく出来ていたがな……」
拳がわなわなと震えた。
「風間はもういないでしょうが!」
思わず声を張り上げ、慌てて口を押さえる。すでに遅い。部長の視線が氷のように冷たく突き刺さった。
「大口を叩くなら相応の結果を出せ。――それから、顧客情報流出の件だが、実は風間のミスではなかったのではないかという話が出ている。お前、心当たりは?」
「……ありません。ですが、なぜ私に?」
「特に理由はない。全員に聞いている。……仕事に戻れ」
阿久津は背筋を張って頭を下げ、自席へ戻ったが、胸の内は嵐のように荒れ狂っていた。
昼休み。阿久津は座間を連れ出し、ビルの裏手で詰め寄った。
「お前、ヘマはしてないだろうな?」
「何よ、突然」
座間は眉をひそめる。阿久津は声を潜めるどころか怒気を隠さず続けた。
「部長に言われたんだ。例の流出、風間のミスじゃないって話が出てるってな。俺を疑ってる気配がある。お前だって他人事じゃないんだぞ!」
「脅しのつもり? 私に言われても困るわ」
「ふざけるな! こんなことがバレたら、お前もタダじゃ済まない!」
声を荒げる阿久津に、座間は肩をすくめつつ冷ややかに問う。
「ねぇ、あなた本当に大丈夫? 最近は“風間の穴を埋められていない”って噂、私の耳にも入ってるわよ」
「……確かに面倒だ。別の手を考える必要があるかもしれない」
「別の手って?」
座間が首を傾げた瞬間、阿久津の唇が歪む。
「――俺と一緒に冒険者にならないか?」
「は……?」
ぽかんとする座間を前に、阿久津は自嘲気味に笑った。追い詰められた男の焦りが、その横顔にはっきりと刻まれていた。
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