第154話 運動を楽しむモンスター達
「それでは体力測定の結果を元に、トレーニングを進めていきましょう!」
モンスポ!のインストラクターが爽やかに案内してくれた。ランニングマシーンでの測定はウォーミングアップであり、ここからが本格的なスタートらしい。
俺たちは案内を受けつつ、ベンチプレスやショルダープレス、エアロバイク、ダンベルラックといった器具が並ぶエリアへ移動した。
「ピキィ!」
先陣を切ったのはラム。小さな身体でぐにっと体を伸ばし、ベンチプレスのバーを器用に持ち上げてみせる。
「すごい……スライムなのに! というか可愛い!」
近くにいた女性のインストラクターが、感嘆と癒しが混ざったような声を漏らす。ラムはというと得意げにむんっと膨らみながら、もう一度ぎゅっとバーを押し上げた。
「はぁ、尊い……」
その姿に、見守る愛川も頬を緩ませていた。わかる、俺も今心の中で三度くらい拝んだ。
「ワンワン!」
次に挑んだのはモコ。ショルダープレスマシーンに前足をかけて、後ろ足でしっかりと踏ん張りながら、上体を使ってバーを上下させる。フォームも見事に安定していて、インストラクターからは即座に「完璧です」とお墨付きをもらった。
「ほんと真面目なんだよなぁモコは」
しっかり汗をかきつつもキリッとした顔を見せるモコ。小さな肉球が一生懸命バーにかかっているのが、これまた可愛い。
「モグッ、モグッ!」
ダンベルエリアではモグが両手でミニサイズのダンベルを掴み、懸命に持ち上げていた。ふうふうと鼻を鳴らしながら、それでもあきらめずに繰り返すその姿に、数名の女性会員が目を輝かせた。
「モグラが……こんなに一生懸命……」
「ちょっと感動したかも……」
声をかけられて照れたのか、モグは思わず床に転がって小さく丸まり、顔を前足で隠してしまった。ちょ、可愛すぎる。
「マァ!」
マールはというと、ランニングマシーンを跳ねるように走っていた。蔕のような髪をパタパタ揺らしながら、前を向いて必死に足を動かす姿はまるでちびっこ運動会。
「がんばれー!」
「マスコットが走ってる!」
見ていた人々からも自然と応援の声が上がっていた。マールは振り返って「マァ!」と手を振る余裕まで見せた。場慣れしてきたなマールも。
「ゴブ……ッ」
そしてゴブは、エアロバイクで真剣そのもの。脚の動きは力強く、息もぴったりとリズムを刻む。なぜかスポーツグラスをかけていて、まるでプロ選手みたいだ。
「彼の主さんですよね? あのグラス、私が貸しました」
「えっ、ありがとうございます」
「似合いそうだったので。ここまで真面目に取り組むとは、予想以上でした」
インストラクターの男性が肩をすくめて笑いながら話しかけてくれた。たしかに、真面目にやるゴブの姿には見ているだけで胸にくるものがある。
「うん、みんな偉いなあ……」
そう思ってばかりでもいけないので、俺も改めてトレーニングに励む。インストラクターにフォームを見てもらいながら、汗を流していく。隣では愛川がストレッチエリアで柔軟運動をしていた。彼女の集中した顔を見て、こっちも気合いが入る。
一通りメニューをこなすと、自由時間に突入した。
「皆さん、ここからはご自由にお過ごしください。施設内でしたら何時まででもOKです」
とインストラクターの案内。愛川はすぐに俺に近づいてきて、うれしそうに言った。
「ハルさん、よければこれ試してみませんか?」
指差したのはスカッシュルーム。壁打ちでラリーを競う競技だ。ラケットも貸出自由で、俺たちでも気軽に楽しめそうだった。
「皆もやるか?」
「ワンワン!」
「ゴブゥ!」
「モグッ!」
「マァ!」
「ピキィ!」
揃って元気に答えてくれたモンスター達の声に、俺も自然と笑みがこぼれた。よし、それなら全力で楽しもう――!