第143話 みんなで道場へ行こう
すべての手続きを終え、俺たちはギルドの建物を後にした。小澤マスターや香川さんと別れる頃には、陽はすっかり傾きかけている。
「で、ハルはこのあとどうすんだ?」
――すっかり “ハル” 呼びが板についたな。悪くない響きだ。
「ダンジョン災害で痛感したんだ。もっと基礎を鍛えときたいから、これから山守家の道場に行くつもりなんだ」
そう答えると、熊谷がニッと笑う。
「おっ、ちょうどいいじゃねぇか。俺たちも行ってみたいって前から思ってたんだ」
「うむ。道場で筋肉を磨けば、さらなる高みを目指せるだろう」
中山は相変わらず“筋肉至上主義”だ。すぐ隣で愛川が拳を握りしめる。
「私も少しくらい戦えるようになりたいし、見学だけでもさせてもらえたら嬉しい!」
「お父さん、きっと喜ぶと思うけど、一応連絡するね」
秋月がスマフォを取り出し、祖父に代わって師範となった父親の楓に電話をかける。俺たちが興味津々で聞き耳を立てていると――
「もしもし? うん、え? 既に先客が道場に―もう何人来ても変わらない? …… ちょっ――切られた」
ぷつん、と通話が終わる音。秋月が肩をすくめた。
「とりあえずOK、らしいよ」
「豪快なお父さんだな」
熊谷が苦笑する。さて、移動手段だ。
「俺はバイクで来てるぜ」
「俺のは軽トラだ。座席は一つ空いているぞ」
「私は電車で来たんだけど……」
愛川が少し困り顔。ならば、と中山が腕を組む。
「軽トラは空きがある。ハルが乗って、愛川さんは秋月の車に同乗してはどうだ?」
それが中山の提案だ。俺も同じことを思っていた。愛川も、女性同士の方が気が楽だろうからな。
「えっと、いいのかな?」
「うん。異論ないよ。目的地は同じだしね」
「ワンワン♪」
「ピキィ♪」
「マァ♪」
「ゴブゥ♪」
「モグゥ♪」
愛川の同席にはモンスターたちも賛成らしい。こうして俺は軽トラ組、愛川は秋月のオフロード車組、熊谷は単独バイクという三班に分かれて出発した。
「乗り心地、結構いいもんだな」
ハンドルを握る中山の横で、つい感想を述べる。
「そうだろう。軽トラは日本の宝だ」
そう言って笑う中山。詳しく聞くと冒険者稼業以外では配送の仕事をしているらしい。今日は休みだったようだけどな。
後ろからはバイクに跨った熊谷もしっかりついてきている。そして間もなくして山守家の道場に到着した。
駐車スペースには、見覚えのあるバイクが四台。“鬼輝夜”の面々だ。先客とはこのことか。
引き戸を開けると、白い道着をまとった蓬莱が真っ先に手を振ってきた。
「あ~ハルくんだぁ~!」
胸元が――いや、やめておこう。思わず凝視しかけたところで、隣の熊谷が感嘆の声を漏らす。
「……でけぇな」
「うむ、立派な大胸筋だ」
「いやいや、そこ筋肉じゃないから!」
思わずツッコむ俺。その背後から、秋月と愛川の視線が突き刺さる。ひえぇ。
「貴方のご主人様は、鼻の下を伸ばして恥ずかしいですねぇ」」
「悪い影響がモンスターに及ばないといいけど」
秋月と愛川が半眼でモンスターたちを撫でる。モコたちはきょとん顔。誤解だ、誤解!
「いやいや、何と言うか誤解だから!」
……俺の声は、床板に吸い込まれるように虚しく響くのだった。