第135話 再びの再会
秋月の運転する車に揺られながら、俺たちは冒険者ギルドの支部へやって来た。例のダンジョン災害についても一度きちんと報告しなきゃならないし、案内窓口で話を聞くつもりだ。
受付には、以前対応してくれた女性がいて、俺たちの顔を見るなり「ああ、風間様ですね」とすんなり理解してくれた。
「風間様は先に、冒険者専用の総合受付へいらしてください。今回のダンジョン災害について、報酬があるそうですので」
「え? 報酬、ですか?」
「ええ。詳しくは総合受付の香川からお聞きになってくださいね」
その話に、正直びっくりしてしまう。本来なら俺が挑んだのはランクオーバーの緊急事態であり、下手したらペナルティがあってもおかしくない。まさか報酬が出るなんて考えてもみなかったからな。
「報酬が出るなんて、よかったですね、ハルさん」
「あ、ああ……そうだな」
「ワンワン♪」
「ピキィ♪」
「ゴブゥ♪」
「モグゥ~♪」
「マァ♪」
秋月に言われて少し照れる。モコたちも嬉しそうに弾んだ声をあげている。
「……それにしても、ずいぶんモンスターが増えましたね」
「ハハッ、色々ありまして」
案内係の女性が興味深そうにモコやゴブ、ラム、マール、モグを見やる。うちの仲間はみんな愛嬌があるから、人目を引くのも仕方ないか。
そして俺たちは総合受付へ足を運んだ。冒険者は定期的にここで実績を更新できるらしいし、素材を持ち込めば報酬を受け取れたりもする。国の機関だから、いろいろ手続きがややこしそうだけど、慣れれば意外と便利だ。
そんなことを考えながら受付フロアに入ると――
「なんだ、弱っちぃ雑魚冒険者じゃねえか」
「あらあら、またあんたたちね。相変わらず貧弱なモンスター連れ回して、お山の大将気取り? ある意味幸せそうで羨ましいわ」
……あー、聞き覚えのある声。この鼻に付く嫌味な言い方は、間違いなくアイツらだ。なんでこうも行く先々で出くわすんだよ……。
「また貴方たちですか。いい加減に放っておいてください」
辟易していた俺の代わりに、秋月がビシッと二人に言い返す。すると、モコやゴブ、マール、ラム、それにモグの五匹までもがプンスカと怒り始めた。前にも会ったことがあるモコはもちろん、初対面組の子たちも、二人の態度を見て何か嫌な気配を察したんだろう。
そこに立っているのは、阿久津と座間。俺を裏切った二人だ。阿久津は高校のころから俺に近づき、社内でも同僚として付き合いがあったのに、結局は俺の婚約者を奪った。その上二人は会社の不正まで押しつけた張本人たちだ。
「やぁ、君はまだこんな無能と一緒にいるのかい? そろそろ見限って、俺たちと仲良くやらないか? ま、あんたにとっちゃそのほうが幸せだろう?」
「ちょ、阿久津! 変なこと言うんじゃないわよ」
阿久津はあからさまに秋月に媚びを売っているように見える。横で座間が眉尻を吊り上げているけど、どうやら自分の男が別の女を口説いているのが気に入らないらしい。それでも阿久津はまったく気にする様子もなく、ヘラヘラと薄っぺらい笑みを浮かべている。
しかし、相変わらず下劣なコンビだよな。人を見下すのが大好きで、どこへ行っても同じ態度かよ。
俺の頭に嫌な過去の記憶がよぎる。結婚直前で婚約を破棄させられ、会社を辞めるはめになったあの日のことを……。つい拳を握りしめそうになるのを、なんとかこらえた。
「随分舐めたこと言ってんじゃねえか。お前ら、風間の何なんだよ?」
そのとき、不機嫌そうな声が耳に飛び込んできた。振り返ると、そこには熊谷、中山、愛川の三人が立っていた。俺と同じようにダンジョン災害の件で来ていたのかもしれない。。
阿久津はまだニヤニヤとしたまま、こいつらは誰だ?という顔で見ている。座間は座間で、愛川あたりを見下したような視線を向けている。まったく、顔に性格の悪さがにじみ出てるな。こっちもいい加減うんざりなんだがな――。