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第130話 ダンジョン災害を乗り越えて――

 マスターと健太の父親との話が一段落したタイミングで、ほかの子どもたちの保護者も次々と姿を見せ始めた。小澤マスターは一人ひとりに事情を説明し、その後は冒険者ギルドと提携している病院へ向かうことが決まった。


 怪我はもちろんだけど、子どもたちの精神的ケアも必要だと判断されたんだ。ゴブが一緒だったぶん、多少はマシだったかもしれないけど、怖い思いをしたことに変わりはないからな。


 これがきっかけでトラウマにならないように、きちんと処置してもらうのは大事だと思う。山好きの俺としては、今回のことで子どもたちが山を嫌いになったりしないでほしいとも思ってる。


 病院には、俺たちも同行した。特に俺はゴブリンロードと対峙したこともあって、色々と心配をかけちゃったからな。でも途中で飲んだポーションのおかげか、外傷はそうでもなかった。


 疲れこそあるけど、時間が経てば回復するもんだし。他の皆も擦り傷程度で、後遺症につながるような怪我はなかったようだ。


 これは愛川の治癒魔法の力も大きいと思う。実際、魔法による治療ってかなり重要なんだなあと改めて実感したよ。


 病院では、子どもたちとその保護者が医師から説明を受けていたんだけど、一人だけ桜が寂しそうにしていた。桜の母親は鬼姫なんだが、今日はちょうどダンジョン攻略に出かけていて、まだ連絡がついていないらしい。


「大丈夫かい?」

「う、うん! 私は平気だよ! ママ、お仕事だもんね。私、かっこいいママが好きだもん」


 俺が声をかけると、桜は平気そうに笑ってみせた。強い子だよな、ほんと。


「それにゴブちゃんたちもいるし、寂しくないよ」

「ゴブゥ~♪」

「ワン♪」

「ピキィ♪」

「マァ~♪」


 桜がゴブを撫でると、モコ、ラム、マールも集まってきた。もしかすると、桜がちょっと元気がないのを感じ取って、励ましてるのかもな。


「鬼姫さん、ダンジョン攻略で忙しいのかな」

「その件ですが、連絡は取れたそうですよ。すぐにこちらへ向かうと聞きました」


 秋月が心配そうに呟いたのを受けて、香川さんが教えてくれた。なるほど、連絡がついたなら一安心だ。


 そう思っていると、どこかで聞き覚えのある爆音が近づいてくる気配がした。


「えっと、この音って、やっぱり……?」

「まあ、間違いないだろうな」

「ママが来たんだ!」


 秋月も鬼姫の顔を思い浮かべてるらしい。もちろん、俺もピンときた。そして誰より敏感だったのは桜だった。期待に満ちた顔で病院の廊下を見つめている。


 その後、爆音がピタリとやんで、少ししてからドタバタという足音が響いてきた。


「病院ではお静かに!」

「悪い! 娘がいるんだ!」


 看護師に怒られながらも謝る声は、間違いなく彼女のもの。やがて廊下の奥から数人の影が見えて――


「桜!」

「ママぁ!」


 鬼姫は駆け寄ってきた桜をぎゅっと抱きしめた。そりゃそうだ。親なら娘が心配でないはずがないよな。


「姉御の娘さんが無事で良かった……」

「総長も相当気にしてたからな」

「うんうん、これもハルくんのおかげだね♪」


 鬼姫が桜の頭を撫でる光景を、鬼輝夜の面々が感慨深そうに見つめている。ただ、蓬莱の視線がなぜか俺のほうに向いてる――と思ったら、案の定近づいてきた。


「ハ~ルくん♪ 聞いたよ~? 大活躍だったんだってぇ?」

「い、いや……俺なんて大したことは……」

「そんなに謙遜しちゃって~。でも怪我は大丈夫? もし痛いとこがあったら、治してあげるからね?」


 そう言いながら蓬莱が迫ってくる。大きな果実が揺れて、つい目のやり場に困ってしまう。


「風間さんの怪我は、わ・た・し、が治すから大丈夫ですよ~」


 そこで割って入ってきたのは愛川だ。蓬莱と睨み合ってるような感じで、なんだか修羅場の予感……。


「風間の怪我はポーションで治ってる。医師の診断も受けたし、もう十分だろう」

「へぇ~、ハルくんっていろんな女性にモテモテなんだねぇ~」


 天野川まで会話に加わってきたせいで、ますますややこしくなってきたぞ。


「みなさん、ここ病院ですよ~。もっと静かにしないと」

「えぇ~、私はハルくんのことが心配なだけなのに~?」


 秋月がやってきて注意するけど、なぜか声のトーンが冷たい気がする……。そ、そこだけ微妙に空気が張り詰めてて、俺にはちょっと怖いぞ……。


「お姉ちゃんたち。病院では静かにしないとメッ、なんだよ?」


 ――そこに現れた天使、紅葉。彼女が諭すように言うと、女性陣は揃って何も言えなくなったみたいだ。むしろ一気に表情が綻んでる。


「も~、そんな顔されたら何も言えないよ~」

「……可愛い」

「お姉ちゃんたちも意地になってたね、ごめんね~」

「うん! みんな仲良くが一番だよ♪」


 紅葉の笑顔に救われた感じだ。妹の姿を見て、秋月も優しく微笑んでいる。


「全く、紅葉にはかなわないなぁ」

「ほんとだよ。だからこそ助けられてよかった」

「そうだね。これも風間さんや、みんなのおかげだよ」


 秋月が隣でニッコリ笑ってくる。思わずドキッとしてしまった。……って、俺はいったい何を考えてるんだ。


「あら、あなたも災害に? 一人なの?」

「はい?」


 そんなふうに余韻に浸っていると、十五夜が看護師に声をかけられていた。どうやら子どもだと思われたみたいで、十五夜の肩がプルプル震えてる。


「私は冒険者だ!」

「あらまあ、女の子で冒険者に憧れてるの? 勇ましいわねぇ」

「だ~か~ら~!」


 いくら説明してもなかなか通じないらしく、その様子がなぜか微笑ましくて、俺は思わず吹き出しそうになる――。

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