第12話 先ずは腹ごしらえ
俺とモコは無事、拠点にしているダンジョンまで戻って来られた。色々あったせいか、ひんやりした空気と岩壁の匂いが、実家に帰ったような安心感をくれる。
「さてモコ。大事なのはここからだ。わざわざホームセンターまで行ったのは、暮らさせてもらっているこのダンジョンへのお礼も込めて――なんだ」
「ワウ?」
モコが首を“コテッ”と傾げる。仕草のひとつひとつが愛嬌たっぷりで、つい頬がゆるむ。
「まずはお昼を食べてから作業開始かな」
「ワウ! ワンワン♪」
食事と聞いた瞬間、モコは尻尾を高速回転。買ってきた食材で、鍋いっぱいのラーメンを作ることにした。
茹で上がった麺にスープを注ぎ、メンマ、チャーシュー、煮玉子――丼を並べ、モコと向かい合う。
「味はどうかな?」
「ワオン♪」
モコにはレンゲとフォークを用意したが、器用に使いこなしている。スープは熱いので目を配っていると、モコが俺の箸をじっと見つめて小首をかしげた。
「これは箸って言って――こうやって挟むんだ」
割り箸を渡すと、モコは真剣な表情で観察し、見よう見まねで麺をつまむ。前足で器用につかみ、ズズッと啜る姿は、とんでもなくシュールなのに可愛い。褒めると、モコは得意げに尻尾をぶんぶん振った。
そんな姿を微笑ましく思いながらも、俺とモコは食事を楽しんでいたのだが――
「ピキ~」
手元にひんやりした感触。視線を落とすと、ぷるぷると揺れる小さな青いジェル状生物――スライムだ。
「これはスライムか?」
「ワン!」
モコも腰の後ろから顔を出し、“なになに?”と覗き込む。
「ピ~♪」
スライムは人懐っこく、俺の手にすり寄ってくる。モコ同様、敵意ゼロの愛嬌あるモンスターらしい。
「ピキィ!」
次の瞬間、スライムが俺の丼へダイブしようと跳ね上がった。
「危ない!」
「ワオン!」
モコが素早く両前足でキャッチ。スープはまだ熱い、飛び込めば大火傷だ。
「ピキィ~ピキ~!」
「ワンワン!」
スライムはぴょんぴょん抗議し、モコは必死に諭す。やり取りが微笑ましすぎて笑みがこぼれる――が、どうやらスライムはラーメンを食べたがっているようだ。
「お前、これが食べたいのか?」
「ピキィ~」
ぷるんと震える様子を肯定と判断し、プラスチックの小皿に麺とナルト、メンマ、チャーシューを少しずつ取り分け、十分冷ましたスープを注ぐ。
「ほら、どうぞ」
「ピッ~ピキ~♪」
箸で麺を近づけると、スライムはぷるぷる震えながら“ちゅるっ”と吸い込む。口がどこにあるのか謎だが、至福のプルプルダンスで美味しさを表現しているから大丈夫だろう。
麺、ナルト、メンマ、チャーシュー――すべてぺろり。レンゲで差し出したスープも、嬉しそうに「ピッ」と鳴きながら飲み干した。
「ピッ。ピキィ~♪」
食後、スライムはジェル状の体を小さく震わせながら俺にすり寄り、甘えるように頬を擦りつける。するとモコも負けじと体を寄せてきて、俺の両脇はふわふわとぷるぷるでいっぱいに。
「モンスターって、こんなに可愛いものだったんだな……」
自然と頬が緩む。さて、この甘えん坊のスライムをどうしたものか――。