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第123話 ダンジョンからの帰還

「ところでそのゴブリンが話に聞いていた、良いゴブリンですか?」

 

 外に出るために香川さんと天野川の後をついて行っていた俺たちだが、ふと香川さんが視線だけで振り返り聞いてきた。


 そうか。先に他の皆と話していたから、ゴブのことは知っていたんだな。どうりでさっきもゴブをみて驚いていなかったわけだ。天野川に関してはゴブに薬を渡していたからな。


「うん。ゴブちゃんのおかげで皆も助かったんだよ!」

「ゴブちゃん? それは名前ですか?」


 紅葉の答えを聞いて香川さんが疑問符の浮かんだような顔を見せた。


「うん! 私がつけてあげたの」

「ゴブ~♪」


 香川さんからの問いかけに元気よく紅葉が答えた。ゴブも嬉しそうにしている。ゴブも薬のおかげで随分と元気になったな。


「ゴブ、いい名前だと思う。ゴブリンにピッタリ」

「うん! ゴブちゃんも気に入っているみたい」


 天野川に褒められ紅葉もゴブも笑顔を見せている。ゴブリンだからゴブというのは一見単純にも思えるけど、確かにしっくりと来るな。


「――名前までつけてしまうと後が大変なのですが……」


 すると香川さんが若干困った表情でそう呟いた。困ったこと、それについては俺も思うところがある。良いモンスターといえ、モンスターであることにかわりはないからな。


 だけどゴブは人に危害をくわえるようなモンスターではない。それは一緒に戦った俺がよくわかってる。他の皆もゴブを知っているなら同じだろう。


 だからいざとなったら俺がしっかり説明しないといけないな。そんなことを思いながらも俺たちは先を行くと――巨大なスライムが目の前に立ちふさがった。


「こいつ、あのときの!」


 そう。ホブゴブリンを捕食したスライム。あの時は食事に夢中で助かったが、今はどことなく好戦的に思える。


「こいつ、ホブゴブリンも食べるような相手だ! 気を付けないと」

「なるほど。では下がっていてください」


 香川さんが俺たちにそう告げると、ムチを手に構えを取った。


「紫電の鞭――」


 香川さんが呟くと同時に鞭に電流が走った。文字通り紫色の電撃が迸っている。彼女がその鞭を巨大なスライムに向けて振るった。


「はぁあッ!」


 鞭がスライムの体に巻き付きそのまま拘束する。そして次の瞬間、スライムの体を紫電が駆け巡った。

 

 スライムの中で蠢いていた巨大な眼球が破裂し中から液体が吹き出す。そしてスライムの体も破裂しそのまま地面にべちゃっと落ちた。


「流石――」

 

 天野川がボソリと呟いた。ゴブリンロードをあっさり倒した天野川に流石と言わせるとは、こんな腕をしていて今はなぜギルド職員なのか気になるところでもあるけど、とにかくとんでもない強さなのは確かだな。


「行きましょう」


 眼鏡を直しながら何事もなかったように口にし、香川さんが歩みを再開させた。


「えっと、こういうのって素材とか採らなくていいのかな?」

「今は皆さんの安全を確保するのが先決です」


 そういうことか。言われてみれば倒したゴブリンロードもそのままだったな――


「もうすぐ外に出られますよ」


 香川さんと天野川の二人と合流してからは、出口までは本当に問題なく進めた。勿論あの後も途中でモンスターは出てきたが、二人が軽々と倒してしまうものだから俺たちの出番なんてなかった。


「このハシゴを使って上ります。大丈夫ですか?」


 天井に穴が見えた。俺たちが最初に降りた穴だな。今は縄梯子が掛かっていてそれをつかって登れるようだ。


「俺は問題ないけど紅葉ちゃんは?」

「大丈夫だよ! ゴブちゃんは?」

「ゴブゥ~」


 ゴブも任せてと言わんばかりに返事した。そして俺たちは縄梯子を使って地上を目指した。念の為俺や紅葉とゴブは香川さんと天野川に挟まれる形で梯子を登っていく。


 徐々に明かりが差し込んでくるのを感じた。もう結構な時間なのかと思ったけど、天野川に聞くと夕方ぐらいの時刻だ。


 この時期ならまだ日が沈んでいない。おかげで俺たちが出た後の皆の顔もよく見えた。


「風間さん!」

「風間!」

「信じてたぞ風間の筋肉!」

「ワンッ!」

「マァ!」

「ピキィ!」


 俺たちを皆が出迎えてくれた。皆笑顔だったし子どもたちも元気そうだった。そして――


「風間さん、良かった無事で、紅葉も助かって本当に良かった――」


 秋月が涙を流してそこに立っていた。やっぱり紅葉の事が心配だったんだな。もっとも俺が出来たことなんて大したことではないけど、それでも秋月の大事な妹と帰ってこれて本当に良かったと思う――

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