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第121話 逆転の武器

 宝箱の中に入っていた大鎌、見た目にはとても禍々しい武器だ。正直こんな状況じゃなければ使用するのを躊躇ってしまう。


 だが今は四の五の言ってる場合ではない。俺は宝箱に手を入れ大鎌を握った。瞬間、ドクン、と心臓が大きく跳ねる。


「ステータスオープン」


 本当はこんなことしている場合じゃないのだろうけど、直感的に俺はステータスを確認した。壁に投影された内容を見ると――


ジョブ名:農民

装備者:風間 晴彦

ジョブレベル:2

戦闘力:D

魔法力:D

信仰力:C

生産力:B

成長力:C

スキル

土壌改良(10㎡)、土鑑定、耕作力向上(小)、栽培力向上(小)、農民用中級鍬術、鍬強化、土穴砕、天耕撃、土竜突、天地返し

限定スキル

血の狂乱


「血の、狂乱?」


 俺のステータスにスキルが増えていた。しかも表示が他と異なり限定となっていた。このスキルは何かと考えると説明が表示される。


・血の狂乱

狂血の大鎌を使用時にのみ与えられるスキル。鎌に血を吸わせている間、肉体を大幅に強化させ痛覚も麻痺させる。使い続けると徐々に理性が失われていき最終的には暴走状態に陥る。


 なんてこった。どうやらこの大鎌は狂血の大鎌という名称らしいが、使っている間は血を吸われ続ける上、最終的には正気を失う――かなりリスキーな武器だ。だけど、この状況を打破するにはこれぐらい強力な武器が必要なのだろう。たとえそこにリスクがあろうと――


「いいぜ。くれてやるよ俺の血を、吸いやがれ!」


 そう願うと、鎌が赤く発光し、俺の心臓の鼓動が早まった。ドクドクと血管が波打ち、全身に血管が浮かび上がる。体温がガンガン上昇するのを感じた。全身から煙が上がる。


「待ってろ、紅葉、ゴブ!」


 地面を蹴りゴブリンロードの方へ向かった。自分の動きとは思えないほどに速い。あっという間に距離を詰めるとゴブリンにまとわりつかれている紅葉の姿。何匹かは倒れているが数が多い。紅葉でも処理しきれなかったのだろう。


「紅葉から離れろぉぉおおぉおッ!」


 俺はゴブリンの群れに鎌を振るった。一瞬にして数匹のゴブリンの首が飛んだ。緑色の血が吹き上がり頭をなくしたゴブリンがバタバタと地面に倒れていった。


「お、お兄ちゃん?」

「離れてろ。ここも、俺も(・・)、危険だ」


 見開いた目で俺を見ていた紅葉に忠告する。そしてゴブリンロードを確認すると、左手で握られぐったりしているゴブの姿があった。


「待ってろゴブ」


 跳躍した。こんな高さ、いつもの俺じゃ絶対に飛べない。だが今なら出来る。不可能を可能にする強さを一時的とは言え身につけた。


「その手を放せよ」


 鎌を振るとゴブを握りしめていたゴブリンロードの指が切断された。解放されたゴブを掴み俺は着地した。


「ゴ、ゴブゥ……」

「よく頑張ったな。後は俺がやる」


 ゴブを地面に下ろした。同時に聞こえてきた。ロードの叫び声が。


『グガァアアァアアァアアッ!』


 指の切断された左手を押さえ藻掻く姿が妙に滑稽に思えた。痛そうだな。痛い? 痛いのかアレは。いや、違う、俺の体から痛みが消えたから、奇妙に思えただけだ。そう、今の俺には痛みは感じられない。


 もしかしたらそれは、相手の痛みも理解できないということなのかもしれない。だが、それでいい。こんな奴らに容赦する必要はない。


『ゴブァアアアァアアアアァアアアァアアッ!?』


 ゴブリンロードが咆哮した。途端にゴブリンの群れがなだれ込んできた。援軍を呼んだのか。ゴブリンだけじゃない。ホブゴブリンやゴブリンブロス、ゴブリンシャーマンもいる。

 

「お、お兄ちゃん……」

「ゴブゥ……」


 心配そうな声を上げる紅葉とゴブ。だが大丈夫だ。何故かさっきまでと違い、こいつらを相手しても負ける気がしない。


「ウォォオオォオォオォオオオ!」


 俺はやってきたゴブリンの群れに向かっていき狂血の大鎌を振るった。広大な土地に映えわたった雑草を刈るように、ゴブリンもホブゴブリンもゴブリンブロスもゴブリンシャーマンも全てを刈っていった。

 

 数が多く、俺も攻撃を受けたが痛みはない。シャーマンの魔法を喰らっても熱くもない。刈って刈って刈って刈って刈ッテ刈ッテ刈ッテ刈ッテ刈ッテ刈ッテ、俺の全身がゴブリンの血で緑色に染まっていった。


「これでゼンブ、か――」

 

 気づけば増援のゴブリンどもは全て始末していた。


「コンナモノカ――」


 そう呟いた俺の頭上を影が覆った。自然と鎌を持ち上げていた。ドスンッ! という鈍い音。ゴブリンロードの鉄槌が振り下ろされたようだ。


 だが俺は大鎌でその一撃を防いだ。ゴブリンロードの顔が歪む。さっきまで小虫程度にしか感じていなかッた俺の変貌を訝しく思ったか。


「大丈夫ダ。すぐオワル。この大鎌でソノクビ、ヲ――」


 そこまで口にした途端、景色が歪んだ。思わず片膝をつく。これは、不味い、血を吸わせ続け過ぎたか。不味い意識が遠のきそうになる。そして何だか喉が乾く。乾き、血がタリナイ、何かが俺ノ中に入ってくる感覚。


――壊せ、殺せ、全てを、狩りつくせ!


 そんな声が脳内に響き渡った。これは、説明にあった、暴走? 理性が既に蝕まれていた? だとして暴走したら俺は一体どうなるんだ? なにか嫌な予感がする。だけど、やらなきゃ、ヤラナケレバ、ヤラレル――


「駄目だよお兄ちゃん!」

「ゴブゥ!」


 その時、俺の左右の耳に同時に声が届いた。見ると俺の右側に紅葉、左側にゴブが、左右から俺に抱きついていた。俺を止めるように。


 そうか、二人は心配して――そう思った時、ふと力が抜け、俺の手から大鎌が滑り落ちた。途端に脱力、そして激痛――


「あ、がッ!?」

 

 あまりの痛みでむしろ叫び声すら上げられず地面に倒れた。当たり前だ。痛覚が麻痺していてもダメージそのものが無くなるわけじゃない。あの大鎌を手放せば当然全ての痛みが一斉に襲いかかる。


 気絶しそうだった。だが舌を噛んで堪えた。その時、見た、ゴブリンロードが鉄槌を振り上げるのを。しまった。スキルを失ったらもう抗うことなんて出来ない。


「に、逃げ、ろ」


 それを口にするのが精一杯だった。だけど間に合わない。このままじゃ、俺は力を振り絞って体を上げ紅葉とゴブを抱きしめた。こんなことでどうにか出来るとは思えないが、それでも俺は――


「全く。何度言わせるつもりですか? 貴方は無茶が過ぎるのですよ」


 聞き覚えのある声がした。同時に俺の前に舞い降りる二人の女性。一人の手には鞭。もう一人の手には刀が握られていた。あぁ、よかったきっとこの二人なら――


「言いたいことは山程ありますが。今はこれを排除するのが先ですね」

「勿論、それが最優先」


 そう。香川さんと天野川の二人ならきっとやってくれるさ――

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