第11話 女剣士の実力
「そろいもそろってふざけたことしやがって!」
仲間が倒れたことで、残ったホスト風の男が逆上し目を血走らせる。だがこちらにはスタンボルトがある――このままいけば、最後の一人も無力化できるはずだ。
「喰らえ!」
俺は引き金を引いた。ボルトは一直線に男の胸元へ――届く寸前、
「パリィ!」
乾いた金属音。男が剣を払い、ボルトは弾かれて路面を転がった。
「まさか、叩き落とすなんて……」
「冒険者を舐めるなよ! 俺は【剣士】だ。油断さえしなきゃ、その程度屁でもねぇ!」
右腕の腕輪でジョブストーンがきらりと光る。
「こうなりゃ二人まとめて斬ってやる! スキル《切れ味抜群》! さらに《強化剣術》!」
肉体ごと淡く発光。殺気が濃くなる。――まずい、もうスタンボルトは残弾がわずかだ。
「覚悟しな!」
男が水平に剣を振り抜いた瞬間、
カッ――と星のような白光。続く一撃音は、空気を裂く風鳴すら残さない。
――次の瞬間、ホスト風の男は天井の蛍光灯に触れそうなほど跳ね上がり、空中で数回転してからアスファルトに叩きつけられた。剣は手からこぼれ、刀身が寂しくカランと鳴る。
俺には斬撃の軌跡すら見えなかった。わずかに遅れて吹き抜けた風だけが、少女の一閃を証明している。
「ば、馬鹿な……お前……何者、の――」
「ただのC級冒険者だ」
少女は刀を鞘に納めながら静かに答えた。峰打ちとはいえ、その速度と威力は人外の域だ。
「C、C級だと!? この歳で……一年でC級に上がった“疾風の”……ぐべっ」
最後まで言い切る前に、少女が攻撃したのか――男の意識は刈り取られ、白目をむいて沈黙した。さっきの一撃もだが、抜くのすら確認出来なかったな。
「――安心しろ、峰打ちだ」
淡々と告げる声にも、僅かな慈悲がにじむ。
「……あなたたち、怪我はない?」
三人を確かめたあと、少女は振り返り俺たちを気遣った。鋭かった眼差しが柔らぎ、モコの高さに屈んで頭を撫でる。
「俺もモコも大丈夫。本当に助かった、ありがとう」
「ワウ!」
モコが前足を上げて元気に返事すると、少女はかすかに口元を緩めた。
「モコ、と言うのね。勇敢だったわ……そして、あなたの援護も見事だった。私は天野川 雫。あなたも冒険者?」
名乗りと同時に尋ねられ、俺は返答に詰まる。
「えっと……あまり活動してない新人みたいなもの、かな」
「そう――別に珍しくないから問題ない。ただ、この連中を捕まえるためにギルドに連絡する必要がある。これから呼ぶけど時間、あ――」
「ごめんなさーーい! 本当に急用があるのでっ! 助けてくれてありがとうーーーー!」
俺はモコを抱え、文字どおり脱兎のごとく走り出した。ギルド職員に素性を聞かれるのはまずい。何しろ冒険者登録などしていないのだ。
背後で雫が軽く目を見開く気配を感じたが、振り返らずに角を曲がる。
「ワウ?」
「悪い、モコ。事情が事情だ」
罪悪感はあるが仕方ない。また会える機会があれば、きちんと礼を言おう。そう心に決めて、俺たちはスーパーでの買い物を済ませ、ダンジョンへ戻った。
トラブルはあったが、午後一には帰還完了と――。