表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/139

第11話 女剣士の実力

「そろいもそろってふざけたことしやがって!」


 仲間が倒れたことで、残ったホスト風の男が逆上し目を血走らせる。だがこちらにはスタンボルトがある――このままいけば、最後の一人も無力化できるはずだ。


「喰らえ!」


 俺は引き金を引いた。ボルトは一直線に男の胸元へ――届く寸前、


「パリィ!」


 乾いた金属音。男が剣を払い、ボルトは弾かれて路面を転がった。


「まさか、叩き落とすなんて……」

「冒険者を舐めるなよ! 俺は【剣士】だ。油断さえしなきゃ、その程度屁でもねぇ!」


 右腕の腕輪でジョブストーンがきらりと光る。


「こうなりゃ二人まとめて斬ってやる! スキル《切れ味抜群》! さらに《強化剣術》!」


 肉体ごと淡く発光。殺気が濃くなる。――まずい、もうスタンボルトは残弾がわずかだ。


「覚悟しな!」


 男が水平に剣を振り抜いた瞬間、


 カッ――と星のような白光。続く一撃音は、空気を裂く風鳴すら残さない。


 ――次の瞬間、ホスト風の男は天井の蛍光灯に触れそうなほど跳ね上がり、空中で数回転してからアスファルトに叩きつけられた。剣は手からこぼれ、刀身が寂しくカランと鳴る。


 俺には斬撃の軌跡すら見えなかった。わずかに遅れて吹き抜けた風だけが、少女の一閃を証明している。


「ば、馬鹿な……お前……何者、の――」

「ただのC級冒険者だ」


 少女は刀を鞘に納めながら静かに答えた。峰打ちとはいえ、その速度と威力は人外の域だ。


「C、C級だと!? この歳で……一年でC級に上がった“疾風の”……ぐべっ」


 最後まで言い切る前に、少女が攻撃したのか――男の意識は刈り取られ、白目をむいて沈黙した。さっきの一撃もだが、抜くのすら確認出来なかったな。


「――安心しろ、峰打ちだ」


 淡々と告げる声にも、僅かな慈悲がにじむ。


「……あなたたち、怪我はない?」


 三人を確かめたあと、少女は振り返り俺たちを気遣った。鋭かった眼差しが柔らぎ、モコの高さに屈んで頭を撫でる。


「俺もモコも大丈夫。本当に助かった、ありがとう」

「ワウ!」


 モコが前足を上げて元気に返事すると、少女はかすかに口元を緩めた。


「モコ、と言うのね。勇敢だったわ……そして、あなたの援護も見事だった。私は天野川(あまのがわ) (しずく)。あなたも冒険者?」


 名乗りと同時に尋ねられ、俺は返答に詰まる。


「えっと……あまり活動してない新人みたいなもの、かな」

「そう――別に珍しくないから問題ない。ただ、この連中を捕まえるためにギルドに連絡する必要がある。これから呼ぶけど時間、あ――」

「ごめんなさーーい! 本当に急用があるのでっ! 助けてくれてありがとうーーーー!」


 俺はモコを抱え、文字どおり脱兎のごとく走り出した。ギルド職員に素性を聞かれるのはまずい。何しろ冒険者登録などしていないのだ。


 背後で雫が軽く目を見開く気配を感じたが、振り返らずに角を曲がる。


「ワウ?」

「悪い、モコ。事情が事情だ」


 罪悪感はあるが仕方ない。また会える機会があれば、きちんと礼を言おう。そう心に決めて、俺たちはスーパーでの買い物を済ませ、ダンジョンへ戻った。


 トラブルはあったが、午後一には帰還完了と――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ