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第10話 降ってきたのは女剣士

「な、なんだこの女? 一体どこから現れた!?」


 モヒカン男が、突如降ってきた少女を見て声を上げる。そりゃあ、頭上から女の子が舞い降りてくれば誰だって驚く。


「そんなことより――さっきから見ていたが、お前たち三人がかりで一人と一匹を相手に何をしている?」


 少女は長い黒髪を月光のように揺らし、真っすぐ俺の前へ。黒の羽織に紺の袴、腰には反りの浅い刀。白い足袋に折れ返った草履の鼻緒。涼しい切れ長の双眸が、凍てつくほどの冷気を帯びて三人を射抜いた。


 年の頃は十八か、せいぜい二十。華奢なのに微塵も揺らがぬ立ち姿が、ただならぬ修練を物語る――まさに “女剣士” と呼ぶにふさわしい。


「何も知らねぇくせにしゃしゃり出てくんな!」

「俺たちはコイツに“先輩”として教育してやってただけだ」


 スキンヘッドが苛立ちを隠さず吐き捨てる。俺を新人冒険者と決めつけ、金を巻き上げるようとしていたが、それを悪いとも思ってないようだ。


「金を脅し取るのが“先輩”の正しい在り方なのか?」

「ワウワウ!」


 俺の問いにモコも吠えて同調。俺の後ろからヒョコンと顔を出す姿がなんとも可愛らしい。


「つまり――冒険者の手本たる者が、ゆすりを働いていると?」


 少女の目が細く光り、静かだが鋭い声で言い放った。



「チッ、面倒だ。まとめて黙らせてやるか」

「へへ、そうこなくちゃ」

「バカな女め。俺ら三人を相手に一人で何ができる?」


 ホスト風の金髪がニヤつきながら、ぬらりと刃を帯びた剣を引き抜く。スキンヘッドは鉄槌を肩に担ぎ、モヒカンは両手にナイフ。下卑た笑みが三つ並ぶ。


 だが肝心の少女は、冷たい湖面のような瞳で一歩も退かない。


 ――彼女に任せきりにはできない。俺はリュックを探り、ホームセンターで買った道具を構えた。


「女とはいえ冒険者なら手加減しねえ。腕の一本や二本、覚悟しとけ!」

「やれやれ、顔はやめろよ。遊べなくなる」


 スキンヘッドが鉄槌を振り上げ、少女めがけて叩きつけようとした瞬間――。


 バシュッ!


 風を裂く音。次いでけたたましい悲鳴。


「ヒギィィィイイイイイイアアアァァ!?」


 スキンヘッドが白目をむいて崩れ落ちた。ボルトの先端から微かな火花と煙が立ち上る。


「――それ、スタンボルト?」


 少女が小さく驚き、俺の手元を見る。


「ああ。護身用に買っといて助かったよ」


 俺は折り畳み式の(クロスボウ)を掲げた。通常の矢ではなく、命中と同時に電流を流す非殺傷ボルト。ダンジョンが溢れ、冒険者が出歩く時代の今、一般人の護身具として合法販売されている。


「てめぇ、ふざけやがって!」


 モヒカンが逆上し、ナイフを投げようと腕を引く。


「ワウワウ!」


 その瞬間、モコが飛び出しモヒカンの足に噛みついた。


「ギャッ! テ、テメェ離れろ!」

「グルゥゥゥゥゥ!」


 痛みに耐えかね、投擲の体勢が崩れる。


「勇敢だぞ、モコ!」


 隙を逃さず俺は再び引き金を引く。放たれたボルトがモヒカンの胴を撃ち抜き、ビリリと電流が走る。


「ぐえぇぇ!」


 悲鳴を残し、モヒカンも地面に転がった。


 残るは金髪のホスト風男ただ一人――。

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