第102話 その存在
健太の咄嗟の判断と紅葉の判断力によりゴブリンを撃退した一行。ここまでは上手く立ち回れていると言えた。
「正直子どもに危険な真似はさせたくないのだけど、紅葉ちゃん私より頼りがいがあるのよね……」
若干気落ち気味に呟く森下。教師としての葛藤もありそうだが、紅葉がいるからこそ助かってる部分もあった。
「でも、私たちも戦えないこともないことがわかったわね」
森下は気を取り直して拳を握りしめた。投石が効いたことが大きかったのだろう。
「でも先生、この石どのぐらいもっていけばいいの?」
「あ、そ、そうね……」
子どもたちに問いかけられ森下が困っていた。確かに投石の為の石を持ったまま移動するのは効率がいいとは言えない。何より持てる量には限度がある。
「ゴブ~」
「え、ちょ、な、何してるの!」
するとゴブが倒れたゴブリンの腰布を次々と外していった。森下が慌てて子どもたちの目を塞ごうとする。
「皆見ちゃ駄目よ! というか貴方、まさか!」
森下が叫ぶが、ゴブは取り外した腰布を持って石の前に向かった。そして腰布に石を詰めて縛ったのである。
「えっと、何してるの?」
「そうか! ブラックジャックだね!」
ゴブの行動に疑問を示す森下だったが、何かに気がついたように健太が叫んだ。
「ぶ、ブラックジャック?」
「うん。あぁやって布に石とかを詰めて扱う武器をそう呼ぶんだよ」
「健太くん、本当よく知ってるわね」
森下が感心した。そしてゴブは石を詰めて先端を縛った布を手に取り振る仕草を見せた。
「あぁやって相手を叩きのめすんだよ先生。これなら皆も持てるよね」
「ぶ、物騒だけど仕方ないわね」
そして子どもたちも含めて腰布に石を詰めてブラックジャックを作成した。とりあえず武器の問題は解決し、更にダンジョンを進む一行。
すると数匹のゴブリンの姿が確認できた。
「何かゴブリンをよく見るようになったわね」
「エンカウント率が上がってるね」
「え、エンカウント?」
健太の発言に首をひねる森下であった。
「早速これの出番だね」
「上手くいくかな?」
「でもやらないと」
「ちょ、子どもたちだけにさせておけないわ」
そして森下と子どもたちが背後からそっとゴブリンに近づいていき――
「エイッ!」
「やぁ!」
「倒れて~!」
森下と子どもたちが背後からブラックジャックを振り下ろした。ゴブリンが悶絶している間に更に連続で振り下ろしボコボコにしていく。
「よし! 上手くいったね」
「うん!」
「これならいけるかも」
「皆凄いよ!」
子どもたちは上手く行ったことに随分と喜んでいたが森下は複雑そうな表情をしていた。
「子どもたちにこんなことさせて本当に大丈夫かしら?」
「今はそんなこと気にしている場合じゃないよ」
「うんうん。郷に入れば郷に従えというもんね」
「ゴブ~」
不安がる森下に健太と紅葉が答えゴブも同調していた。
「その言葉を知ってるのは凄いけど、使い方が微妙に違うような……」
頭を悩ませる森下であったが、今はダンジョンを出るのが先決だと思い直し更に先を進んだ。
順調そうに見えた一行だったが、進んだ先で息を呑むような相手を目にすることとなり。
「な、何よあの大きなの? ゴブリンと全然違うじゃない」
「も、もしかしたらあれって、ホブゴブリン?」
先に見えたのはゴブリンどころか森下をも凌駕する大きさのゴブリンであった。健太はその存在に覚えがあるようだが、その表情は強張っていた――