新しい道
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──新しい道
「カーター。事件は終わったんだね?」
「ああ。終わった。事件は終わった、だ。解決しちゃいない」
港での激戦後にカーターの下をマティルダが訪れた。
「犠牲は無視できないものになってしまった、か」
「この事件では人が死に過ぎている。警官も、ギャングも、誰もかも。この国はもう生死を問わずが法の時代じゃないんだってのに」
「結局のところ、大きな暴力の前には法は無力だと思わない?」
「……そうかもしれないな」
マティルダが言い、カーターがそう力なく頷く。
「誰かがこの国を守るために汚れ仕事をしなければいけない。そうしなければ大勢の何の罪もない人々が死ぬことになる。私はこの事件を通じてそれを理解した気がする」
「だが、暴力に暴力で対応するのは、文明の後退だ。俺たちは法を整備し、秩序を守り、そのことでこの社会を有している。無法の暴力に同じ無法で立ち向かえば、いずれその全てが崩壊することになっちまう」
「だから、公にされない戦争が必要。影の戦争とでも呼ぶべきか。表向きには誰もが無法の暴力なんて支持しない。それが正しいことであり、不法行為は密かに行われなければいけない」
「それがあんたの結論か、マティルダ」
「ええ。そうしなければ大切な人を守ることはできない」
マティルダ・イーストレイクは連邦捜査局を辞職した。
彼女は今では戦略諜報省に移籍し、そこで対テロ作戦にかかわっている。非合法な特殊作戦に関与したとの情報も耳にする。
カーター・マルティネスは今回の事件解決への貢献から昇進し、今も組織犯罪に対する捜査活動に取り組んでいる。彼は今もパシフィックポイントでの一連の事件における裁判に証人として呼ばれることが多々あった。
パシフィックポイント事件。
そう呼ばれる事件において主犯格となったハンニバルという犯罪組織について、表向きに分かっていることは今も少ない。
ただ、マックスとレクシーの名は血と炎で記されている。
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