マーシャル・ロー
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──マーシャル・ロー
戦略諜報省が指揮するシャドー・カンパニーの襲撃を生き延びたマックスとレクシーはパシフィックポイントへと戻っていた。
ホテルからの逃走に利用したヘリは破棄されており、フュージリアーズもパシフィックポイント市内に潜伏している。
「流石に撤退しねえとやばいぞ。戦略諜報省に狙われている」
「連中が何だってんだよ、マックス。あたしたちはボスから西海岸をとってこいと命じられて、ここを支配したじゃないか。今もあたしたちのビジネスは金を生み出している」
「かもな。しかし、パシフィックポイントと心中する気じゃないだろう?」
「そりゃそうだが……」
マックスが指摘するのにレクシーがそう唸る。
「暫くほとぼりを冷まそうぜ。最近は派手にやりすぎた。目を付けられるのも当然って具合にな。戦略諜報省だけでなく、警察の方も出張ってきかねない」
「分かった、分かった。あんたの言うとおりにしよう。弁護士先生に高飛びの準備してもらおうぜ」
「ああ」
マックスはレクシーの言葉に頷き、彼らはコリンの事務所を目指す。
『──連邦捜査局は一連のテロ事件の容疑者を公表しました。容疑者はマックス・キアナ、レクシー・バートレット──』
車のラジオがそう報じるのにマックスがレクシーの方を向いた。
「どうやら遅かったらしいな」
「みたいだ。どうする?」
「何が何でも逃げ切るだけだ。フュージリアーズにも撤退命令を出さねえと」
「オーケー。始めようぜ」
マックスとレクシーはSUVを強引にUターンさせて、撤退準備を始めた。
「空港から逃げるべきだろうな。高速道路は封鎖されたはずだ。封鎖された高速道路を突破するのは難しい」
「空港も封鎖されてるだろ。逃げるだけならもっといいアイディアがある」
「何だよ?」
レクシーがにやりと笑って提案するのにマックスが怪訝そうな顔をした。
「潜水艦だ。ソーコルイ号を使って逃げる」
「なるほど。そいつは悪くないアイディアだ」
レクシーが考えたのは潜水艦で逃亡する計画であった。ソーコルイ号は未だに司法側にも、戦略諜報省側にも押さえられておらず、自由に行動できる状態にある。
「しかし、潜水艦でどこに向かう? 東海岸ってのは恐らく無理だぜ。航続距離が足りないだろう」
「“連邦”だ」
「“連邦”? まさかカルテルを頼るつもりかよ?」
「一時的にさ。戦略諜報省もカルテルとドンパチはしたくないだろう。“連邦”に逃げて、次に東海岸か、もっと安全な場所をに高飛びする」
「ふうむ。カルテルがこっちの弱みに付け込んでこなきゃいいが。連中はビジネスパートナーであって友達じゃない」
「分かってる。乗ってきた潜水艦はカルテルにくれてやるって約束すればいいだろう。カルテルは必死に潜水艦を作ろうしているみたいだしな」
“連邦”のカルテルは“国民連合”にドラッグを密輸するための潜水艦をずっと欲してきた。だが、“国民連合”は軍用の対潜哨戒機を国境警備隊や麻薬取締局に与えて、その試みを阻止してきたのだ。
よって、潜水艦というのはいい交渉材料になるだろう。
「オーケー。じゃあ、我らがビジネスパートナーに連絡しておこう」
「頼むぜ」
マックスは“連邦”のドラッグカルテルである新世代ヴォルフ・カルテルのオリバーに連絡し、潜水艦と国外逃亡の取引を持ち掛けた。
『あんたらを高飛びさせたら、潜水艦をくれるって? マジかよ』
「マジだよ。どうする? 潜水艦の運用が行える人間もセットだ」
『いいだろう。乗った。しかし、こっちまでちゃんと逃げてこいよ』
「もちろんだ」
マックスとオリバーは合意に至り、マックスたちに逃げる先ができた。
「レクシー。向こうは同意した。ずらかろうぜ」
「テレビ、見ろ。不味いことになってるぜ」
「何だ?」
レクシーがモニターを指さすのに、マックスがテレビを覗き込む。
『先ほど州知事は一連のパシフィックポイントにおけるテロ事件に対して州軍の出動を決定しました。パシフィックポイントには一時的に戒厳令が布告され──』
ニュースキャスターがウェスタンガルフ州州軍の出動を報じている。装甲車に乗った兵士たちがパシフィックポイントに入り、検問を設置し、治安作戦に当たっている様子がモニターに映っている。
「おいおい。マジかよ。俺たちをどうこうするためだけに州軍を出すってのか?」
「楽しくなってきたな、ええ?」
マックスが唸り、レクシーが苦笑い。
「どうする? こうなると市街地でドンパチする羽目になるぞ」
「こっそり脱出したいところだが……。売られた喧嘩は無視できない」
「上等だ」
マックスの言葉にレクシーがそれでこそと彼の肩を叩く。
「フュージリアーズどもに準備させよう。派手にかまして港まで突破だ。テロ組織扱いしてくるなら、テロリストらしく暴れてやろう」
「ああ。俺たちはテロリストだ。大暴れしてやろうぜ」
レクシーとマックスはそう言葉を交わした。彼らは州軍が出動しようと、パシフィックポイントで包囲されようと、全く怖気づくことなく戦うことを決意した。
潜伏しているフュージリアーズたちは各地で別々に行動を起こして港を目指すことになり、マックスもレクシーとふたりで武装し、突破を目指す。
「じゃあ、派手にかますか」
レクシーがそう言い、マックスは空挺仕様の軽機関銃を手にしてレクシーが運転するSUVの助手席に乗り込む。
「港まで突破だ。マシューの部隊が途中で合流する」
「やってやろう」
「じゃあ、行くぞ!」
レクシーがSUVのエンジンを唸らせて発車し、港を目指す。
途中の道路には州軍による検問が設置されつつあったが、レクシーは速度を落とすことなく、検問に向けて突き進む。
「止まれ! そこの車両、止まらないか!」
検問にいた兵士たちが声を上げるのに、マックスが軽機関銃を掃射し、兵士たちを薙ぎ払った。兵士たちは慌てて逃げ、レクシーとマックスは検問を強引に突破。
ついにハンニバルとの全面戦争が始まった。
そのことは暗殺に失敗した戦略諜報省にも聞こえており、ある人物にも伝えられていた。その人物とは他でもないハンニバルのボスたるハンターだ。
「あいにくあんたの飼い犬は獰猛すぎて駆除し損ねたよ」
「戦略諜報省も存外脆弱なものだな」
ジョン・ドウが告げるのにハンターはそう言って肩をすくめる。
「しかし、我々がやらなくても他の連中がやってくれるさ」
「約束は守ってくれるんだな?」
「ああ。あんたらがこれから戦略諜報省のために活動してくれるなら、見逃すことを約束する。対テロ戦争ってのは汚れ仕事ばかりだ。そういう業務をあんたらがやってくれるならば万々歳さ」
戦略諜報省はハンニバルを協力者として取り込んでいたのだ。
国内はもちろん海外にも展開するハンニバルを利用するのは、対テロ戦争において非常に有益であるが故に。
「末永く手を結ぼうじゃあないか」
そこにはハンニバルに対する捜査機関の訴追を阻止することも含まれる。
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