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ジャック・タカナシ

……………………


 ──ジャック・タカナシ



「ジャック・タカナシ。移植外科医だ」


 ルーカスから渡された情報。それはハンニバルに雇われている医者ジャック・タカナシについての情報であった。


「こいつがハンニバルの下で臓器密売に関与していた疑惑がある。この男は以前にも移植関係で不正をやって、そのせいで移植学会を追放されている」


「こいつを追えばいいのか」


 カーターがパシフィックポイントオフィスでそう説明するのに、捜査官たちがそう声を上げた。


「ああ。今追うべきはこいつだ。情報源によれば、まだ高飛びはしていない。パシフィックポイント市内にいる。それからこいつはD3ロジスティクスの件で目撃されたジョン・スミスという男と外見が酷似している」


「例の大量死体遺棄絡みの」


「そうだ。その件でも話を聞かなければいけない。とっ捕まえるぞ」


 こうしてジャック・タカナシの捜索が始まった。


 カーターたちはジャックはハンニバルによって匿われていると思われていたが、実際には彼はハンニバルから逃亡中であった。


 というのも、臓器密売の件でこれ以上続行するのか、やめるのかで揉めたためだ。レシピエントの健康と自分たちの身の安全が保障できていないと中止を訴えたジャックは、マックスとレクシーにとって邪魔者となった。


 今やジャックはハンニバルの追手から逃げる羽目になっている。


 ジャックにとって都合がよかったのは、そのマックスとレクシーが今は忙しくて、彼を追いかける時間がなかったこと。


 そんなジャックについての情報が入ったのは、逃走中のジャックの逃走を助けていた人間からのタレコミだった。それもラジカル・サークルのメンバーであり、ラジカル・サークルはハンニバルではなく、警察にタレこんだのだ。


 それはラジカル・サークルが既にハンニバルを見限ったことを意味する。


 カーターたちはSWATを引き連れ、ジャックが潜伏しているモーテルに展開。


「ジャック・タカナシ! 州警察だ! ドアを開けろ!」


 カーターが自動拳銃を手にモーテルの部屋に向けて叫ぶ。


 それから数分後、ドアが開き、両手を上げたジャックが現れた。


「投降する。撃たないでくれ」


 ジャックは疲れたようにそう言い、カーターたちによって拘束された。


 それから彼は連邦捜査局パシフィックポイントオフィスに連行され、そこで事情聴取が行われることとなった。


「司法取引したい」


 弁護士を付けたジャックは真っ先にそう提案する。


「それなら司法取引に値する情報が必要だぞ。ハンニバルについてのな」


「分かっている。それなりに価値のある情報が提供できるだろう」


 ジャックは司法取引の承諾を得たうえでハンニバルの臓器密売について暴露。


 どこでドナーが調達され、レシピエントが手術を受けたか。どうやってレシピエントを集めたか。


 そして何より、マックスとレクシーというふたりのハンニバルの幹部についての情報をカーターたちに与えたのだ。


「マックスとレクシー。こいつらが間違いなくハンニバルの幹部として、パシフィックポイントにおける一連の騒ぎを起こした連中だ」


 ついに明らかになった敵の名前をカーターが告げる。


「両名の似顔絵はできた。すぐに手配しよう」


「ああ。こいつらはこのパシフィックポイントオフィスの襲撃にもかかわっているはずだ。何としても捕まえて、ムショに叩き込んでやろう」


「そうだな。敵を取らないとな」


 連邦捜査局の捜査官たちが頷く。


 ここにいる全員がパシフィックポイントオフィス襲撃で仲間を失っていた。そのためその襲撃を実行しただろうマックスたちを恨む気持ちは強い。


「手配前に空港、港、高速道路の監視を強化しよう。敵は手配されたとしれば、そそくさと高飛びするのは間違いない」


「了解だ。通達しておく」


 こうしてついにマックスとレクシーについて捜査の手が及んだ。


 司法側はマックスとレクシーをパシフィックポイントから逃がすまいと包囲網を形成し、公共交通機関や高速道路は全て一時的な監視対象となった。


「ああ。それからマティルダから何か連絡はあったか?」


「いいや。何もないが」


「そうか」


 できればハンニバルを挙げるときには捜査を共にしたマティルダと一緒にと思ったが、それが叶いそうになく、カーターは小さくため息を吐く。


 マティルダは恐らく戦略諜報省の任務に従事している。彼らは法律など一顧だにしないだろうし、作戦目標は逮捕ではなく暗殺だろう。


 もしかすると、この包囲網がマックスとレクシーを拘束するまえに、戦略諜報省が暗殺を達成するかもしれない。そうカーターは思った。


 しかし、そうではないと知らせるメッセージが届いた。


 カーターのスマートフォンの着信音が鳴り、彼はスマートフォンを手に取る。


「もしもし?」


『カーター? マティルダよ。知らせておきたいことがある』


「マティルダ! どうしたんだ?」


『いいから聞いて』


 マティルダは有無を言わさずにそう言って話しだした。


『戦略諜報省は暗殺に失敗した。ハンニバルの幹部マックスとレクシーのね。彼らは重武装の私兵を引き連れている。逮捕を試みるなら注意して。戦略諜報省の部隊はその私兵を前に敗退したから』


「クソ。悪い知らせだな。こっちでもマックスとレクシーについて掴んだが、こっちにある武器は限られている」


『用心に用心を重ねて慎重に動いて。誰もこれ以上死なせるわけにはいかないの』


「ああ。もちろんだ」


 クソ。マティルダからの連絡はありがたいが、この状況はよくない。


 戦略諜報省の部隊が敗退したというのは、ほぼ“国民連合”の軍が敗北したことを意味する。軍が敗北した相手に警察が敵うのか?


 民兵騒ぎのときだって、結局は州兵が出動してどうにかしたのだ。警察力だけで重武装の軍隊と戦うのは無謀だ。


「州知事に会うぞ」


 カーターは捜査官のひとりにそう言った。


「何のために?」


「これ以上いい連中が死なないようにするためだ」


 それからカーターはウェスタンガルフ州州知事へのアポを取り付けた。


 既にパシフィックポイントにおけるハンニバル包囲は始まっており、もうあまり時間は残されていない。


 全てが始まり、終わる前にカーターはハーバーシティの州知事のオフィスに向かう。


「州警察のカーター・マルティネスだ。州知事にアポがある」


「畏まりました。こちらへどうぞ」


 カーターは州知事のオフィスに通された。


「マルティネス警部! 州警察の優れた警官の訪問を受けるのは光栄だ」


「ありがとうございます」


 州知事はワイバーンの男性で60代ほど。有鱗族の多い西海岸ではワイバーンが州知事になれるほどに有鱗族は力を持っている。


 彼は笑みを浮かべてカーターを出迎え、握手を交わした。


「それで、緊急の相談がしたいそうだが、何かね?」


「我々はこれからテロリストの幹部を拘束することを試みます」


「テロリストか……」


「ええ。ですので、お願いがあります」


 唸る州知事にカーターが告げる。


「州軍をパシフィックポイントに出動させてください」


……………………

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