してやられる
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──してやられる
ハンニバル所有のホテルに猛攻撃を仕掛けるシャドー・カンパニー。
「マックス。ファンが列を作って待ってるぞ」
「物騒なファンどもだな」
ホテルのあちこちに設置された監視カメラの映像を見てレクシーが笑い、マックスは渋い顔をして散弾銃の準備をしていた。
「迎えのヘリが向かっているが、屋上に敵がいる。取り戻すぞ」
「あいよ。一仕事しましょう」
ホテル中層の管理室からマックスとレクシーが出るとフュージリアーズのメンバーがそこに集結していた。
「野郎ども。敵は恐らく戦略諜報省の連中だ。どうやらあたしらはテロ組織に認定されたらしい。首切り役人どもがお出ましだ」
レクシーがそう告げる。
「派手に暴れて死ぬもよし。あたしと一緒に逃げてもよし。好きにしろ」
「おっと。俺たちもついていくぜ、レクシーの姉御。まだパーティは終わってない」
「上等」
フュージリアーズのマシューが言い、レクシーがにやりと笑う。
「じゃあ、トンズラと行きますか」
「屋上だ。屋上を奪還するぞ」
「ああ。返してもらおう」
レクシーとマックスを先頭にフュージリアーズが屋上を目指す。
このとき後方からジョン・ドウたち地上部隊が侵攻しつつあったが、その動きはスマートフォンでマックスが常に把握していた。このホテルの警備システムはネットに接続されており、スマートフォンに連動しているのだ。
「敵の地上部隊が8階を制圧した。そろそろ来やがるぞ」
「歓迎してやろうぜ」
フュージリアーズがホテル内の家具を使ってバリケードを構築し、遮蔽物を利用して敵を待ち構える。既にホテルの照明は落とされており、フュージリアーズも四眼の暗視装置を装備していた。
「敵はカメラに気づいてない。止まっていると思ってるらしい」
「なるほど。警備システムの電源が別だとは思ってないか。この手の仕事に慣れすぎて油断してやがるな」
地下の非常用発電機を破壊したことでシャドー・カンパニーはホテルの電源を全てシャットダウンできたと思っていたが、ホテルの監視カメラなどは別の動力系統で稼働するものだった。
「来るぞ──」
そして、スタングレネードが投擲されるのを回避し、フュージリアーズが応射。
けたたましい銃声がホテルのフロアに響き渡った。
「来いよ! 戦略諜報省の使い走りども!」
マックスが散弾銃から散弾を叩き込み、シャドー・カンパニーの兵士たちが後退する。そこに手榴弾が3発、フュージリアーズによって放り込まれ、悲鳴が上がった。
「流石にパシフィックポイントの有象無象のチンピラどもと同じにはいかないな。連中、訓練されてやがる。長期戦になるとやばいぞ。こっちが皆殺しにされる」
「オーケー。守護天使にお願いだ」
ここでレクシーが無線機を取り出す。
「シュライク・ゼロ・ワン。こっちの建物が見えるか?」
『こちらシュライク・ゼロ・ワン。見える。目標を視認した』
ホテルに接近しつつある攻撃ヘリとレクシーは連絡を取ったのだ。
「こちらのIRストロボは確認できるか?」
『確認できる』
「よろしい。じゃあ、支援要請だ。これからレーザー照射した場所に火力を叩き込め」
『了解。目標を指示せよ』
接近中の攻撃ヘリは“社会主義連合国”時代に開発されたもので、攻撃ヘリとしての高い火力と同時に、装甲と輸送能力を有するハイブリッドだ。
火力は口径30ミリ機関砲と口径70ミリロケット弾、そして空対空ミサイル。全てハンニバルの手で“国民連合”製の武器に換装されている。
これも潜水艦同様にルサルカのコネで手に入れたものだ。
『レーザー照射を確認。デンジャークロース、警戒せよ』
友軍の至近距離に火力を叩き込むことを警告すると、攻撃ヘリは口径30ミリ機関砲でまずはレーザー照射が行われた位置を掃射。
この攻撃ヘリのもうひとつの改造点は前方監視型赤外線装置だ。熱赤外線映像を捉えるセンサーによって夜間の飛行はもちろん目標となる人体の検出も行える。
そんな機体がシャドー・カンパニーを襲った。
「連中、退いていくぞ」
「今のうちに上に向かおう。時間がねえ」
「あいよ」
マックスたちはシャドー・カンパニーが一時撤退した隙に屋上を目指す。
既に屋上に部隊を差し向けており、その部隊が屋上のシャドー・カンパニーを押しつつあった。そこにマックスたちが加わり、さらに猛攻を仕掛ける。
「進め、進め! 押し進め!」
マックスが声を上げて散弾銃を乱射し、フュージリアーズが猛攻。
さらに攻撃ヘリからの支援もあって、ついにマックスたちは屋上に出た。
「何人やられた?」
「3名」
「報復は考えておかないとな」
屋上にこれまでシャドー・カンパニーを攻撃していた攻撃ヘリが着陸し、兵員室の扉が開かれて、受け入れ準備を完了していた。
マックスたちは急いでヘリに乗り込み、脱出を急ぐ。
「ほとぼりが冷めるまで大人しくしておかないとな」
「それもそうだが、仕事は山積みだぜ」
「バカンスも大事だろ」
マックスとレクシーはそんな言葉を交わしながらヘリでホテルを脱出した。
その様子をシャドー・カンパニーのジョン・ドウは見ていた。
「クソ。逃がしたか」
ヘリが飛び去っていくのを見てジョン・ドウが吐き捨てるようにそう言う。
「暗殺は失敗ね」
「だが、幸いにして連中もいろいろと残していった。そいつを漁るさ」
そう、いろいろと証拠は残っていた。
武器やスマートフォン、そして死体。
シャドー・カンパニーはそれらを回収していった。
「あんたにも分析は手伝ってもらうぜ。そのために来てもらったんだ」
「ええ。そのつもり」
ここからは銃を持って戦うシャドー・カンパニーよりマティルダのような捜査官の出番であった。彼女は情報の取得が見込める証拠を適切に選び、最優先で運ばせていく。
「運べ、運べ。情報を得たら、また仕掛けるぞ。連中がくたばるまで付け狙う」
ジョン・ドウはそう指示を出していた。
彼らシャドー・カンパニーはこの証拠を法廷で使うのではなく、次の狩りのために使用するのだ。マックスとレクシーという獲物を狩るための狩りのために。
そのことにマティルダはやややり切れない気持ちになりながらも、攻撃ヘリまで持ち出すハンニバルのことを考えれば妥当かもしれないと思い始めていた。
シャドー・カンパニーも無傷ではないのだ。普通の警察が彼らを相手にした場合、もっと酷い結果になるだろうと。
それがある種の自己弁護であることを自分でも理解しながらも、マティルダはそう思わずにはいられなかった。
仲間が死ぬのはもうたくさんだ。
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