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死体を追って

……………………


 ──死体を追って



 カーターたちはカレッジスクエア地区のとある病院地下にある死体安置所(モルグ)を訪れた。


「連邦捜査局のイーストレイク特別捜査官です。こちらが探してる条件の死体が安置されていると連絡を受けました」


「ああ。連邦捜査局の」


 死体安置所(モルグ)の主は中肉中背のスノーエルフとサウスエルフの混血の監察医、マティルダたちが姿を見せると眼鏡をかけて立ち上がった。


「こっちへどうぞ。問題の死体は奥です」


 そう言って監察医は死体安置所(モルグ)の奥にマティルダたちを案内する。


「これです。身元は判明していますが、まだ遺族が到着していなくて」


 そう言って示されたのはハイエルフの男性の死体だ。恐らくは30代と若い。


「解剖は?」


「事件性があるかと言われると微妙ですし、遺族の許可もないので血液検査だけ。死因は敗血症ですね」


「ふむ」


 カーターが尋ね、監察医はそう答えながら死体にかけられていた防水シーツを外す。


「ほら。ここに膵臓移植の際にできる縫合痕です。臓器移植を受けたはずですよ」


 監察医はあらわになった縫合痕を指さして言う。


「身元は?」


「アラン・ディール。遺族の方が言うには南部の銀行勤めだとか」


「南部の人間?」


「ええ。遺族はこっちに向かっています」


 またしても西海岸の住民ではない人間が、恐らくは臓器移植後に死んでいる。


「この人に何か膵臓の障害などはあったとは遺族は言っていませんでしたか?」


「糖尿病I型だったと聞いています。免疫力も落ちていたみたいですね。ですが、敗血症になったのはそれだけではないでしょう。遺品の中に免疫抑制剤がありましたよ」


「間違いなく移植手術を受けて、それで死んだと思いますか?」


「断言するにはやはり解剖をしなければ」


 監察医はそう言って首を横に振った。


「遺族はいつ到着を?」


「今日の昼過ぎだと言っていましたが」


「じゃあ、そろそろだな。待つよ、先生」


 監察医にカーターはそう提案し、死体安置所(モルグ)で待つことに。


 昼過ぎとなり、暫く経ったとき遺族が現れた。


「アラン・ディールの妻ですが、夫がここに運ばれたと……」


「お待ちください」


 遺族が死体安置所(モルグ)の受付で手続きをして、カーターたちがいるアランの死体が寝かされている場所へとやってきた。


「アラン・ディールさんのご遺族ですね。州警察のマルティネスです」


「州警察……?」


 遺族はまず警察がいることに戸惑っていた。


「アランさんは糖尿病だったとか?」


「ええ。夫の糖尿病は先天性のものです。子供のころからずっとインスリンや食事制限などを受けていました。やはり今回のことは糖尿病が原因なのでしょうか?」


「いえ。まだ結論は出ておらず、我々は別の可能性を考えています。アランさんは臓器移植は希望されてしましたか?」


「ええ。膵臓移植の待機リストに名前がありますが……」


「直近で移植の予定はありましたか?」


「いいえ。まだかなり待たなければいけないと言われていました」


 遺族はマティルダの質問に困惑した様子で答える。


「ショックなことかもしれませんが、よく聞いてください。アレンさんには臓器移植の痕跡らしきものがあり、死因は敗血症です。我々は非合法な臓器移植が行われ、その術後の不備からアランさんが死亡したとみています」


「夫が犯罪者だと言うのですか!?」


「いいえ。犯罪の犠牲者です。犯人を捕まえなければいけません」


 動揺する遺族にカーターがそう諭した。


「まずは解剖に同意いただけませんか? そうすれば正確な死因も分かります。我々が追っている事件との繋がりも」


「解剖は……」


「お願いします」


 解剖を嫌がる遺族は少なくない。死者が解剖に苦痛を覚えることはないと理性が理解していても、感情はそうはいかないのだ。


 亡くなった家族が可哀そうだと思い、解剖を拒否する遺族がいるし、また純粋に宗教的な理由で拒否する遺族もいる。


 そして、ウェスタンガルフ州では遺族の許可なく行われた解剖は違法であり、裁判の証拠などとしても使用できない。


「やはりだめです。解剖は受け入れられません」


「アランさんは殺されたかもしれないとしてもですか?」


「殺された? 夫は病気で死んだと……」


「間違った手術で殺されたのです。アランさんの病気に付け入り、不法に摘出された臓器を押し付けた人間がいます。もし、アランさんが適切な手術を受けられていれば、このような結果には──」


「私たちがどれだけ移植を待っていたと思っているのですか……!?」


 マティルダが説得しようとするのに遺族がそう叫んだ。


「適切な手術が受けれたかのように言いますが、私たちはずっとずっと待っていても受けられずに夫の病気は悪化し続けていたのです。夫が不法と知っても臓器移植を受けた気持ちはよく分かります」


 遺族のその訴えにマティルダが言葉をなくし、カーターは考え込む。


「ええ。その通りでしょう。ですが、その助かりたいという思いを利用しながら、その思いを踏みにじった人間がいるのに、それを逃がしてもいいのですか? その人間がまたアランさんのような人間に付け入るとしても?」


「それは……」


「お願いです。解剖を許してくだされば俺たちが犯人を捕まえ、法の裁きを受けさせます。そうすることをアランさんも望んでいると思いますよ」


 今度は遺族が黙り込んで考え始めた。


「……本当に犯人は捕まると思いますか?」


「手を尽くします」


 遺族は深く息を吸って吐くと、マティルダたちを見据えた。


「では、解剖をお願いします。死因について分かったら教えてください」


「もちろんです」


 こうして遺族の許可が得られ、アランの死体は監察医によって解剖されることに。


「解剖の結果、分かったことがある。やはりアラン・ディールは非合法な膵臓移植を受けていたということ。そして、その術後の処置に問題があったことで死亡したということ。先に死亡したリリー・クレイグの件と同じだ」


 アランもまたリリーと同じように、どこかで合法ではない臓器移植を受け、その手術に問題があったことで敗血症を引き起こし、それが死因となっている。


「被害者のスマートフォンはもう調べた?」


「遺族の許可が得られたので、科学捜査が調べている。まだ結果は出ていないが、もし位置情報にパレス・オブ・オーシャンが記録されていれば、俺たちはパレス・オブ・オーシャンに踏み込む令状を手にできる」


「オーケー。では、結果を待ちましょう」


 そして、6時間後にアランのスマートフォンを調べていた州警察の科学捜査から連絡があり、スマートフォンの位置情報にパレス・オブ・オーシャンが記録されていることが伝えられた。


 カーターはすぐさま裁判所にパレス・オブ・オーシャンへの捜査令状を申請し、それは許可された。


……………………

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新連載連載中です! 「人類滅亡の日 ~魔王軍強すぎて勇者でもどうにもなりません!~」 応援よろしくおねがいします!
― 新着の感想 ―
[一言] 元々は問題視されてなかったろうに、ホテルに場所移してから急に敗血症になるようになったのか…?
[一言] これはあれかな。一回行ったのが致命的だったかどうかかな。
感想一覧
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