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ミリシア

……………………


 ──ミリシア



 “国民連合”内には民兵(ミリシア)という組織が存在する。


 かつて独立戦争を戦ったときの名残で、武装する権利を許された“国民連合”の人間が組織している武装組織だ。


 確かに憲法においてその存在は認められているが、だからと言ってまともな組織というわけでもない。民兵組織のほとんどが反連邦主義であったり、人種差別主義であったりと、病的なイデオロギーを有する。


 マックスたちが接触した民兵『ローン・イーグル旅団』もそんな民兵だ。


「民兵って連中はどうしてこんな田舎が好きかね……」


「ゾンビアポカリプスに備えているんだろ。街中はゾンビだらけになるからな」


「マジで受ける、それ」


 マックスが言うのにレクシーがけらけらと笑う。


 彼らはSUVでローン・イーグル旅団が拠点を構える場所に向かっていた。そこは山奥であり、まともな農園すらない田舎だった。


「まあ、まともな理由なら連中が非合法な武器を隠し持って、玩具みたいにそいつで遊んでいたとしても、すぐには見つからないようにするためだろうな」


「今は戦略諜報省も国土安全保障省もドローンをブンブン飛ばしているから、大した意味はないだろうにな」


「それもそうだが、前に会った民兵は榴弾砲まで隠し持ってたぜ」


「やべえな」


 マックスとレクシーがそんな会話をしながら車を走らせ、やがて『神に祝福されたものたちの街“ディバイン・ピーク”』という看板が見えてくる。


「神に祝福されているとさ」


「結構な話だ」


 SUVは民家が数軒と商店が一軒立つだけの街に入った。


「おい」


 すると、すぐに軍用の自動小銃で武装し、カーゴパンツとジャージの上着にタクティカルベストという出で立ちのサウスエルフの男が近づいてきた。


「よそ者だな? どこから来た?」


「東部だ、同胞」


「ああ。見たところは同胞のようだな」


 事前にローン・イーグル旅団がサウスエルフの純血種至上主義のイデオロギーを有していることは調べてある。そして、マックスもレクシーも純血のサウスエルフだ。


「あんたはローン・イーグル旅団の?」


「そうだとしたら?」


「あんたらのボスにアポがある。旅団長のハリソン・シュナイダーにだ」


「旅団長にか? 聞いてみる」


 男はそういうと無線機で連絡を取り始めた。


「オーケー。確かにアポがあるそうだ。来いよ、案内する」


「頼む」


 男は商店の駐車場に止めてあった軍用四輪駆動車に乗り込み、マックスたちのSUVを先導してディバイン・ピークの街を進む。


 男の軍用四輪駆動車は鉄条網で守られた壁がある、まるで陸軍の基地のような施設へと入っていき、マックスもそれに続いた。


「ようこそ、ディバイン・ピーク防衛基地へ」


「凄いな、こいつは」


 陸軍の基地のようだと言ったが、それ以上だ。


 基地内にはレーダーを備えた管制塔があり、軍用ヘリコプター4機と小型機が滑走路に面して駐機してある。


 さらに土嚢で機関銃陣地が作られ、自爆テロ防止用のコンクリート壁が並ぶ。そして、その奥の山肌の中に基地は続いているようであった。


「旅団長はこっちだ」


 民兵の男に案内され、SUVを降りたマックスとレクシーは山肌をくりぬいて作られた基地の中へと入った。間違いなく核シェルターだろう隔壁を抜け、中に入ったマックスたちの前にその男がいた。


「やあ。君たちがマックスとレクシーか?」


「イエス。あんたは旅団長のハリソン?」


 マックスたちを出迎えたのはサウスエルフの男性。初老に入ったころで、頭はソフトモヒカンにしており、上下ともに迷彩服だ。腰のホルスターには44口径のレボルバーが差してあるのが見える。


「そうだ。私たちに用事があるそうだね。ビジネスだとか?」


「ビジネスと言ったが、ある人間にとってこれは戦争だ」


「ほう」


 マックスが言うのにハリソンが顎をさする。


「パシフィックポイントで何が起きているか、把握しているか?」


「……ギャング同士の抗争が起きていると聞いたが」


「銃を乱射しているギャングはパンサー・ギャングと呼ばれる連中だ。豹人族だよ。“連邦”から不法入国した連中だ」


「不法入国者はまともに取り締まられていない。我々も国境のパトロールなどを行っているが、昔ほど国境警備隊は我々に友好的ではない」


 昔はドラッグクライシスの折に国境警備隊の任務を補助する目的で民兵が動員された。その際、民兵は不法移民を殺しまくって悪名を響かせている。


「パシフィックポイントでは豹人族の()()()()()によって民間人に犠牲が出ている。一般的な国を愛する市民が、不法入国した豹人族によって殺されているんだ」


 そう言ってマックスは市警が撮影したオブシディアンによって殺害されたサウスエルフの若者の写真をローン・イーグル旅団の民兵たちに見せる。


「戦争とはこういうことか」


「不法移民のクズどもめ」


 ハリソンがそういうと豹人族の不法移民を罵る罵声と差別用語のささやき基地内に広がった。民兵たちは怒りを燃やしつつある。


「我々にどのような役割を求める?」


「不法移民どもに鉄槌を下したい。正義の鉄槌だ。俺たちはあんたらを助け、あんたらは戦う。そういうことを持ち掛けたい」


「助けるとは具体的に?」


「司法からの追求を阻止する。腐った連邦政府は不法移民がどれだけクズだろうと射殺していいとは認めていない。だろ?」


「忌々しいがその通りだ」


 “国民連合”のいかなる連邦法も、州法も、相手が犯罪者だからと言って好き放題に射殺していいとは認めていない。


「俺たちにはプランがある。こちらがいい具合に準備を行うので、それに乗ってほしい。そうすれば正義は成され、悪党以外の誰も死なず、刑務所にも放り込まれない」


「聞かせてもらおう」


「オーケー。まずは最初に──」


 マックスはハリソンたちに彼の計画を話した。どのようにしてパシフィックポイントに民兵であるローン・イーグル旅団を展開させるかという計画だ。


 その計画の内容をハリソンたちは静かに聞いていた。


「と、こんな具合だ」


「確かにそれならば我々は正義の側に常に立ち続けることになるだろう。悪くないアイディアだと思う。だが、実際に実行可能なのか?」


「可能だ。任せてくれ。そっちは悪党を撃ち殺すことに専念してくれればいい」


「分かった。では、準備が出来たら教えてくれ」


「了解だ、司令官」


 ハリソンは承諾し、マックスたちは一度基地から去る。


「あの連中、人を撃ちたくてうずうずしている感じだったな」


「ああ。そういう連中には鬱憤を思う存分晴らしてもらおうじゃないか。暴れ回ってもらって、パシフィックポイントを戦場にしてもらおう」


「そうすりゃ司法も追及のしょうがないな」


「まさにだ」


 レクシーとマックスはそう言って笑い、彼らの作戦を実行した。


 それは大きな犠牲のあるものであった。


 彼らではなく、無辜の市民の犠牲だ。


……………………

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