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ブルータス

……………………


 ──ブルータス



 マックスとレクシーが予想したようにことは動いた。


 ジョセフの部下である軍人たちは、プロ意識が欠如したジョセフから離反しつつある。しかし、困ったことに組織内でのジョセフの影響力が完全に消滅したわけでもない。その上、組織は今攻撃されている。


 住み慣れた我が家はイカれた父親が銃を持って立て籠もっており、おまけに火事と洪水が同時に来たというわけだ。


 では、どうするのか?


「連中は哀れに身売りするしかなくなる」


 マックスがタバコを片手にそういう。


「そう、自分たちが信頼できる連中だけを連れて家から逃げる。あたしたちはそういう哀れな連中を迎えてやるのさ」


「そして、残りカスになったジョセフのルサルカを乗っ取り、ルサルカを正式に俺たちのビジネスにする」


「イエス。かくしてあたしたちは西部におけるデカい犯罪インフラを入手だ」


 マックスたちの計画は彼らが述べた通りだ。


 彼らはルサルカが持っているインフラをいただきたい。そのためには抗争で彼らを潰すわけにはいかない。


 では、どうするか。ボスであるジョセフと部下の間に亀裂を生じさせ、分裂させるのだ。分裂した片側をまず無傷で手に入れ、次にもう片方をいたぶりながら併合する。


 そうすることで完全に無傷とはいかずとも、ルサルカのインフラは手に入る。


「連中、そろそろ反応しそうか?」


「聞いてみよう」


 山ほど用意したスマートフォンのひとつからレクシーがルサルカのナンバー・ツーであるディミトリに電話をかける。通話の際には変声アプリを使用するような設定だ。そして、3回のコールの後、相手が電話を取った。


『ディミトリだ』


「ディミトリ。こっちからのメッセージは見たな? そろそろ決断してもらおう」


『分かっている。どうすればそっちに付くと示せる?』


「そうだな。あんたひとりで、こっちが指定する場所に来てもらおう。そこでじっくりと話し合いをしないか? 移籍についてあんたも確認したいことがあるだろ?」


『指定した場所に行った途端、チャーリーやサムみたいな目に遭わない保証は?』


「そんな贅沢なものはない。あんたはどのみちこっちに移籍しなきゃ、そのまま狂ったボスと心中だぜ?」


『オーケー。降参だ。場所を指定しろ』


 ディミトリがそう取引に応じた。


「ハーバート公園の傍にあるコーヒーチェーン店まで来い。今日の18時きっかりだ」


『正気か? そんなところで取引を?』


「いいから来い。いいな」


『クソ。分かった』


 そして、ディミトリとの電話は切れた。


「さて、では我らが友人を出迎えに行こうぜ」


「ああ。そうしよう」


 マックスたちは動きだし、彼らは自分たちが指定したコーヒーチェーン店に向かう。


 そのコーヒーチェーン店は公園の近くにあり、公園を目当てにやってきた人間や近くのオフィスからコーヒー休憩にやってきた人間で、そこそこ繁盛していた。


 フュージリアーズのメンバーが周辺に配置され、狙撃銃で周囲を見張る中、マックスとレクシーはコーヒーチェーン店に入る。


 安さと種類の豊富さが売りのコーヒーチェーン店の、そこそこ飲めるカプチーノを手にマックスたちはディミトリの到着を待った。


『目標接近。徒歩でコーヒーチェーン店に向かっている』


 ここでフュージリアーズのメンバーから連絡が入った。


「やつはひとりか?」


『ひとりだ。他には確認できない』


「オーケー。ここに来て俺たちに歯向かおうってほど馬鹿じゃないようだ」


 インカムでやり取りしながらマックスたちはディミトリの到着を待つ。


 やがてディミトリはコーヒーチェーン店に到着し、マックスたちを探すように周囲を見渡し始めた。そこでマックスたちは密かにディミトリに近づき、後ろから肩を叩く。


「動くな。盗聴器の類は?」


「ない。盗聴なんてことをして困るのは私の方だ」


「オーケー。一応確認しよう」


 マックスはディミトリをトイレに連れていき、そこでボディチェックする。


「クリアだ。銃は預かっておく」


「満足したか?」


「本題はこれからだ。来い」


 そして、マックスたちはディミトリをコーヒーチェーン店から連れ出すと、通りに停めてあったSUVに乗せ、車を出した。


「どこに行くんだ?」


「黙って乗ってろ」


 マックスは車を運転し、郊外まで走らせる。緑豊かな郊外を暫く走って、農地が広がるばかりの広大な農園にマックスたちは入った。


 そこでマックスが車を止める。


「さて、青空の下で楽しく話し合おうぜ」


「考えたな。ここなら盗み聞きの危険性はほとんどない」


 レクシーがにやりと笑い、ディミトリが唸る。


 最寄りの人がいる場所までは十数キロだ。周りには農地しかなく、ここで彼らを盗聴しようと近づく人間がいればすぐに分かる。


「そういうこった。で、移籍には同意しているんだな?」


「そのつもりだ。私は何をすればいい?」


「他にもまともな頭の連中を連れて、ルサルカを出ろ。まともなルサルカとイカれたジョセフのルサルカを分離する」


「それならば私に同意する同志は多いだろう」


「結構。そこからはあたしたちに任せておけ。残ったルサルカも回収しておく。そこからお前たちに任せたいのは、ジョセフを殺すことだけだ」


「我々がジョセフを殺すことの意味は?」


「あたしたちはあくまであんたたちを助けただけというアリバイ作り」


 ここでレクシーたちがジョセフを殺せば、レクシーたちによる組織の乗っ取りは明白になる。そのことに不満を覚えるルサルカの構成員は少なくあるまい。


 だから、あくまで身内の争いとしてディミトリたちにジョセフを殺してもらい、ディミトリたちには自主的にハンニバルに下ったことにしておきたい。


「お前たちの攻撃のせいではなく、我々の裏切りによってルサルカは割れたということにしておきたいのか。悪趣味な連中だ」


「その悪趣味な連中があんたらのボスになるんだ。言葉には気を付けろ」


「ふん。それで、地位を保証してくれるということだったが?」


「ああ。ルサルカそのものは私たちの下部組織になってもらうが、ルサルカにおける地位はくれてやる。約束通りナンバー・ワンの地位だ。あんたが努力すれば、もっと上に登れるだろうがね」


「どんな組織だろうと外様は歓迎されないだろう」


 ディミトリはそう愚痴るように呟いた。


「あんたは今キャリアを心配しているような場合じゃないだろ。重要なのは生き残りだ。死んだらキャリアもくそもない。そして、生き残りたければジョセフを裏切るしかない。分かっているはずだ」


「ああ。分かっている。いつ行動を起こせばいい?」


「可能な限り早く。裏切る幹部とジョセフの側に付く幹部を見分けておきたい。こっちが行動しやすいように、な」


 ジョセフに付いた側はレクシーたちが消すことになる。


「最後に教えてくれないか。お前たちは何者だ?」


「知る必要はない。上の連中とでも上司とでも呼べばいい」


「クソ」


 ディミトリはそう悪態をついたのちに再びSUVに乗せられ、パシフィックポイントへと戻された。



 そして、裏切りが始まる。



……………………

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