終幕!そして、永遠に!?
「太陽様!太陽様!」
思い切り、体を揺さ振られて、
俺は闇の中から、目覚めた。
重い瞼を開けると、眩しい照明の光と……………………俺の顔が飛び込んできた。
確かに…昨日までの男の俺の顔だ。
「お嬢様…」
猫沢が、俺のそばにいる。
「もういいわ」
女口調で、俺が猫沢に命じると、
「はっ」
猫沢は頭を下げ……おもむろに、注射器のようなものを取出し…
目覚めたばかりの俺に、針先を近付けた………。
「太陽様!太陽様!」
次に目覚めた時は、女の俺がいた。
女の俺………つまり、お嬢様が……いたのだ。
俺ははっとして、全身を確認しょうとしたが…
また椅子に縛り付けられており、身動きが取れない。
だけど……確認はできた。
俺は、俺に戻っていたのだ。
「綾瀬太陽…」
俺の後ろから、真田が現れた。
俺の横に立ち、人差し指で眼鏡を上げると、鋭い目で、俺を見下ろし、
「もとの体に戻った…気分はどうだ?」
「や、やっぱり…戻ったのか…」
俺の目に、涙が少し溢れた。状況はよくないけど、もとに戻れたことは、素直に嬉しい。
「太陽様…」
俺の前にいたお嬢様が、一歩俺に近づいてきた。
俺は、息を飲んだ。
茉莉は、祈るように両手をあわせると、
「如何でしたか?わたくしを体験された…ご感想は?」
「た、体験?」
俺は、意味がわからない。
茉莉は、両目をうるうるさせ、
「駄目でした?」
「だ、駄目って………?」
「あなたを愛する女の!すべてを理解して、頂くために!わたくしは、あなた様に、わたくしの体をおかししたのですか?」
茉莉は、頬を赤らめ、身をよじると、
「わたくしのすべてを、ごらんになられましたか………きゃ!」
妙に興奮している茉莉に、変わって…真田が言葉を続けた。
「つまり…お前は、お嬢様と精神だけを入れかえ…お嬢様が、どういう暮らしをしているか…体験させて頂いたということだ」
「精神を入れかえる?ばかな!そんなこと…」
「開八神財団の科学技術なら、可能だ」
猫沢は、いつのメイド姿で頷いた。
「そんな…」
まだ信じられない俺に、
「しばらく…お嬢様の体の中にいたんだから…理解できるはずだ」
真田は、俺を見た。
確かに…そうだ…俺は、女になっていた。
「太陽様…」
茉莉は、考え込んでいる俺の前に跪き、
「あなた様は…あたしのすべてを知ってしまいました…もう…わたくしは、あなた様のもの…。そして、あなた様は、わたくしのもの!」
茉莉は立ち上がり、両手を広げ、一回転した。
「な!」
唖然とする俺に、いつのまにか後ろに回った猫沢が、頭の後ろに、銃口を突き付けた。
「お前に…選択する権利はない。お前は知りすぎた」
猫沢の冷たい口調と、鉄の感覚に…僕は震えながら、頷いた。
「よかったですわ…。わたくし…初恋は、絶対叶えたかったんですもの」
茉莉は、満面の笑みを浮かべた。
「お前に、一目惚れした…お嬢様は、お前にすべてを知って貰う為に…1日、体を交換したのだ」
真田は人差し指で、また眼鏡を上げた。
「お前は…もう逃げられない…。無駄なことだ。家にも、帰れない」
猫沢によって、椅子から解放された俺は、
真田に、没収されていた携帯を突き付けられ…家に電話するように促された。
仕方なく、電話をかけた…俺は愕然とした。
着信拒否になっていた。
「息子を…着拒否だと!?」
真田は別の携帯を渡す。
かかった。
「オカン…!?」
電話に出たオカンは、俺の声を聞くと、
「あんたとは、親子の縁を切ったはずよ!」
と言って、一方的に切られ…それから、何度かけても、電話はつながることはなかった。
「お前が…お嬢様である間…お嬢様が、お前だったのだ」
真田の言葉に、俺は目を見開きながら、茉莉を見た。
「何をしたんだ…」
たった1日で…。
「お前は…学校も退学になった…」
「ええ!?」
「お嬢様を舐めるな」
俺の目の前で、無邪気に回り続ける茉莉の…恐ろしさに、俺は背筋に悪寒が走った。
俺は何とか…気を取り直し、
真田を睨むと、
「俺が…殺人を犯したと、どうして…最初に、嘘をついた!」
真田はちらりと、茉莉を見てから、軽くため息をつくと、
「死ぬ程…愛してるという…メッセージらしい…」
「はあ?」
何もかもが…そう何もかもが、俺の想像を越え…贖えないことと理解した。
そして、俺は仕方なく…覚悟した。
「おんどりゃ〜あ!何もんじゃあ!」
次の日、純一郎にメンチを切られながら…俺は、お嬢様が通う学園に、編入することになった。
窓の向こうからは、剣じいに狙われながら…。
「太陽様!」
茉莉は、1日中…隣に座り…腕を絡めてくる。
この奇妙な物語は、いつのまで続くのだろうか…。
多分…終わらない。
俺に戻っても、教室内の白い目は…変わらなかった。
「太陽様…愛しておりますわ」
茉莉は、さらに抱きついてくる。
「お嬢様ああ!」
純一郎達取り巻きが、号泣し…、
俺の座る机に、小さな穴が開いた。
「どうなるんだろ…」
俺の未来は………。
「何いい!」
校長室で、猫に囲まれながら、溝口は椅子から立ち上がった。
「お嬢に…恋人ができただとお!」
その報告を、猫沢からきいた溝口は…興奮気味に、全身を震わせて、大笑いした。そして、前に立つ猫沢を指差し、
「ターゲット変更!猫田教頭!殺し屋の出前表を用意したまえ!」
「かしこまりました」
猫沢は、慇懃無礼に頭を下げた。
下げながら、にやりと口元を緩めた。
さらなる災難が始まることを…俺は、まだ知らない。
「太陽様!愛しておりますわ」
End。