じょ〜まくぅ!
まあ…災難ってやつは、どこにでもある。
道の小石に躓いただけなのに、塀に当たって、大怪我とか…。
でもさ…
いきなり、殺人はないよな。
真っ暗な部屋の真ん中で、僕は椅子に座らされて、後ろ手に縛られていた。
なぜか、俺にだけ照明があたり、
目の前の暗闇から、突き出された書類を見せられていた。
「これが…あなたに殺されたお嬢様の遺言書です」
男の表情はわからないが、眼鏡をかけてるらしく、
レンズだけが反射していた。
「ちょっと待て!俺は、殺してくれて言われたが、殺してはいない!」
俺の叫びに、男はフッと笑うと、人差し指で眼鏡を上げた。
「無駄です!証拠がありますから!」
「証拠!?」
「そうです!証拠、オープン!」
男は指を鳴らすと、さっと横に移動した。
すると、僕の目の前に、スクリーンが降りて来た。
画面に、岩に打ち付ける波が現れ、
「近日公開!」
映画の予告編みたいなのが、流れ始める。
「時間が無駄だ!飛ばします」
男は、リモコンを取出し、早送りする。
すると、一気に僕が映り、少女が映り……速すぎて、わからない。
END……と画面に出て、
部屋は暗闇に戻る。
「これが、証拠のVTRです」
男は髪をかきあげた。
「わ、わかるか!」
「何?」
男は眼鏡の奥から、鋭い眼光で睨んだ。
俺はびびりながらも、言い返した。
「速すぎてわかるか!」
「仕方がないだろ…普通に流したら、二時間はかかるが…いいのか?」
男はやれやれと…ため息をついた。
「二時間も話した記憶は、ないぞ」
男は、ちらっと横目で、反論する俺を見て、
「ほとんどは、回想だ」
視線を外した。
「いらないだろ」
男はまたちらっと、俺を見て、
「無駄なことを…」
ゆっくりと、後ろを振り向くと、
顎に手をかけて、
男はため息をつくと、
後ろに向かって、
言った……。
「スタッフ〜ウ、スタッフ〜ウ」
すると…後ろから、手が伸びてきて、
一枚のディスクを、男に渡す。
男は摘むように、ディスクを掴むと、
闇に差し込んだ。
すると、再び……始まる。
「あたしを殺して下さい」
少女の言葉。
「え?」
僕のアップが映り、
眼鏡をかけた黒いスーツ姿の男の……レンズが光る。
そして、
眼鏡を人差し指で上げ、
ゆっくりとその指を、前に突き出す。
「犯人は…」
少女の驚く顔。
「お前だ」
俺の顔が映った。
しばしの間の後、
男はため息をつき、
「わかったか?」
「わかるか!」
俺は叫んだ。
「どう見ても、編集してるだろ」
男は肩をすくめると、
「また無駄な時間を過ごすのか….…これですますぞ↓↓↓」
ある日、1人の冴えない少年は、1人の少女に告白される!
あたしを殺して下さい。驚く少年。
だけど…少女は告げる。
あたしが死んでも、あなたがあたしになる。もっとあたしのことをしてほしいから。
かくして、冴えない少年は、少女を殺し、少女になったのである。
この物語は、冴えない少年が、主人公の少女を殺した癖に、生き続ける物語である!
「わかったか?」
男は、俺の方を見た。
「わかるか!それに、俺はやってない!」
「それでも、お前はやっている!」
男は、リモコンを右の闇に向けた。
すると、部屋に明かりがついた。
その瞬間、俺は唖然とした。
近いと思っていたスクリーンは、遥か向こうにあった。
画面が大きくて、真っ暗であった為、近くに思ったのだ。
見たこともない広さに、説明できない調度品。
部屋の迫力に圧倒されている僕に、男は鼻を鳴らした。
「今日から…この部屋は、お前のものだ」
「お、俺の!?」
目を丸くする俺に、男は頭を抱え、首を横に振った。
「わたくし…もしくは、私…百歩譲って、あたしだ」
男が指を鳴らすと、空中から鏡が降りてきて、椅子に縛られた俺が映る。
その姿に、俺は唖然となった。
「な…な……何いい!」
そこに映っているのは、
俺に殺して下さいと言った…少女だった。
「綾瀬太陽…。お前は今日から、開八神茉莉となり、生活を送ることとなる」
男は人差し指で、眼鏡を上げると、
「私は、お前の親衛隊隊長兼、側役の真田信芳。そして、お前の後ろにいるのは…」
いつのまにか、僕の後ろにメイド姿の女がいた。
女は、僕の縄を解いた。
「お前のお世話をする…猫沢巫女だ」
猫沢は、頭を下げた。
俺は自由になると、自分の体を確認した。
「柔らかい…」
驚く俺に、真田は言った。
「お前の体は…茉莉お嬢様に、そっくり作りかえている。まあ〜作り物であるが〜お嬢様の体には、変わりない」
俺の後頭部に、冷たいものが突き付けられた。
「傷つけた場合…殺す」
それは、銃口だった。
後ろを向くと、無表情の猫沢が、拳銃を向けていた。
「ははは……」
俺は、笑うしかなかった。