マイウな関係
少しエッチな描写や暴力的なシーンを想わせる場面が在ります。また人が転落するシーンなども出て来ますので、内容的に苦手な方は御注意下さい。
筆者
ある晴れた昼下がりの事である。僕は自宅の台所で熱心に戸棚や冷蔵庫を物食して、在らん限りの調味料を食卓に並らべている。
塩、砂糖、ソース、醤油、味醂、酢、唐辛子、わさび、生姜、にんにく、胡椒などである。サフランやナツメグなどもあるが、日頃料理をする習慣の無い僕には何なのかの区別はつかない。
そんな僕が何でこんな事をしているかと言うと、急に料理愛に目覚めた訳でも消費期限を確認しようとしている訳でも無かった。どちらかと言えば、これから僕がしようとしている事には料理は一切関係無いし、期限が切れていようが知った事じゃない。
いや、ひょっとしたらむしろ期限切れの方が効果があったりするかも知れないのだ。この"かも知れない"という響きがそもそも怪しかったりするのだが、こればかりはやってみないと判らない。
そう、僕が今からしようとしている事は常識のある人ならたぶんやらない事だ。けど僕は少しだけワクワクしている。
ほんのつまらない思いつきだけど、暇な僕には割と重要なのである。僕は戸棚に入っていた大きめの透明なガラスボウルを取り出して来ると、その中に適量ずつの調味料を合わせながら、ノートにその配合を記し始めた。
窓の格子を通して射し込む陽射がとても眩しかったのを覚えている。
僕は25歳無職である。地方の三流と呼ばれた大学を何とか現役で合格し、何をするでも無く、只ひたすらに無為に過ごした。
特にこれといった目的も無く、ただまじめにやり過ごし、学業にそれほど身をいれる事も無かったので、成績は常に中の下。ギリギリで単位取得を果たし、卒業するとこれまた聞いた事も無かった中小企業に就職した。
何とか怠惰な僕でも三年間勤め上げられたのは、優しい同期の女の子に惹かれていたからと言うべきだろう。気立てが良く、親切な彼女は良く僕を助けてくれた。
でもそんな彼女にある日結婚話しが持ち上がっている事を知り、僕はショックを受けて仕事に身が入らなくなった。やがて彼女は円満退社という形で会社を去り、僕は失意の内にやる気が無くなり、依願退職したという訳だ。
そう、僕は今、無職で月に一度はハローワークに通っている身の上である。
そんな僕だから今出来る事…などと語ると超絶、恰好良く聞こえるかも知れないが、やろうとしている事はかなりデタラメである。
実は僕は子供の頃に読んだ児童小説を想い出し、その再現を試みようとしているのだ。その本の題名はもはや過去の遠い記憶の彼方に忘れて来てしまっているが、内容はだいたいこんなだ。
『少年が自宅にある調味料を混ぜ合わせて、少し舐めてみたら、何と透明人間となって、色々と面白可笑しい悪戯が出来てしまう。でも何らかのトラブルでせっかく作った透明薬を落としてしまい、もう一度作り直すも二度と透明にはなれなかった。』とかそんな内容の話しだったはずだ。
"はずだ"というところでお判りのように、僕自身も結末を全くといって憶えていないのだ。要はこんな歳にもなってお恥しい限りではあるが、暇を持て余した僕はその再現を狙って、今懸命に調味料をかき集めて、ガラスボウルで混ぜ合わせる実験を行っているのだ。
なぜ適量を量り、ノートにわざわざ書き留めているのかもこれでお判りだろう。そう、あの本の少年のように透明薬を取り落として作り直す羽目に陥らないためである。
これでも僕は社会人だから、多少の知恵はあるのだ。ガラスボウルで大掛かりに合わせているのも作り直す手間を省くためだった。
但しこの場合、このガラスボウルの住人たちの化学変化が実った場合に限りという注釈は付く。つまり、何の効果も無いただの合わせ調味料と化した日には目も充てられないのである。
なぜかって?効力の無いただの物なら使い道が無いからだ。大量に作った分、何の寄与もしない合わせ調味料なんて生ゴミとして捨てるしかあるまい。
リスクはある。でも仮にこれが効果があった日には大量に作った分、当分は安泰である。まぁこんなキテレツな事を考えている段階でかなり"キ印"ではある。
だから人には理解して貰えまい。だから喋るつもりも無いし、第一ここは自宅のプライベートな空間だから誰に迷惑をかける訳でも無い。
僕のやる事が社会に寄与するかは別として、迷惑さえかけなければ良いのである。僕は会社を辞めた直後に『これで自由だ』と想ったものだ。
そして今、僕は自由である。確かに僕は大の大人だが、社会人になった後も時に少年の心が顔を出し、童心に返る瞬間だってあるのだ。
これはおそらく誰にだってあるものなのである。まぁそれでも僕ほど極端に出る者は居ないかも知れない。それだけこの僕に成長しきれていない稚拙な部分が多々あるのだろう。
まぁいいじゃないか、自宅でやる分には他人に咎め立てされる事も無いし、ましてや病院送りになる事も無いのだ。そういった訳で、僕はひと通りの調味料を適量ずつ配合すると、混ぜ合わせやすいように水分を少量配合する。
多少の懸念はあるものの、水道水なら塩素濃度も変わる事はあるまいとチョイスしてみる。これは賭けだが、混ぜ合わせが悪いと効き目に影響があるかも知れないと想ったのだ。
愉しさとは少しのギャンブル性があるから起きるものらしい。心のワクワクが魔法をかけるエッセンスである。
こうして僕の目の前にはまるで要領の得ない奇妙な練り物が出来上がった。見晴えは曲りなりにも良いとは言えない。例えるならヘドロの様な汚物である。
「うわあ、こいつはいただけない!」
僕は殊更に大袈裟に独り御馳る。
でもせっかく作ったのだ。無駄な労力にはしたくない。それに食材にも失礼だ。
まぁ調味料が果たして食材と言えるのかどうかは定かでは無いが、味付けとして使う物である以上は確かに食材である。こんな事をわざわざ自分に言い利かせなければ、口に出来そうに無い代物だと言う訳だった。
僕は気持ちを強く持って、かき混ぜていたヘラでそのヘドロ状のペーストをすくい取ると口許に運ぶ。後少しで口唇に触れるところまでは行くのだが、さすがにこれは勇気がいる。
でも誰に強制された訳でもなく、罰ゲームでさえ無い。ましてや拷問という言葉さえ遠い存在である。自分で決めて自分で一から作り上げたものであり、これは実験なのだから作った以上は食べてみないと効果は判らないのだ。
こんな事を考えている時点で矛盾があるのだ。それに自分で生み出した可愛い…否、正直可愛いかは判らんが、誕生させたのは僕である事は否定出来ない。何しろここには僕ひとりだけしか居ないのだし、勝手に小人さん達が作ってくれた訳でもなかった。
僕は先にも述べたように怠惰な男である。だからよく『寝ている間に小人さんが代わりにやってくれないか…』とか妄想する事がある。
勿論、こんな事、冗談でも他人には言えない。頭がおかしいのかと想われるからである。
でも何かにつけて面倒臭い時には、自然と頭の中に現れる頼もしい存在なのだ。
僕はようやく決心し、ヘラの先を舐めてみる。しかしながら当然、何事も起こらない。でも多少は効き目に時間が懸る事もあるのかと、しばらく待ってみる事にした。
薬だって服用後に効き目成分が到達するのに時間は懸るものだからである。まぁ薬は服用にあたっての作用や効き目が表示してあるから、そんなものかと待てるものだが、僕の試しているこのヘドロは、未知の領域である。
要は、検試薬のモニターのバイトとさして変わりは無いのである。こうして僕はしばらく待ってみた。それはそれは粘り強く待ってみたが、案の状、効果は無かった。
「あぁ~もう、くだらねぇ~!!」
僕は突然我に返るとヘラを放り出す。
するとガラスボウルの横に置いてあったナツメグの粉に当たり、その反動で瓶ごとガラスボウルの中に落ちてしまった。
「あぁ…もぅ、くそぅ!!」
僕は呪いのように怨みがましく叫ぶと、ガラスボウルの中から瓶を取り出す。
ところが何と瓶の口が弾みで開いていたのか、取り出した瞬間、瓶の中身がドバッと全て飛び出し、僕の苦心作のヘドロのペーストにかかってしまった。
『やれやれ…』
後片ずけの手間が増えた僕は、眉間に筋を入れながら、片ずけようと手をガラスボウルに触れた瞬間、閃きを得た。
どうせなら、こいつ事もう一度練り直して試してみようと想ったのだ。今捨てるのも、試してから捨てるのも、手間としては同じ事だ。
但し、効果が無ければやる気を無くして、放り出す可能性もあった。片ずけなど、気合いがなければやらないタイプだから仕方無い。
まぁそれでも良いでは無いか。無職で暇な僕にとっては、時間など幾らでもあるのだ。
こうして僕は放り出したヘラを再び手に持ち、ヘドロちゃんにまぶされた飾りつけを捏ね合わせる。少し色合いの変わったスーパーヘドロちゃんの出来上がりである。
「ウェ~さらに気持ち悪い!確か山椒があったな?混ぜてみよう♪」
僕は意外にも山椒が好きである。口唇がしびれて感覚が無くなるのが、たまらなく好きなのだ。
せっかく適量を量った代物だったが、ナツメグがドバッとかかった瞬間にそれは既に水泡に帰している。そもそもどの程度残っていたか判らないから、もう気にしても仕方が無かった。
僕は苦心の末、山椒を見つけ出すと、スーパーな代物にぶっかける。こうなったら自棄糞である。盛大に振り掛けてからまたヘラで捏ねる。
こうしてさらにバージョンアップしたペーストを再びヘラに取り、今度は思い切ってパクリとやった。案の状、口唇はヒリヒリするが、却ってそれが味覚を飛ばしてくれたらしい。
舌もヒリヒリするので思い切って飲み込んだ。すると途端に頭がフラフラとして来て、その後の事は記憶が無かった。
目覚めると、そこは見た事も無い場所だった。山あいに囲まれた草原に寝ていたのだ。
普通なら驚きの余りビビるところだが、なぜか僕は慌てていない。まるでそれが当たり前の如く振る舞っている。
そしてムクッと起き上がると、一路家路を目指す。といってもこの男、普通の生活をしている様子は無く、テクテクと山を登り始め、挙げ句の果てには山肌から突き出る岩を掴んで登り始めた。
そして山の山頂に近い庵に戻ると、干してあった熊肉を切り取り、ムシャムシャと食べる。こんな快適な生活たまらんと言わんばかりにほくそ笑む。
するとそこに山の裾野の村人たちが数人でやって来て、自分を拝み出す。まるで仙人か神にでもなった気分である。
ところが何を感違いしたのか僕は訳の判らん事をほざき出す。
「何だ!この熊肉ならやらんぞ!」
何ともケチくさい神様である。村人も冷や汗を掻きながらも、苦笑いである。とんだ誤解だと慌てて否定した上でこう述べた。
「仙人様、我々は山の民ですが、最近塩が足りずに困っております。海までは遠く、途中業商人が疫病で通れずやって来ません。このままでは病人が出てしまいます。どうか塩をお与え下さい。」
成る程…確かに人間、塩が無ければ生きてはいけない。下手をすれば病人どころか死人が出る。かと言ってこの塩漬けにした干し肉をやるのは惜しい。
そこいらがこの神様…否、仙人様のせこい所である。そこで僕はおもむろに語り出す。
「それは困った事だ。ならこうしよう。この僕…否、私が塩のある場所を教えてやるから、皆で協力して掘るが良い。必ずや塩の岩、岩塩が見つかるであろう!」
村人達は呆けた顔を陳列するようにボォ~とこちらを眺めている。話しが理解出来ないようである。そこで代表して村長が問い質す。
「あのぅ…こげな山の中で塩など見つかるんですかのぅ!塩は海辺で塩田せにゃ出来んべ?」
成る程…言いたい事は間違ってはいない。訪れた時代は良く判らないが、塩は塩田でしか出来ないという知識しか無さそうだから、仕方無い。
まぁ…この僕を仙人と思い込んでいる時点で言わずもがなである。
「馬鹿者!この仙人が、ど偉い仙人様が申しておるのじゃ♪信んぜよ!信じる者は救われるのだ!!」
僕は少し神懸った振りで、大袈裟に宣う。
「良いか!この辺りは昔々は海の中であった。御主ら凡人には及びもつかぬだろうが、海中の土地が隆起して山になったのだ。これを地核変動という。その際、海水が閉じ込められ、長い年月をかけて岩となった物が岩塩である。仙人様は嘘は言わぬ。ここの山あいの洞窟を掘り進めるが良いぞ♪」
僕は偉そうに講釈を乗れる。
すると彼らは一縷の望みと信じたのか、村の男どもを総動員して掘り進める。
僕は仙人だろうが関係無く、相変わらず態の干し肉を占有して、ただひとりパクパクムシャムシャ食っちゃあ寝、食っちゃあ寝していた。
すると、数日後に村長を始めとする長老たちがやって来て曰く。
「塩が出て助かりました。さすがは仙人様のお導き!儂らは皆、これで命が助かりました。有難や有難や♪」
そう言って、お礼として村の生娘たちを捧げ者としてくれると言う。言っちゃあ何だけど、こんな展開は夢でも有り得ないと、びっくりして腰が抜ける。
『こりゃあ、ハーレムでも作ってウハウハだな♪』と一瞬、想ってみたものの、こんな時に小心者の性格が仇となり融通が効かない。
「いや、私は多妻は好まぬ!第一、こんなに食わせていけないから、一人で宜しい♪」
なんて真面目な事を言って、結局美人の村長の娘さんを嫁に貰う事で手を打った。本音はとんだ金食い虫だとかなりケチ臭い。
後の娘はわざわざ自分の養女に迎えて、お婿さんを世話してやる。何て廻りくどい展開だとブツブツと文句を垂れていたら、いつの間にか自宅に居た。
『ありゃりゃ…いったいどうなってる?これは夢か幻か??こんな事なら早く初夜を迎えてウハウハしてれば良かった…実に惜しい事をした!』
そんな事を宣いながらも僕は不思議そうに辺りをキョロキョロと見回した。
やはり自宅のキッチンに居た。これは瞬間移動して過去の時代に紛れる魔法の薬なのか、単なる夢なのか、これでは判断がつかなかった。
ただひとつ確かな事は、何となくではあるが薬の調合には成功した様である。そして仮にこのスーパーヘビーなヘドロペーストが効果のある代物であるなら、まだまだたくさん面白体験が出来るだろうという事になる。
『ウハハッ…暇潰しが功を奏したじゃん♪透明には成り損ねたが、これはこれで面白い♡』
僕はご満悦で、再び試してみる事にした。
『今度はどんな事になるか楽しみだ♪』
僕は再びヘラでペーストをすくうとゴクリと飲み込んだ。
再び目覚めた僕は海辺の砂浜の上に寝転んでいた。そしてやはりムクりと起き上がるとテクテク歩き出す。
そしてバシャンという音を立てて沖に泳ぎだす。そして海の中へ中へと潜り始めた。
魚の群れが愉しそうに列を為して通り過ぎる。海草が海の流れに揺蕩い踊る様に揺らめいている。
僕は海の底へ底へと進路を取る。やがて辺りが拓けて来て、そこにはまるで竜宮城のような城が見えてくる。
僕の到着とともに入口が開き、導き入れる。豪奢な飾り付けがされた部屋に戻ると、僕は従者が運んで来る新鮮な刺身の盛り合わせを端からパクパクと食べ始める。
『やっぱり刺身はワサビ醤油が一番だね♪』
などといかにもご満悦な顔で宣う。旨いもんを食べ周りの環境も良い。これが最高である。
海の中と言えども竜宮城内は暖かさに充ちている。堆積された魚の死骸がやがて化石となり、石炭と為って暖かさの原料になっているからである。
するとそこに海辺の漁師たちが亀の背に乗り押し掛けて来て、困った顔で拝み倒す。
ところが何を感違いしたのか僕は訳の判らん事をほざき出す。
「何だ!この刺身ならやらんぞ!」
何ともケチくさい物言いである。漁師たちも冷や汗を掻きながらも、苦笑いである。とんだ誤解だと慌てて否定した上でこう述べた。
「竜王様、我々は海の民ですが、最近木炭が足りずに困っております。山までは遠く、途中業商人が疫病で通れずやって来ません。このままでは寒さを凌げず、調理もまま成りません。このままでは病人が出てしまいます。どうか木炭をお与え下さい。」
成る程…確かに人間、寒さには勝てない。しかも暖も取れず、食事もまま成らなければ生きてはいけない。下手をすれば病人どころか死人が出る。かと言って竜宮城の石炭を分けてやるのは惜しい。
そこいらがこの竜神様…否、竜王のせこい所である。そこで僕はおもむろに語り出す。
「それは困った事だ。ならこうしよう。この僕…否、私が木炭の代わりになる物の場所を教えてやるから、皆で協力して引き揚げるが良い。必ずや沈没船の残骸が見つかるであろう!」
漁師達は呆けた顔を陳列するようにボォ~とこちらを眺めている。話しが理解出来ないようである。そこで代表して長老が問い質す。
「あのぅ…沈没船など早々簡単に見つかるんですかのぅ!儂ら漁師でも難しいんでないかと?」
成る程…言いたい事は間違ってはいない。訪れた時代は良く判らないが、人が人である以上は例え漁師でも深い海から沈没船など見つけるべくも無さそうである。
まぁ…この僕を竜王と思い込んでいるのだから、困った者を放っては置けまい。
「馬鹿者!この竜王が、ど偉い竜王様が申しておるのじゃ♪信んぜよ!信じる者は救われるのだ!!」
僕は少し神懸った振りで、大袈裟に宣う。
「良いか!この辺りは昔から船が座礁しやすい場所なのだ。御主ら凡人には及びもつかぬだろうが、海中に向けてレーザーを照射させるとその跳ね返りで土地はおろか沈んでいる物も判るという有難い物がある。これをレーザースキャナという。その際、沈没船など見つけるのは訳も無い事。この竜王様は嘘は言わぬ。海図をやろう。ここの✕印がされた所を丹念に調べるが良いぞ♪」
僕は偉そうに講釈を乗れる。
すると彼らは一縷の望みと信じたのか、海の男どもを総動員して調べ始める。
僕は竜王だろうが関係無く、相変わらず従者の運んで来る刺身の盛り合わせを占有して、ただひとりパクパクムシャムシャ食っちゃあ寝、食っちゃあ寝していた。
すると、数日後に海辺の長老を始めとする長たちがやって来て曰く。
「沈没船が見つかり助かりました。さっそく乾かし折って暖を取りました。さすがは竜王様のお導き!儂らは皆、これで命が助かりました。有難や有難や♪」
そう言って、お礼として海の民の生娘たちを捧げ者としてくれると言う。言っちゃあ何だけど、こんな展開は夢でも有り得ないと、再びびっくりして腰が抜ける。
『こりゃあ、ハーレムでも作ってウハウハだな♪』と一瞬、想ってみたものの、こんな時に小心者の性格が再び出て仇となり融通が効かない。
でもこれを逃せばどうせ後悔するだろうと、僕は最大限の気力を振り絞ってこう宣う。
「ハハハッ…善きに計らえ♪鯛や鮃の舞い踊り為らぬ、美女たちの舞い踊り♡善きかな善きかな♪」
なんて不真面目さを最大限に発揮してたら興奮してくる。結局美人の長老の娘さんを嫁に貰い、後の娘たちは第二婦人に第三婦人に…。
ちゃんと奥さんとして大切に扱えば問題無かろうという事で手を打った。本音はとんだ助平根性である。今後の愉しみが増えたと鼻の穴を大きくしながら、ニヤついている。
さて初夜を迎えて、大いに愉しもうと娘を見ると、顔を赤らめて困った顔をしている。何て可愛らしいんだと娘が寝ているベットにダイブしたところで意識がとんだ。辺りを恐る恐る窺うと、いつの間にか自宅に居た。
「何かまた惜しいところで戻って来たな…」
僕はさっそくブツクサ文句を垂れる。先程と変わらぬ平和なプライベート空間に僕はひと安心している。だからこそ、文句も遠慮なく口から飛び出す。
『山の次は海か…何とも芸が無い!』
僕はそう想い、再び考える。仙人の時は割と有り勝ちなシチュエーションだったけど、今回の竜宮城は現実味が無かった。やはりこれは夢らしい。でもかなりリアルな夢である。
肌感覚や臨場感は申し分無い。夢でもこれなら愉しめる事、受け合いだろう。それに夢ならいざという時に安心だ。
なぜなら、現実世界と違って、例え死んでも本当に死ぬ事は無いからだ。それにしてもこの夢の特徴としては、夢の最後まで到達出来無いのが玉に瑕である。
かなり二度とも惜しい所で目覚めてしまった。僕はふと閃く。まぁ誰でも考えそうな事なのだが、摂取量を増やせば滞在時間が延びるのではと想ったのだ。
二度ある事は三度ある。時間はたっぷりとあるし、意識がとんでもここは僕のプライベート空間だから、単に寝ているのと大差無いのである。迷惑となる事も無かろう。
ふと僕はその時、気がつく。辺りはいつの間にか薄暗くなっているのかと想いきや、窓の格子からは相変わらず陽射が射し込んでいる。
『あれ?この薬は時間が経たないのかしらん…』
確かに有り得ない事では無い。でもそれにしては、かなり長い夢を二度も見ている。僕は疑問を解消するため腕時計をチラリと見る。
すると驚く事には、もう二日も経っていた。多少誤差があるのは間違いないが、ほぼ二日間経過している。よくもお腹が空かなかったもんだと不思議に感じる。
「色んな物を混ぜたから、滋養になったのかしらん?」などと嘯く。
途端にお腹が鳴る。無職で家でのんびりと油を売っていたのだ。どうやらお腹も性格と同様にずぼらに出来ているらしい。
夢の中でひたすら美味しいものを口にしていた筈である。腹が減っていると、そういう夢を見るらしい事は耳にしていたので納得してしまった。
僕は戸棚を開けてインスタントラーメンを取り出すとお湯を沸かす。煮立って来たところに麺を入れて、慌てて冷蔵庫の中身を物色する。
キャベツを取り出し干切りにしてぶち込む。しらたきとエリンギがあったので、エリンギは食べやすいように切り分け一緒に入れる。
麺が茹で上がったところで付属の粉スープを入れて、最後に玉子を割って乗せた。これで即席で栄養満点な我輩流のラーメンの出来上がりだ。
炊飯器の中の御飯をよそい、簡単なラーメンライスを作って食べる。美味い。まぁお腹空いてたら何でも美味く感じるものだろう。
しかし、夢の中で体験していたのとは偉く違う。熊の干し肉は余りいただけないが、刺し身の盛り合わせと比較すると、かなりの味気無い食い物である。突如として現実感に苛まれる。
独身の一人暮らしとは侘しいものである。ひとまず腹も満たされたので、すぐに片ずける。僕はずぼらなので、すぐにやらなければ二日も三日もやらない。
後々、溜まりに溜まった食器を洗い片ずけるか、その都度、片ずけるかは常に闘いだ。心の葛藤が勝てば今のように即、片ずける。しんどいから後にしようはご法度なのである。
それにどうせまた、意識が飛んだら一日経つ。その都度、やらなければ当然溜まるのは必然なのだから、やるしか選択技は無かったと言うべきかも知れない。
落ち着いたところで再びヘラを持つ。今度は量は多めに取る。そこでふと、またぞろ閃く。
『時間が延びたら、一日では済まないかも知れない…』
そんな事が頭に浮ぶが、よくよく考えてみたら寝ている間に腹が減った事は無い。何でそんな事をふと感じたのかは判らなかったが、僕は鼻を摘まんで、再び特効薬の固まりを飲み込んだ。
お腹が満腹になっていたせいかは定かでは無かったが、すぐに僕は意識が飛んでいた。
「あれ?」
目覚めた僕は驚いた。見た感じ確かに夢の中であるらしい。なぜかといえば、僕は四畳半一間の部屋に寝ているからである。
天井からして、みすぼらしいアパートに居るのだ。そしてふと人の気配を感じて横を眺めると、知らない女が同じ布団に寝ている。
僕はびっくりしてしまうが、その男は普段通りなのか、余り大袈裟なリアクションもせずに、天下泰平な心持ちなのか、目の前の鏡台をボォ~っと眺めながら欠伸している。
すると鏡の中の僕と目が合う。それを自覚した僕は唖然とする。何とこれは紛れも無い僕自身なのだ。そりゃあ驚く。
普通は第三者目線で意識がある以上、僕本人であるとは想わないだろう。誰か判らない他人の意識に潜んでいると想っても不思議はあるまい。
それによくよく考えてみたら、今まで見た夢には鏡は無かった。もしかしたら、水桶の水面や海面などに写り込んでいたのかも判らないが、まさか本人だとは想わなかったのだ。
つまり夢の中で僕は直接的な意識と第三者目線の間接的な意識の両方を有しているのである。それは今までもおそらく変わらなかったに違いない。
間接的に見ていた僕が直接的な意識の人物を赤の他人と捉えていただけの事だった訳だ。
僕が朝っぱらから鏡を見つめながらブツクサ呟いていたからなのか、背中を向けて寝ていた女がいつの間にか起きており、背後から恐しい顔でこちらを睨んでいる。
直接に見るのも恐いものだが、鏡の中に写り込む形相を見るのも恐しいものだと始めて感じた。恐らく殺意とはこういう眼を指して言うのだろう。僕は慌てて振り向くと、両手を差し出して許しを乞う。
「待て、待て!話せば判る…」
すると案の定というべきか、女の罵声が轟く。
「全く!この甲斐性無しが!私の稼ぎを食い潰す、この極潰しが!!とっとと起きて職でも探しといで!この役立たず!」
女は眼に濃いアイラインを引いているので、強調された目力が遠慮なく僕に突き刺さる。僕は心蔵はバクバクものだが、ビビってしまい足が竦んで動けない。
女は眼にはアイシャドウ、唇には口紅を塗っているが、寝ている間に布団で擦れたらしく、はみ出している。それがまた恐しさを増しているらしい。
『仕事疲れでそのまま寝やがったな…少しは女らしく出来んのか…』
僕はそんな事を考えているらしい。いい度胸である。いや…単に馴れただけなのかも知れないが、こんなにも恐ろしい目つきで睨む女の前で、よくぞそんな悠長な事が頭に浮かぶものである。
この僕はかなりビビっているというのにだ。人間とは環境には馴れる者らしい。女は案の定、余所事を考えている男の頭の中身には敏感なようだ。
すぐに反応する。
「何なの!あんた!ちゃんと聞いてるの?」
寝起きとはいえ、女のヒステリックなキリキリ声はいただけない。その突き刺す様な響きに想わず眼から火花が飛び散る。
女は両の手を拳骨にして腰に当てている。その表情にしか目がいっていなかったが、薄暗い電灯の明かりに浮かび上がった彼女の姿にようやく目が行く。
女のおでこや頬は化粧のせいかテカテカ光っており、下着姿である。良く見ると、怒っている顔以外は均整の取れた体型で、ふくよかな胸と切れ上がったお尻から腰にかけての線が素晴らしい。
そして足は細く長い。お手入れが行き届いた見事なスタイルである。そして顔立ちも鼻が高く、恐らく笑顔を振り撒けば美しい女娼といったところだろう。
僕はどういう経緯でこの僕のような男がこんな綺麗な女性と知り合ったのか不思議に想った。そんな訳でジロジロ見過ぎていたのがいけなかったらしい。どうやら間接的な僕は時に、自我が芽を出すようだ。
「何、ジロジロ見てんだい!この助平爺!早く行かないか!」
そういって両頬を両の手でツネられると、強制的に着替えさせられ、あっという間に叩き出されてしまった。
「おい!朝飯は?」
無様にドアを叩きながら叫ぶのは、直接的な僕である。シチュエーション的にそんなの無駄な努力だと言ってあげたいが、特にコミュニケーションが取れる訳では無いから、見守るしか無い。
案の定、ドアの中からは遠慮のない罵声が鳴り響く。
「このアカンタレ!甲斐性無しに食わせる飯は無いわ!」
余りにもキンキンする声だったからか、耳の鼓膜が破けるかと想う程の衝撃を受ける。これはどちらの僕とも言いかねるというものだ。恐らくは両方なのだろう。
「やれやれ困った娘だな!いい女なのに愛想無しが玉に瑕だな♪」
僕は耳に指を入れながら、足早に歩き出す。余り本人はダメージを負っていないらしい。どういう神経をしているのかは、僕にもかなり不明である。
僕もかなりズボラな性格だから、余り他人の事…否、この僕の事は言えないが、想わず苦笑いするしか無い。
『全くどうしようも無い奴!』
僕は想わず呟く。
すると何かを感じ取ったのか、この僕は背後を振り向くとしばらくキョロキョロと首を回していたが、気のせいと想ったらしい。すぐに両手をスボンのポケットに入れるとフラフラと歩き出す。
そして何を想ったのか、その後すぐにパチンコ店に入り、台を物色しながらしばらく流す。とんでも無い奴である。そりゃあ、あの女も怒っても仕方無さそうだ。
男は吸い指しのしけもくを取り出すと火をつけ、燻らす。隣に座っていた女の人にすぐ注意されて、軽くペコリと頭を下げると足許で踏み消す。
そしてパチンコをするでも無く、とっとと店を出ると、今度はファーストフードの牛丼屋さんに入り、一番安い朝定食にがっつく。
あぁ…見ていられない。こんな人生嫌だな…最悪だ。そう想っていたら、目が覚めた。
今度は思くそ目覚めたと言っておく。どうやら、やはりこれは夢らしい。目覚めた僕は想わず宣う。
「やっぱり少しは人間らしい生活をしなくちゃ!あれではいくら何でも酷過ぎる…」
けっして僕自身だった訳では無い事は判っている。判ってはいるのだが、彼は僕の顔をしていた。言わば僕の幻影である。写し鏡のようにそっくりな顔立ちなのだから、経験した今、僕にも似たような動揺は広がるものだろう。
僕は久し振りに掃除機を取り出すと、辺り構わず掛け始める。かなり気合いが入る。余程さっきの状況がショックだったらしい。
窓の格子から、注ぐ光線の中で塵が舞っているのが判る。ようやく満足すると、僕は棚からレトルトのカレーを取り出し、温める。
炊飯器からかなり水分の抜けたボサボサの御飯を取り出すと、皿に残り全部を盛り、その上から温かいレトルトカレーをかける。そして心を落ち着かせるようにムシャムシャと食べた。
食べる最中も時折、スプーンを口唇に押しつけながら考え込む。
『このままではいかんな…』
けっしてさっきの僕は今の僕では無いのだ。けれども、余りにもリアルだったからか、三回目にして初めて僕の日常に近い僕が突き当たった恐しい現実を目の当たりにして、僕自身もかなり心に衝撃を受けたのだ。その証拠に心無しか心蔵が痛い。
『彼はどうするのだろう…』
僕はいつの間にか自分の事のように、彼の心配をしている。つまり自分の心配をしている事になる訳だ。
何か神経が高振り、殊更に自分の将来が心配になってくる。引っ掛かったのか引っ掛けたのかは判らないが、あの女性も誠に気の毒である。言わば僕の被害者といっても過言ではあるまい。
まぁ僕が女性と暮せる程の甲斐性があっただけ驚きではあるが、何度も言うようにあれは僕であって僕では無い…と想いたい。何とも情けない根性であるが、今回ばかりは考えさせられたのである。
こうなると居ても立ってもいられないのが僕のサガであった。僕は一念掘起すると、すぐに買い出しに出掛ける。スーパーに買出しに出掛けるのだ。
インスタントラーメンやレトルトカレーばかり食べていては人間が腐る。たまには…否、これからはちゃんと自炊してまともな物を食べようと決めた。
まぁ…いつまで続くかは自分次第であろう。こんな事をついつい念じてしまうのが僕の駄目である由縁である。
スーパーに向かう途中、パチンコ店が目に入る。僕はパチンコも煙草もやらないからまだましなのだと言い聞かせた。
でもパチンコ店を通り過ぎようとした時に、ふと中を覗くと僕に注意した女の人が愉しそうに打っているのが偶然見えた。僕はこんな偶然あるのかと想い、見つからないようにドキドキしながら通り過ぎた。
杞憂であろうが、彼女の剣幕を必死に抑え込む眉間のしわが想い出されて、僕の心に暗い影を落とした。僕は気を強く持ち、無理矢理笑顔を作ると、スーパーに入り、食材を物色する。
ハンバーグを作る材料を集め、ワカメスープとサラダを作るため店内を練り歩く。すると途端に視界が開けて、視線が止まる。
僕は驚き、瞬時に回れ右をして、来た筋を戻り角を曲がった。僕は見てしまったのだ。あれは、あれはあの僕の"最愛の君"であった。
そう僕に良くしてくれた同期の女の子である。彼女は嬉しそうに男と手を繋ぎながら歩いている。その幸せそうな表情に突然ぶち当たり、僕は懐かしさと同時に苦しくなったのだ。心蔵が痛い。
まるで引っ込み思案の弱い心が咄嗟に僕を遠ざけたようだった。つまりは彼女がとても眩くて僕は逃げてしまったのだろう。
別に声を掛ける必要は無い。気づかない振りをして買物を続けていれば良いだけである。それが大人の対応というものだ。
そして仮に、もし仮に彼女の方から気づいて声を掛けて来たなら、普通に今の懐かしさを口に出せばいいじゃないか。「久し振り♪元気?」とか「びっくりしたね♪偶然だね?」とかいくらでも応対の仕方はあったはずである。
でもそれが出来ないのがこの僕である。とても大人の男姓とは言い難い。スマートでは無かった。
ところが急に起きた"パチン"という響きで周囲のどよめきが沸き起こり、僕の傷ついた心もピクンと一気に制止されて、反射的に僕は再び角を曲ってその場を眺める。
そこには跪いた女性が頬に手を当てて、泣き崩れている。彼女だった。
彼女は僕に背中を向けているので、当然僕の存在には気づかない。逆に泣き崩れる彼女に覆い被さるように両手を膝に付き、頭ごなしに彼女を罵倒する男の表情は良く見えた。
僕は目をパチパチと瞬きしながらも、腹の底から怒りが込み上がる。でもいざ声を出そうとすると、心が震えて声にならない。
彼女が、僕の大好きだったあの子が怖い目にあっているのにである。そしてその理由が判った。
男の表情が夜叉の様に歪んでおり、周囲に居る人達でさえ、顔を背けて近づく事も出来ない。そして辺り構わずマシンガンの様に続く言葉は余りにもおぞましくてとても言い表わす事も出来ないのだ。
彼女は頬を押さえたまま泣き濡れており、その態度が癇に障ったのか、男は再び片手を振りかざすと、今度は彼女の頭を押さえつけたのである。さすがの僕も再び怒りが燃え上がって、頭に血が昇り動き出そうとした刹那の事であった。
店の人が通報したのだろう。突然、扉からドヤドヤと走り込んで来た警察官二名にその男は取り抑えられた。かなり抵抗していたし、終始がなり声を上げていたが、最終的には腕を取られて羽交い締めにされたところで観念して静かに連行されて行く。
彼女には婦警さんが付き添い宥められながら、寄り添うようにして店を出た。僕はしばらくそのまま固っていたが、やがて周囲が和やかになり、客の足が再び動き出すと、今度は僕の方が変な人に想えてくるでは無いか。
茫然自失で見送った僕は、何も出来なかった自分が情けなくて急にやる気が無くなってしまった。僕は残りの材料を矢継ぎ早に手に取ると、さっさと会計を済ませて店を出た。
帰りの道はかなり重い足を引き摺りながら、遅々として進まない足に任せて歩み、どうやって帰り着いたかも記憶に無かった。
自責の念だけが僕の心を覆い、彼女の深い悲しみと絶望だけが頭を支配した。これが現実だった。幸せな結婚に希望を持ち、明るく幸せそうに語った彼女の言葉が反芻して止まない。
夢の中で出会ったあの女にはまだ怒る理由もあったのだろうが、それでも堕落した男に見せるその怒りは心を凍りつかせたものである。
でもそれ以上に苦脳している彼女の表情は現実の苦しみであった。あの調子では今日が始めてでは無いのだろう。
それでも事件が起こる直前までの彼女は嬉しそうで、幸せそうに見えた。手を繋ぎながら微笑む表情には嘘は無かったと想う。
人と人との絆は例え赤の他人でも難しい。急に怒り出す人、急に泣き出す人、無口で顔を背ける様に無言を貫く人。人とは千差万別でそれぞれの顔を持ち、内面を有する。
そして仲が良かったとしても、ある日その人の恐い内面が殻を破った瞬間に、人はその人の本質を知るのである。
彼女だって彼の事を愛し、信じていたはずである。楽しい時を経て、幸福な結婚をしたはずであろう。でも彼女は知ってしまったのだ。彼の本性を…。
どんなにか驚き、失意を味わったのか僕には想像も出来ないが、それでも気持ちを強く持ち過ごして来たのだろう。彼女もきっと自分の胸に問い掛けたに違いない。
その上で彼の気持ちを取り戻そうと想ったのか、時間を掛けて判り合おうとしたのかは、計り知れないが、もう一度やり直そうと努力したのだと想う。そして彼をまだ愛しているからこそ、あの笑顔だったのだと感じていた。
結局のところ、僕が正義感を振り翳すまでも無く事は決した。けれども彼女を救えなかったという自分の苦しみは残ったし、現実問題、彼女を救えなかった自分には彼女を愛する資格は無かったのだと想い知らされる事になったのである。
男と女の仲は難しい。その一言で済ませられるレベルでは無かった。
執拗な怒りが表に出た瞬間、あの男は一線を越えたに違いない。豹変したのだ。でも何が彼を豹変させたのかは判らなかった。
彼女を救えなかった僕がこれ以上そんな事を語る資格は無い。それに夫婦間の問題に赤の他人の僕がしゃしゃり出るなんておこがましかった。
僕は食材を冷蔵庫に放り込み、御飯を炊き直すでも無く、そのまま風呂場で熱いシャワーを浴びると、布団を被ってそのまま寝りについた。
しばらく彼女の泣きじゃくった顔が頭に浮んでいたが、僕は振り払うように再び布団を被ると、そのまま寝入ってしまった。
僕は本当に駄目な奴だ。それから三日程、何もする気が起こらず無為に過ごす。食事も喉を通らなくて、水分補給に止める。
さすがに例のガラスボウルはラップに包んで冷蔵庫に放り込んでおいたが、それで請一杯だった。
少しは頭が冷えるかと、蛇口を撚り水を頭から被ったりもしてみたが、余り効果があったとは言い難い。
念のため、翌日の新聞の社会面を見たりもしてみたが、特に記事にはなっていなかった。彼は目の前で逮捕されたのだから、もう心配は無いのだと強く自分に言い聞かせるしか無かった。
それでも、彼女の泣き濡れた顔が、容赦無く頭に現われて僕を苦しめた。でもさすがに三日過ぎる頃には食事は摂った。
人はどんなに心に痛みを伴っていても、腹は減る。人が人として生きて行く由縁である。食わなければ死んでしまう。
まぁ高々、三日で死ぬかどうかは定かでない。難破して海を彷徨い、水も食料も無く長期期間を生き延びた人もいる。
けれどもそれと比較してどうする?別に僕は記録を争っている訳じゃない。だから何だと自分に強く言い聞かせる。
その内、僕は少し落ち着いて来て、自分の独り善がりだったのではないかと気づく。相手は確かに元同僚で、自分に良くしてくれた。
でもこれはおそらくほぼ間違いの無い事実だろうが、彼女が僕に特別な好意を抱いていた訳じゃない。僕の一方的な愛情だっただけである。
これを一般社会では、"ただの知り合い"と言う。しかも退職してから先日まで、ほぼ会っていなかったのだし、連絡を取り合う間柄でも無い。
つまりこの場合、定義されるとしたならば、"過去の同僚"、"過去の知り合い"に過ぎないのである。他人がもし僕の心の内を覗いたなら、ただの独り善がりとスパッと斬る事だろう。
まだそれなら良い方で、女姓諸氏にはとても理解されないだろう。「気持ち悪っ!」と蔑みの目で見られる事だろう。
僕はここらで男らしく忘れようと心に決めた。でもあんな辛い出来事を見た後ではやはり難しかった。事実はそうでは無いかも知れないが、僕には彼女が助けを求めていると想えて為らなかったのである。
僕はでも今後もひとりで生きて行かなければ為らないのだから、どこかで踏ん切りを着けなければ為らないだろう。彼女が今、どこに住んでいてどんな姓に代わり、今後どうしたいのかさえ判らない男に、彼女を守りたくても守れる訳も無い。
彼女がそんな事を望んでいるのかさえ判らないのだから、変に動き回れば却って彼女に迷惑を及ぼす事にも為りかねない。さらには最悪、僕が執念を貫いて彼女を探したとして、それが何になる。
彼女に変質者の眼で見られる事はさすがの僕も耐え難かった。そこまで考えた上で、僕はこれ以上の追求の断念と、彼女の幸せをただひたすらに心の中で願いながらも、自分の人生を強く生きる事にしたのである。
僕は久し振りにやる気を少し取り戻したので、例の買ったまま冷蔵庫に放り込んでおいた食材を出す。何も考えられなかった割には、サラダ類はチルドに入っており、意外に冷静に小分けしていた自分に驚く。
ハンバーグの作り方を眺めながら、ミンチに必要な物を加えて捏ねる。玉葱の微塵切りには骨を折ったが、修練だと想い、まめに切って手を抜かなかったので、上手く馴染む。最後に真ん中をへこませてラップに包み、冷蔵庫に寝かせて置く。
デミグラスソースはさすがに素人さんには難しいので市販のもので済ます。少し赤ワインを混ぜてやって恰好をつけた。
ハンバーグを取り出して両面を焼く。デミグラスソースと合わせて弱火でコトコト煮込む。ガラス蓋もしておき、ワカメスープとサラダを作る。
ドレッシングは塩、胡椒、お醤油少々にお酢と胡麻油を合わせて作る。その間に当然の事ながら、洗って仕掛けておいた御飯が炊き上がったので、料理を全て食卓に並べる。
その夜の食事は久し振りにまともな食事となった。美味しかった。こんな事なら、これからもまじめに作ろうと想った。
料理ぐらい作れるようになれば、少しは良い結婚相手が見つかるかも知れない。そう想いつつも、"結婚"という二文字を意識する時には、どうしても彼女の顔を想い浮べてしまう。
僕はなぜもっと早くアプローチをしなかったのだろうとまたまた落ち込む。でも今更そんな事を考えても時間が戻って来る訳でも無く、僕は男らしく考えるのをやめた。
心の弱さが如実に表われたひと時だった。そんな訳で腹が満ちてくると、僕は久し振りに夢の旅に旅立とうと思い立つ。
そこで冷蔵庫からガラスボウルを取り出して来て、ヘラで馴染ませ口に運ぶ。効果が続いていれば良いのにと強く念じていたが、その心配は杞憂に終わった。僕は再び眠りについた。
「あれ?」
目覚めた僕は驚いた。とても優雅なマンションの一室であるのは明らかだった。そして何と、台所からは温かい美味しそうな匂いが漂って来る。
僕は不用意に覗き込むと、何とそこに居たのは、沙耶香さんだった。そう…元、僕の同僚であり、僕が恋焦がれていた『早乙女沙耶香さん』である。
僕はすぐに影に隠れる。もし仮に見つかった時に、変に想われるのは承知の上だ。
ここに来たのは夢のせいであって、僕の意志では無い。けれども相手にとってはそうでは在るまい。普通に考えれば僕は侵入者であり、かなりの不審者と言える。
だってどう侵入したかさえ、説明するのは難しい。"夢の中"とか"夢で偶然やって来た"なんて説明しても、とても信じて貰えないだろう。僕は見つかったが最後、不審者として突き出されて終わりである。
『やれやれ…』
僕は溜め息を尽く。僕が余りにも彼女の事を想い患ったせいで、この夢を引き起こした可能性は十分にあるのだ。そういう意味では僕のミスだ。僕はとんだジレンマに陥った。
でもふと気づいた事がある。これはもう自分の夢の中なのだから、例え彼女に見つかって、非難され通報されても特に何の影響も無いのじゃないかという事である。
そうだ、そうなのだ。夢である限りは現実とは何の影響も無いのだから、彼女に影響を及ぼす事はまず皆無である。
この僕でさえ、心のダメージこそまた負うかも知れないが、現実で逮捕される危険性は、まず無い。第一、僕は彼女の住まいを知らないのだ。
さて、ここまで考えが追いついて来ると、少しこの僕にも心の余裕が生まれて来る。少し大胆に振る舞っても大丈夫だと自分に言い聞かせる。
但し、果たしていつどのタイミングでフェイドアウト出来るのかは、この僕にも判らない。神のみぞ知るというやつである。
ただせっかくの機会だし、しばらく彼女の姿を眺めていたいという心持ちだけは拭い去る事が出来ず、見守る事にしたのであった。
僕はこの時、幸いな事には、この僕のこの行為が"覗き"に相当するという認識は無かった。なぜなら、自分の夢の中で好きな人を見守る事が悪い事だとは到底想えなかったからである。
自分の夢の中だと自覚を持って夢を見ている人はなかなか居ないと思うが、幸いな事に僕には自覚があるのだ。しかも自覚してもなお、声も掛けずに奥ゆかしく見守ろうというのだから、立派な紳士であり、とんだ道化師である。
でも僕には神様が与えてくれた細やかな機会だと想えたのであった。
彼女はとても熱中してデミグラスソースを作っている。僕が市販のもので済ましたのとは大違いである。そこにはとても心が籠っていて、正直それを食べる男が羨ましい限りだ。
彼女は恐らくあのスーパーで手を繋いでいた男のために作っているのだろう。だとすると、これはまだ彼女が幸せな結婚生活を送っていた頃なのかも知れない。
まぁ僕の夢に時系列があるとは限らないから、それは定かでは無いし、僕の意志が反映されただけの偶像とも考えられるから、はっきりとは断言出来ない。
でも彼女が暴力を受けて泣き濡れている姿よりは、百倍も干倍もましである。沙耶香さんは無邪気に鼻歌を歌いながら、愉しそうだ。
その笑顔を見るのも久し振りの事である。彼女は本当に愉しそうに笑う時には、両頬にエクボが出来る。それがまたとても可愛らしいのである。
そんな事を堂々と宣った日にはまたお叱りを受けそうだが、実際そうなのだ。僕はあれこそが"天使の笑顔"だと想うのだから…。
彼女は準備が終わるとハンバーグを焼き始める。そしていつでも煮込めば済むように段取りを組むと、サラダドレッシングにかかる。彼女はフレンチドレッシングを作った。
長いサラサラの髪を後手に束ねて、ポニーテールにしている彼女の姿は、やはり可憐である。そしてエプロンをする姿は愛らしいの一言なのだ。僕が今まで見た事も無い、若く美しい新妻の姿がそこにはあった。
僕はまた惚れ直してしまったようである。いつまでもそんな彼女をゆっくりと、時間を忘れて見ていたいと心底感じていた。
そんな刹那の事である。僕は不意に背後を取られた事に気がついて、即座に振り向いた。油断だった。余りにも神経が彼女に集中していて、人の接近に気づかなかったのだ。
それに考えてもみて欲しい。自分の夢の中で不用意な危機に陥るなんて、いったい誰が考えるだろうか?普通に夢を見ている者でさえ、直前まで自分が命の危険に会うなんて考えてはいないだろう。
ましてや、僕の場合は夢と認識しているし、彼女、『早乙女沙耶香』が出て来た段階で、かなり自身の意志が反映された結果だという思い込みがあったのだから、尚更である。
僕は誰とも判らない男(恐らくは彼女の旦那)に拳を腹に一発食らい気絶していた。その瞬間、男の恐ろしい眼力と、何かに怯える彼女の叫び声が頭の中を支配した。
後の事は判らない。僕は自宅の台所で目を覚した。
「あわわわわっ…」
僕はかなりビビったらしい。眉間からは冷や汗が流れ出ている。
それだけかなりリアルな夢だった事になる。はっきりとは言い切れないが、あの恐ろしい眼力には記憶があった。
ほぼ間違いなく、あれはあのスーパーで彼女と一緒だった男である。そう、沙耶香さんの旦那であろう。
でも不法侵入者である僕が正拳突きを食らったのは仕方無いとしても、彼女があのタイミングで大声で怖がるのは少し不思議…否、どちらかというと不自然な気がした。
何せ僕は影に隠れて見ていたのだし、気配で慌てて振り返ったものの、それは背後に向けてのものだったから、彼女からは完全な死角になって見えなかったはずである。
それに不意打ちとはいえ、あの恐ろしい眼力を目の当たりにした瞬間、僕は恐怖に怯えて声らしい声すら出せていない。情け無い限りだが、これは本当の事である。
だから日常的にストーカーに狙われたりしていない限りは、家の中で多少の音がしたとしても、普通はそれほど過敏に反応する事は無いんじゃなかろうか。
『何かあったのかしら?』とか、それこそ『彼が帰って来たのかしら?』とか想いつくだけで、いきなり怯えた叫び声を上げる女性はいないだろうとそう想ったのだ。
『でもちょっと待てよ?』
ふと僕は余計な事を思い出す。
確か僕は夢の中で、かなり決定的な事を考えていた気がしたのだ。でも何だかはっきりとは想い出せない。
何しろ自分の意志の偶像化だと信じ込んでからは、余りその事を真険に考えるのを止めていたからだった。
僕はそれからもず~っと考え続けた。それだけ沙耶香さんの悲鳴がリアルすぎたからだった。そして僕は遂に、その肝心要の重要な事を想い出す。
『僕の夢の中に時系列があるとは限らない』
これである。
もし仮にあの場面が幸せな日々の偶像化では無く、彼女が苦しんだ挙句の果てに掴んだひと時の安らぎの時間だったとしたらどうだろう。
まぁこんな事を考えている時点で、頭が可笑しいのだという事は、言われなくてもこの僕にも判っている。なぜなら、あれはあくまで僕の夢の話しだからだ。
けれども、僕が夢を見るようになってから、現実とリンクする事柄が時折起きている事も確かなのだ。それは説明しないと判らない程、ほんの些細な事なのである。
パチンコ屋に行こうとした僕は、僕の囁き声に一瞬、反応を示した。結局、気のせいで済ましたが、あの間はいったい何だったのだろう。
そして買い物に行く時にリアルで出会ったあの女は、夢の中でも現実でもパチンコを熱心に打っていた。そう…店の中で煙草を消すように注意した女である。つまり夢の中で出会った女に現実で再び出会うのも、その一旦かも知れないのである。
そう、"知れない"としか言い切れない程、些細な事が僕の心を刺激し、その動揺を誘っているのだ。そして僕の心配は頂天に達した。
もし仮にあれが事件の後の出来事であったなら、どうだろう?そして事件後、彼女がDV男から逃げ延びた先があのマンションであったならどうだろう?そう考えると、色々と思い当たる事がある。
これは結婚の経験さえ無い僕の勝手な思い込みかも知れないが、あのマンションは新婚夫婦の住居にしては狭すぎる事。そして余りにも乙女チックな色合い過ぎる事である。
もちろん世の中にはそういう新婚さん達もいらっしゃるかも知れない。それは否定しない。でも僕は彼女がああ言った柄を好むのを知っており、あの模様は彼女自身が決めた柄なら、納得出来る。
けれどもあの男、DV男が例え一時は夢中に為った女のためであったとしても、あれだけ自分勝手な素養をお持ちの方が、果たして自宅の柄という柄を彼女ひとりに決めさせるだろうか?
そう考えた時に、僕はそれは"絶対に無い"と想ったのであった。で、あるならば彼女の避難先として住んでいた家に、それを嗅ぎ付けたあの男が無断で侵入したと考えた方がしっくりとくるのだ。
それにいくら何でも玄関から堂々と入って来た男に、この僕が気がつかないのは可笑しい。鍵穴を回す音さえ気づかない程、僕も没頭していた訳では無い。ただ彼女と僕しかあの空間には居ないのだという思い込みがあったのも否定は出来なかった。
"旦那はこれから帰って来る"と思い込んでいたからだった。でも今考えれば、奥さんが料理中に"一日の疲れを癒すため"風呂に入っているというケースも考えられたのである。
まぁそれはあくまであのマンションが新婚夫婦の新居と仮定した場合に限るのだろうが…。ここまで考えた時に僕は最悪のシナリオに立ち合っていた自分に気がつく。
沙耶香さんはあの事件の後、DV男に豹変した旦那さんから逃げるために、避難先としてあのマンションに移り住んだ。だからこその一人用の住居であり、柄模様も自分の好みに統一した。
食事は誰かのために用意していたものでは無く、自分で食べるため。僕が咄嗟に不意をつかれたのは、おそらく既に侵入して潜服していたDV男が、自分以外の侵入者に気がついたから…。
そう考えると辻褄が合うのだ。
もし仮にこの僕の推理が正しかった場合、彼女の身がとても危険なのではないか?だからこそ僕は夢の中であそこに、あの彼女の住むマンションに導かれたのでは無いか?
そこまで頭の中が整理された瞬間、僕は想わず叫んでいた。
「大変だ!沙耶香さんが危ない!!」
僕は咄嗟にガラスボウルに手を入れて、ヘドロの固まりを鷲掴むと、乱暴に口に放り込み、カツガツと咀嚼して呑み込んだ。
僕の想い込みとか、夢の中の話だとか、そんな事はもはやどうでも良かった。ましてや、再び特効薬で飛んだとしてもあの夢に戻れる保証は無いとか、タイミング良く戻れるとは限らないとか、そんな事も頭に無かった。
その時、僕の頭を支配していたのは、"彼女を助けたい!"という一途な想いだけだった。そしてその一縷の望みに賭けたのである。
僕は特効薬を大量に摂取したためか、卒倒するように倒れ込み、意識不明に陥った。
次の瞬間、僕は再び彼女のマンションに居た。あの乙女チックな柄模様がそれを教えてくれる。
『やった♪成功したぞ!』
僕は素直にそう喜んだ。けれどもその喜びも束の間、僕の目の前には在らぬ惨劇が広がっている。
彼女が、沙耶香さんが一生懸命作っていたデミグラスソースがそこいら中に散乱しており、鍋は落ちてひっくり返り、お皿やワイングラスは粉々に砕けてそこいら中に散らばっている。
彼女がやはりあの後、襲われたのは明らかだった。そしてかなり逃げ惑い、抵抗した後も見受けられる。
なぜなら、ところどころの壁には朱色の手形が残されており、キッチンの入口のノブにはあの可愛らしいエプロンが引っ掛かり破れていたからである。
「大変だ!!」
僕は我を忘れてそう叫び、部屋中を探しまくったが、彼女はおろか、あの恐しい眼のDV男も見当たらない。
僕は彼女の安否が気が気でなく、落ち着いて考える事も出来ずに、ただオロオロと空回りする。それだけ彼女が心配なのだ。
「くっそ~、なんで現場に行けなかったんだ!どこだ!どこなんだ?」
気ばかりが焦り、時間は刻々と過ぎて行く。
そんな時である。窓の上の方から、乙女チックな柄模様の髪止めが落ちて来る。
「沙耶香さんだ!」僕は叫ぶ。
僕はすぐに窓を開け、頭をひょこっと外に出して、頭上を眺める。
すると上の方で人が争う気配がする。男女の言葉の応酬である。
『屋上か!』
僕はすぐに玄関を飛び出し、階段を昇る。
沙耶香さんのお部屋は最上階だったらしい。すぐに屋上の出入口に辿り着く。屋上の扉は開いており、その隙間から外の様子が窺えた。
沙耶香さんは 屋上の塀を背にし、両手で果物ナイフを握っており、警告を発しながら、左右に振り回している。
その表情は恐怖に歪んでおり、髪止めが外れ、ザンバラ髪の彼女の目には涙が留まっている。
膝はガクガクと震え、立っているのもやっとだ。それでも一杯一杯の心を請一杯奮い起たせるように、気丈にも身構えている。
さぞや心細いだろうに、今彼女は必死に自分の身を守ろうとしているのだ。
かたや男の方は背を向けているから、その表情は計りかねるが、きっと恐ろしい顔をしているのだろう。僕は振り向いた瞬間に目に入って来たあの男の恐ろしい眼光を想い出してゾッとする。
男は左効きらしく、左手に切れ味の凄そうなジャックナイフを持っている。それを左右に振りながら、彼女を追い詰めようと前傾みの姿勢で時折、足音をわざと鳴らして、もて遊ぶように追い詰める。
わざと時間を使って相手の心を揺さぶり、怖がらせて愉しんでいるのだろう。DV男のDV男たる由縁であろうが、獲物を追い詰め、いたぶるそのサディスティックな行為は、見ていておぞましい。
気分が悪くなる。彼女が叫べば叫ぶ程に、嬉しそうな笑い声を上げるこの男の性根は完全に腐っていた。
「近づかないで!これ以上近づいたら刺すわよ!」
必死で叫ぶ彼女の言葉も、都会特有の喧騒に掻き消されてしまう。男はより愉しそうに右手を耳に当てて、「あん?」と聞こえない仕草をして、ジリジリと間隔を詰めて行く。
彼女はもう悲愴な姿で心の動揺も頂天に達し、長い緊張を強いられたその心は幾許も無い。間も無く事切れそうであった。
そして遂に男が大胆な行動に出る。地を足で思い切り蹴り込むと一気に間合いを詰めて彼女に襲い掛かったのだ。
「いかん!!」
僕は震える心を抑え込み、必死になってその背を追う。
彼女はその瞬間、「キャーッ!!」と怖ろしい悲鳴を上げて避けようとするが、屋上の塀に阻まれて動けず、そのままその場にへたり込んでしまった。
男はいよいよ獲物を仕留めようと躍起と為っているので、背後の僕には気づかない。
気持ちがいきり立って、ヘラヘラと薄ら笑いを浮かべながら、勢い余って彼女を羽交い締めにしようとしたが、彼女が恐怖の余りへたり込んでしまったために、掴みにいったその両腕は空を切り、男はそのまま塀を越えてその姿を消した。
僕は後、僅かなところで男の身体を掴み損ね、そのまま塀に手を架けると階下を覗き込む。男は恐ろしい断末魔の悲鳴を上げたまま、下に下にと墜ちて行き、やがて地面に体当たりして動かなくなった。
そして辺リー面を、その曲った根性の血で染め上げる。僕にはその様子が、赤黒く染まったキャンバスにその身を殉じた、憐れな男に想えてならなかった。
僕はすぐに彼女に寄り添い、優しく声を掛けた。「大丈夫だよ、もう大丈夫だよ…」と。そして立ち上がれない彼女を優しく抱き留め、頭を撫でながら、親身に宥めた。
こうして僕の夢の冒険は終わりを告げた…。この時、少なくとも僕はそう想っていた。
彼女を抱き締め、その傷ついた心と身体を労る僕は、彼女に果たせなかったその想いを懸命に捧げる事が出来たと感じていたのだ。
僕は初めて素直な素の自分を表す事が出来たと想い、彼女の無事に安堵し、その心は高揚していた。
ここで僕は意識を失った。あぁ…その時が来たと想っていた。ところが僕があのプライベート空間に戻る事は無かったのである。
「三田村さ~ん聞こえますか?三田村忠司さ~ん聞こえますか?」
誰かが懸命に叫んでいる。否…呼び掛けていると言った方が良いのかも知れない。
僕は少しフワフワする感じで意識を取り戻す。
「おい!意識が戻りそうだ♪頑張れ!もうひと息だ♪」
そこは薄暗い場所で、複数の頭が覆い被さるように蠢いている。始め眼の焦点が定まらない僕はそう感じた。けれども違った。
僕が完全に意識を取り戻した時、急激に刺すような明かりが射し込んで来て、むしろ眩しく、僕は反射的に光を避けた。
その瞬間、僕は「グハッ」と発作的に戻した。口の中から異物が大量に出て、スッキリする感覚があった。
そこは病室だった。僕が目を覚まし、眺めた時、医師や看護師さん達がホッと胸を撫で下ろす姿が見えた。
「おい!もう大丈夫だ。心配無い♪」
医師の男は僕にそう告げた。僕は安心したようにコクりと頷くと、再び眠りに着いた。そう記憶している。
良く晴れた午後の昼下がり、僕は目覚めた。そこは病棟の一室らしい。開いた窓からは爽やかな風が時折、流れ込んで来る。風薫る季節である。
ふと人の気配に気づく。部屋の片隅には看護師さんらしい人が座っていてその人も窓の外から差し込む木洩れ日を眺めていた。
そして僕とほぼ同時にあちらも患者の気配に気づく。そして目が合う。
それは沙耶香さんだった。
僕はびっくりして目を真ん丸くして彼女を見つめた。彼女も僕を見つめている。
それはどちらかというと患者を見つめる目では無い事を僕は瞬時に感じ取っていた。そう僕が想っただけだった。願望に近いものも在ったろう。
けれどもそれは誤った認識では無かったのだ。それが証拠に彼女は僕と目が合った瞬間に駆け寄って来て、僕を抱き締めながら耳許でこう呟いた。
「忠司君♪良かった!目が覚めて本当に良かった♪」
そう彼女は言って僕の目を見つめた後にまた強くギュッと抱き締めたのだ。僕は照れも在ったのだろうが、「沙耶香さん痛いよ♪」何て言って、振りほどくでも無く成るに任せた。
言葉とは裏腹に僕の気持ちはどこかで彼女の事を求めていたのだろう。否…この際正直に成ろうと思う。僕はこの瞬間が、今まで生きてきた中で最高に幸せだったのである。
だから僕は有頂天になっていた。そしてその素直な気持ちを表そうと、少し大胆に為って僕もギュッと抱き締め返した。彼女はその瞬間に自分の大胆さに気づいた様に顔を赤らめた。
でも嬉しそうに笑みを浮かべていた。その口許から頬に掛けてあの可愛らしい靨を作って、はにかんでいた。
僕は彼女への恋心を再確認していた。けれどもまだもう一歩を踏み出すには至らなかった。
彼女がおそらくは九死に一生を得た僕の生還を喜んでくれている気持ちは本当だろう。でも僕にはこれで彼女との距離が縮まったのかどうかなんて良く判らなかったのだ。
だから僕は彼女を抱き締めながら、ただ一言、「有り難う…」とだけ言った。彼女はその言葉に「私こそ有り難う…」と答えた。
沙耶香さんは起き上がると、「先生を呼んで来ましょうね♪」と言って、僕の手をすり抜ける様に手を放すと病室の戸を開く。
扉を出る瞬間にクルリと振り向き僕を見つめるとニコリと微笑んでその姿を消した。あの靨が表れてまた、はにかんでいる様に見えた。
先生は事の顛末を話してくれた。以下簡単に記しておく事にする。
僕はおそらくはナツメグの多量摂取のため酩酊状態で見つかったのだという事だった。ナツメグは多量に摂取し過ぎると幻覚、錯乱、切迫した破滅感といったトランス状態に陥るという。
睡眠効果も極めて高いが多量に摂取する事は危険であり、致死量を越えると死ぬ事もあるという事だった。
「君はラッキーだった…」
先生はそう言った。僕がプライベートな空間だとウハウハしていたあの自宅は、実を言うと賃貸なのだ。大家さんはとても優しい人であり、僕がろくな物を食べていないのを心配して訪ねて下さり、見つけてくれたのだそうだ。
「悪いが原因を特定するために、君の食卓から不思議なものを預かっている。かなりの量のナツメグが発見されたので、原因を特定した訳だ。嘔吐物の分析とも一致するから、まず間違いないだろう…」
「…しかし、あの妙なものは何かね?どうもあらゆる調味料を混ぜ合わせたらしい事は判るのだが、それを食べるなんて正気の沙汰とも想えない。是非とも理由を知りたいね?興味がある!」
先生はそう言って、僕の返答を待っている。僕はチラッと沙耶香さんを見て黙り込む。さすがに愛しの君の前で御披露すべき事では無かった。
すると先生もそれに気づいたように、「君、悪いが外してくれるかい?」と言って、沙耶香さんを下がらせる。先生と二人っ切りになった僕は、想い切ってこう訊ねた。
「先生、お恥ずかしい限りです。どうしても言わなければなりませんか?」
先生は納得したように頷き、答える。
「そうだね、君はここがどこかまだ知らなかったね?ここは警察病院だ。君の大家さんはしっかりした人でね、君が口から泡を吹いて倒れ伏しているのを見て、まず警察に電話して来たんだ…」
「…こちらでも事件性があると見て、ここに収容したと言う訳だ。まぁ結果はあの練り物と判ったので、ほぼその線は無くなったんだけどね。でもおそらく君は今後、警察の事情聴取を受ける事になるだろうから、ここで話さなくても結局は同じ事さ…」
「…もしここで正直に話せば、この私が診断書として報告してあげるよ。それに今後も緊急対応時の役に立つかも知れないからね!まぁ個人的な興味が無いとは言わないが、男同士の内輪話さ♪どうする?」
成る程…先生の言う事は理に適っている。それにこの先生が助けてくれなければ僕の命も無かったかも知れない。
僕は恥ずかしさを抑えて告白する事にした。先生は僕の話しをかなり真険に聞いてくれた。
けして笑わかったし、途中、「おやおや…」、「成る程…」、「そらまた凄い…」などと凝音を入れながら最後まで聞いてくれた。
そして最後に「判った!」と言った。そして付け加えるようにこう話した。
「君はかなり"遊び心"があるんだね。でも今回ばかりはやり方が不味かったな。君は知らないだろうが、調味料の中には色々な成分が入っている。今回のナツメグにしてもそうだ…」
「…普通の人はそんなに大量摂取をしようと思わないから、用途の範囲内で使っている限りは安全だが、今回のように大量摂取に間接的に繋がるやり方はお勧め出来ない…」
「…君は危うく死ぬところだったんだからね。判ったら二度と手を染めない事だ。正直に話してくれたから、約束は守ろう。警察本部が納得すれば、形式的な聴取で済むはずだよ!」
先生はそう言って、最後に「お大事に!」と言った。僕は解放される段になって、ひとつ質問した。
「先生、僕が吐いた物の中に他にはどんなものがありましたか?出来れば知りたいのですけど?」
すると、先生は「あぁ…」と言って反応を示した。
「成る程…君はまだ、薬の作用で夢を見た事を信じているんだね?それは危険な事だよ!見たとしてもそれは幻覚だな。君は調味料以外何も服用していない…」
「…君はインスタントラーメンだとか、レトルトカレーだとか、デミグラスソースハンバーグだとか、このうち食べた形跡が残っていれば、倒れた時期や薬の作用が判ると想ったのだろう…」
「…まだ凝りて無いのかね?君は幻覚を引き起こしたのも然る事ながら、栄養失調でもあったのだ。つまり"長期間監禁されながら、変な薬を飲まされていなかったか?"という事件性だったんだよ…」
「…おっと!これ以上言うと守秘義務に低触するな?まぁでもここまで言わないと、また試されたら堪らないからね!医者として警告するが、二度とあんな事はしないでくれ。もっと命を大切にして欲しいし、今度やったらもう助けないぜ?」
軽い脅しが飛んで来て、僕は「すみません!二度とやりません…」と頭を下げた。これは僕の本音だった。けれども僕が訊ねた理由は、先生の危惧とは違っていた。
僕は先生が引き上げた後に、ベッドに横になりながらホッとしていた。僕が知りたかったのは、沙耶香さんの事だったのだ。
『あれは全て夢だったんだな…良かった。本当に良かった…』
僕はそう想っていたのだ。
つまり僕が夢と認識した事も、現実の体験と択えていた事も、全て僕が見た幻覚だったのである。もし仮にそうで在れば、"夢で見た女が現実に現れる"という説明も付く。だって夢の続きだったのだから…。
そして沙耶香さんもDV男に酷い目に会っていないし、あの屋上の事も含めて、全てが夢…否、幻覚だったのだ。
『それにしても…』
僕は想う。幻覚だったとしても、ある程度の想像力は必要なはずである。
『やれやれ、僕は意外にも創造性があるのかもな?小説家にでも成ろうかしら…』
そう想い苦笑したのであった。
すると扉が「トントン!」とノックされて、沙耶香 さんが入って来る。「検温で~す♪」と言いながら入って来た彼女は、少し照れ気味にこう言った。
「忠司さん、少し屋上で日向ぼっこでもしませんか?」
沙耶香さんが余りにもあっけらかんとそう告げたので、僕はキョトンとした顔で押し黙る。それを見ていた彼女はクスッと笑った。
「フフフッ…少しお話ししませんか?積もる話しもあるだろうし♪」
僕も彼女と少し話しがしたいと想っていたので、渡りに船だった。
「えぇ…そういう事なら是非!」
僕は久し振りな言われ方に、正直まだ頭の中が混乱していて着いて行けない。あれだけ夢の中で見守っていたのだから然も在らんというところだろう。でも会話するのは確かに久し振りだったので、素直に喜んだ。
「では患者さんはこれに座って下さいね♪」
彼女はそう言って、廊下から何かを運んで来る。車椅子だった。
「沙耶香さん、歩けますよ?大丈夫です♪」
僕は既に車椅子には収まっている。けれども少し照れ臭い。
「気にしないで下さいね♪これも仕事のうちです!」
沙耶香さんはまるで恥ずかしそうな仕草をするでもなく、ゆっくりと車椅子を押して、屋上の日射しの当たる場所まで連れて行ってくれた。
時折、渡って来る爽やかな風が心地好い。眼下の街の喧騒を眺めながら、二人はしばらく無言で佇む。そしてどちらからともなく話し掛けようとして、互いに気づき、今度は譲り合う。微笑ましい光景である。
「じゃあ、声を掛けた私から♪」
そう言って沙耶香さんは話し始めた。
「さっきは御免なさいね?びっくりしたでしょう♪」
彼女は照れるようにそう言った。
改めて言われると僕も想い出してしまい照れる。特にまだ彼女の感触が残っているようで恥ずかしかった。僕は想わず頭に手をやって「アハハハハ…」と誤魔化す。
実際、あの屋上での冒険譚の後だったから、大胆になれたが、今やあれが単なる幻想だったと判っているから、眼から火花が出そうに恥ずい。だから日頃慣れない事をやってしまった僕には、とても気まずかったのである。
でも男として相手に恥を掻かせる訳にはいかないから、そのまま押し黙ってしまった。言い訳など言えば、自分の気持ちは楽になるかも知れないが、相手に恥を掻かせる事になるから、それだけは頑として言いたくは無かった。
けれども女馴れしていないから、気の利いた言葉も出て来ない。それゆえに無言を貫くしか無かったのである。でもそれは杞憂だった。沙耶香さんはクスッと笑うとこう続けた。
「私、貴方を巻き込んだのかと想ってゾッとしたの。でも関係が無いと知って安心したわ♪だって貴方はとっても純粋で、朴訥だから何かあったら、一生後悔すると想ったのよ…」
そう彼女は言ったのである。
「へっ?」
僕は一瞬、何を言われているのか判らなくて、目をパチパチしてしまった。
「えっ?それはいったいどういう??」
僕は首を傾げながら、訊ねた。
「フフフッ♪私、麻取なのよ!勿論ここだけの内緒だけどね♪ほら、忠司さんと一緒に勤めていた会社、あそこ外資系で海外から物流と一緒に隠れて麻薬を輸入してたのよ♪だから潜入捜査してたんだけど、今回、やっと尻尾を出して壊滅出来たの♪…」
「…でも貴方をその仮程で巻き込んだかと想ってドキドキしてたの!でも無事で良かったわ♪関係無いと判って安心した。だから頬擦りしたいくらい嬉しかったの!少し大胆になり過ぎてびっくりしちゃったわよね?御免なさい!」
彼女は照れるようにそう言った。
「へっ?え~っ!!」
僕は唖然として一瞬固まる。そういう事ならその気になっていた僕はかなり恥ずい。
僕は呆けた顔をさらしたまま二の句が継げなかった。すると、彼女は大胆にもこう言ったのである。
「潮らしい可憐な娘で無くて御免なさい…でも私は貴方の事が少し気に為っていたの♪でも貴方ってどんなにそれらしい事を仄めかしても、全く動じて居ないんですもの!女としてはとても歯痒いのよ♪…」
「…でも私ってこんな仕事やってるからかしら?こちらの誘いに乗って来ない男には逆に燃える訳♪全くもう…私ったら恥ずかしいわ!何て事を言ってるんでしょう?…」
「…でもだからこそ貴方の事がずっと気になっていたのよ♪でも調書を読んで、貴方が私の事を掛け替えの無い女性だと想ってくれているのを知って、居ても立ってもいられなかったの…」
「…だから貴方をここに誘った訳♪まぁ本当の現実を知らせる意味も在ったんだけどね!心配してくれたのは心底、嬉しいわ♪でも私はそんなに弱い女じゃ無いのよ!御免なさいね、夢を壊してしまって♪」
早乙女沙耶香さんはそう言うとクスッとまた微笑んだ。靨の可愛さは現実だった。
僕は彼女が看護師でさえ無かった事に驚きを禁じ得なかった。でも彼女が本音をさらけ出してくれた事に感謝していた。
なぜかって?女性経験の無いボンクラな僕にとっては、駆け引きは難しいのだ。
『でもこれって脈があるって事になるよな?』
彼女の告白を聞いて僕はそう感じたのである。だから損にしてこう答えてみた。僕にとっては勇気が入ったし、ある意味これは賭けだったのである。
「沙耶香さん、もし宜しければもう一度機会を与えてくれますか?僕には貴方以外にいないのですから…」
彼女は静かに耳を傾けながら、僕の瞳を見つめている。そしてゆっくりと頷くと僕の耳許に唇を着けた。沙耶香さんは滔々と呟く。
「いいわ♪でも食事を作るのは苦手だから、貴方が作ってね!私は貴方を夢の世界に連れて行ってあげるから♡」
僕がコクりと頷くと、沙耶香さんは背後から僕の首を抱き締めた。こうして僕は人生に新しい生き甲斐を見出だしたのであった。
『良薬口に苦し』或いは『瓢箪から駒』…どちらでも構わないが、僕の場合は『塞翁が馬』という言葉が一番合うようである。
おしまい。
最後まで御一読下さり有り難うございます。新しい境地で書いた作品です。かなりの冒険もしましたが、ようやくまとまりホッとしています。私は今まで余りエッチな描写は避け、暴力的なシーンも避けて来ましたが、今回は思い切って書き綴ってみました。少し暴力的に感じるシーンも在りますが、かなり抑え目に書いてあるつもりです。ラストのシーンは、当初考えていたイメージとはかなり懸け離れた物と成りましたが、たまにはこういうシチュエーションもいいかと思った次第です。今後も新しい境地を拓ける様に努力していく所存です。最後の結末は、貴方の違った想像で変えてみるのも愉しいかも知れません。
筆者