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9,VSハイオーク ③

 コボルトたちに先導され、森の奥へと進んで行くとそこにはコボルトたちの集落があった。

 私はてっきり、そのままハイオークの元へ向かうものだと考えていたので、少し拍子抜けした気持ちだが、実際に魔物たちが集落をつくり、集団で生活する様子を見るのは初めてなので、たどり着いた集落が見えてきた時、私は新鮮な気持ちを抱いていた。


 コボルトの集落は、自然と共生しながら暮らす彼らの生活様式を物語っていた。

 集落は木でつくられた簡易的なバリケードで囲まれ、さらにその内側を2メートルほどに盛られた土壁が覆っている。バリケードや土壁の一部には草や木が植えこまれており、遠目からではすぐに集落があるようには見えず、森の一部として一体化していた。

 集落の中に入っていくと、獣道のように踏み固められた小さな道が集落の中心へ続き、その道に沿って小さな家屋が建ち並ぶ。その数は集落にしては少なく感じ、実際にどれほどの規模の群れが生活しているかはわからなかった。

 コボルトの住まいは自然の素材を活かしたもので、木や葉、岩などが組み合わさって作られている。形の悪い三角おむすびのような外観が特徴的で、コボルトの身長を考えると、こんなところで本当に暮らしているのかと思うほど、それぞれの家屋は小さい。が、よく見てみると、家の中に地下に広がるトンネル状の穴があり、家屋のようなものは入り口でしかないことがわかった。


 集落の中心には少し開けた広場があり、そこで日々の生活やコボルト間での交流が行われていることがうかがえる。私が来た際には、数匹のコボルトがなにやら話し合いをしていたが、私を見て驚いたのか隊長コボルトに駆け寄って何かを話していた。私には彼らの言葉がわからないため、犬が喧嘩しているようにしか見えないのだが、彼らの表情は真剣で、何か言い争っている様子には見えなかった。


 結局何事もなく、広間にいたコボルトたちとは別れ、そこからさらに進んで行くと、草木で装飾された大きなテントのような家にたどり着いた。何やら立派な建物だったので、群れの長的存在がいるのかと、入ることを躊躇していると、隊長コボルトは私に対しに手のひらを向け、ここで待っていろとジェスチャーしてきたので、ありがたく引き下がり、私は現在、道の脇に座り込んで彼らが戻ってくるのを待っている状態だった。

 

 道端に座りこみ、太陽が隠れてしまった曇り空の下で、テントから広場の方を見ると、家屋の奥には荒れた畑のようなものも見えた。人間が作るような精巧な畑ではないが、植えられた何かが変色してしまっていることからしばらく使っていないのだろう。

 集落に入った時から気づいていたが、この集落はあまり良い状態では無さそうだ。広場で見かけたコボルトも隊長たちよりも痩せていたし、誰かが住んでいる形跡が見あたら無い家屋もいくつかあった。ハイオークが現れたことで、森を荒らされたのだろうか。彼らがオークを睨みつけていたことから、何かあったのではないかとは考えていたが、集落にまで問題が波及しているとは思わなかった。

 そして、彼らはそんな状況で再び森の異物である私と出会った。鉱石を渡して共闘を求めてきたことから、おそらくゴーレム自体を見るのが初めてというわけではない。出会ったら即戦闘というような一般的な魔物と違い、私が不用意に彼らを攻撃しなかったことから、だったら仲間に加えて盾として働いてもらおうと考えたのだろう。正直、私自身、火力と小回りに難を抱えていたので願ったりかなったりだ。

 

 コボルトから前払いとしてもらった鉱物は、琥珀×10、水晶×2に加え、どこかから盗んできたのか、私では掘り出すことのできなかったルビー×1。ゴーレムを知る彼らが私にこれらを渡してきたということは、他のゴーレムたちは石を食べるだけでなく、このような鉱石も喜んで食べていたということ。私はもったいなくて食べていなかったが、琥珀であれば試しに一つぐらい食べてみてもいいだろう。

 そう思って、琥珀を一つ取り出すと、私は自身の体でそれを叩き潰した。理屈はよくわからないがこれで食べれるのだ。このあたりの仕様は調べなくとも、何となくで理解できるようになっている。琥珀を粉々にし、確実に食べたと認識すると、他の鉱物では味わえなかった、甘みを味覚として感じることができた。



 甘い、蜂蜜の味?確かにおいしいけど、ゴーレムってそんな嗜好品を求めて岩を掘り続ける生物なのか?もっと、別の理由で採掘してそうだけれど。



 体やステータスを調べてみるも、特に変化はない。

 このまま何も変化がなければ、この世界のゴーレムは、一度味わった甘味を忘れられずに、延々と壁や地面を掘り続けている可愛い奴らということになってしまうのだが、それでも私の体はどこも変わる様子がなく、普通のゴーレムのままだった。



 よくわからない、掲示板にもゴーレムが鉱石を食べてどうこうといった話はなかったはずだ。いずれ何かわかるかもしれないが、今後も鉱石は食べていった方がよいのだろうか、正直もったいないと思ってしまう。



 結局ゴーレムたちが鉱石を食べている理由はわからず、私自身、琥珀一つでけちけちすんのもいかがなものかと考え直していると。コボルト隊長らがテントの中から出てきて私のことを手招いていた。


 隊長の方へ行くと、先ほどまで、これからオークとどのように戦うかを話していたようで、後輩っぽいコボルトと寡黙そうなコボルトが身振り手振りでその様子を伝えてくれた。

 結論としては、やはり基本は私がタンクとして前に出て、代わるがわるコボルトたちが攻撃していくという作戦のようだ。先の戦闘から木製の槍では太刀打ちできないことが分かったため、今度は硬い石を槍先に取り付けて戦うとのこと。材料がなければ私が持っているものを渡そうかとも思ったが、幸い数は足りているようだ。

 この集落の現状だが、私が考えていた通り、既にオークが森を荒らしたせいで、維持ができない状態らしい。森の魔物や植物を好き勝手食い荒らされてしまったことで、食料が足りなくなってしまったのだ。加えて、討伐隊を二度、三度壊滅させられてしまい、そのオークの強さに戦うことをあきらめたコボルトたちは、集落のメンバー半数以上を、コボルト隊が夜に森を探索、警戒している間に、別の場所へと移住させ、別の地で一からまたやり直すことを決断した。そのため、ここに残っているメンバーは何とかオークに一矢報いてやりたいと殿(しんがり)兼、討伐を申し出た者たちであり、人員が少ないからこそ、武器の必要本数も少なく、畑等の管理に手を回すこともできず荒れ放題になっているというわけだ。

 先ほど、広間で話していたコボルトたちも直にここを出るらしく、それが最後の逃走班らしい。彼らが出発したのち、残るメンバーで守る必要のなくなった集落にオークをおびき寄せ、最後の決戦を行うのだという。

 

 戦うメンバーは私を抜いてコボルトの戦士5匹。私が面識のない2匹が誘導役を担い、私たちはここでオークを待ち受け戦う。逃げていった仲間が無事に安住の地を見つけることができるよう、オークにコボルトの力を見せつける戦いに私という部外者がいる。私としても神託をクリアするために全力を尽くすが、足を引っ張らないようにだけはしたい。



 集落におびき寄せるのであれば、何かやっておけることはないか…



 コボルト集落最後の戦いを前にして、私たちはそれぞれの思いを持って準備を進めた。

 

 

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