8,VSハイオーク ②
私のもとに初めて届いた神託は「ハイオーク討伐」。
勝てないとあきらめ、逃げ出してきた私にとって重荷が過ぎる目標だった。
しかし、神託は必ずしも達成しなければいけない目標ではない。従うも従わないも全てはプレイヤー次第。私があきらめるのであれば、特にどんな神託が来ようと問題ないのだが、初めて来た神託をスルーするというのはゲームをプレイしている人間にとって、そのゲームを最大限楽しむ行為とは言えない。一見、無理難題に見えた戦いでも、神託が来たということは、倒せるからこそ神託が来たとも読み取れる。
私は、自らのモットーを守るためにもハイオークを倒すことを心に決めた。
ハイオークと戦うことを考えた際、現在わかっていることは二つ。
一つは、ハイオークの素早さ。単純に言えば、私<ハイオーク。普通に負けているため、今回のように隙を作って、他にも敵がいるような状況でなければ逃げ出すこともかなわない。
二つ目は、攻撃力。できる限り威力を殺した攻撃でHPの半分近くを持っていかれた。うまくやって二発、もろに食らえば、耐えれて一発という感覚だろうか。防御力が売りの私がそれなのだから、あのコボルトたちは本当に必死の戦いなのだろう。私にとって、自身のストロングポイントで戦えていないのは大きな問題。硬さを失った私は所詮足の遅い雑魚。まともに正面からやりあったら瞬殺されるだけだろう。
そして、ハイオーク相手に情報が足りていない点もある。私の攻撃がハイオークに通じるかだ。
私の基本的な攻撃は体重を利用したプレス攻撃だ。私よりも体の大きなオークにどうやってそれを当てるのかも問題だが、私がオークよりも遅い以上、当てられたとしても一撃で倒せないのなら意味はない。しかし、一撃で倒すことを考えると、狙うべきは頭。堂々巡りになるがそんなところに私の体は届かない。体当たりを試みようも駆け足程度の速度じゃ、避けられるかそのまま滅多打ちにされるだけ。やはり、まともに攻撃するなら不意打ちしかない。
岩に擬態してオークをおびき寄せて、頭めがけて奇襲する。
私が勝てるとしたらこの条件すべてをクリアする必要がある。だとすれば必要なのは情報と確実性を上げるためのレベル上げだ。β版ではエリアは現在よりも限られていたし、出てくる魔物も今より少なかったはず。ハイオークの情報を得られるかは賭けだが一応調べてみよう。以前掲示板で「オーク」の話をしている人がいたはずで、オークの情報は確実に手に入る。下位種の情報でもないよりはましだろう。
そして、継戦能力向上のためにレベルを上げる必要もある。
現在、私のレベルは8だ。洞窟と森で幾度か戦闘をしたため以前よりもレベルが上がっているが、それでもオークの攻撃には耐えることができなかった。正直、私が少々レベルを上げたところで、まともにオークとタイマン勝負はできないだろう。しかし、HPの減り方からして、あと少しで条件付きではあるが、オークの攻撃を三回受けられるようになると私は考えている。それが、どこまで勝敗に関わってくるのかわからないが、万全の準備をしておくにこしたことはない。
方針は決まった。ひとまず、レベルを上げている途中で交戦してもいいように、情報収集してからレベル上げに向かおう。
森で戦ってる方が経験値効率的にはいいけど…。怖いから、洞窟の方へ向かうか。
ひよっているわけではなく、正常な判断であると多分、思う。
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洞窟の入り口付近に移動し、レベル上げを続けること約2時間。待ち伏せ形式の狩りになってしまうため、時間はかかったが、ようやくレベルを2ほど上げることができた。
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種族:ゴーレム Lv10
HP:40/40
MP:9/9
力 :18
魔力:3
防御:33
魔防:10
速 :3
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通常スキル
「転がり」:Lv1 「採掘」:Lv1
種族スキル
「火耐性」:Lv2 「風耐性」:Lv2
「斬撃耐性」:Lv2 「水脆弱」:Lv5
パッシブスキル
「体重」:Lv1 「飲食不要」
「不思議な瞳」
称号
「こだわりのPK」
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おそらく、これで、オークの攻撃を3回ほど耐えることができると思う。もちろん、まだ心もとないのでもう少しレベルを上げるつもりだが、現時点でも結構いい線はいっていると思う。本音を言えば「転がり」あたりのレベルが上がってくれれば、話がかなり変わってくるので、意識して狩りの最中も使っていたが、物事はそう都合よくいかないらしい。まぁ、仮にスキルレベルが上がったとして、能力の向上がどこに反映されるのかはわからないので、本当に希望的観測だったのだが。移動手段に、狩りと結構使っているんだけどなぁ…。
ハイオークの情報については、どうやらβ版にハイオークが登場しなかったらしく、見つけることができなかった。このことが、ハイオークがβ版ではお目にかかれないほどレベルの高い魔物だということを指すのか、ハイオークの生息地は本来この森ではないことを指すのかはわからない。単純に新しく追加されただけかもしれない。そのため、私は下位種であるオークについて情報を集めたのだが、集まった情報がこれだ。
・ステータスの伸びは、体力と力がもっとも良い。
・速度は遅め
・鼻が利く
正直、あまり役に立つ情報はなかった。むしろ、体力が多いことが分かったせいで待ち伏せして、頭を踏み抜いても倒せない可能性が出てきた。無駄死にが無くなったと考えれば役に立ったとは言えるが。
速度が遅めである点に関しては、私の方がもっと遅いことからあまり情報として意味を為さない。鼻が利くことは、元が猪の類であることから予想はできるが、激臭を放つアイテム等を私は持っていないし、心当たりもないため、有効打になることはなさそうだ。コボルトたちはオークのことを知っていそうだったし、オークはあの時、コボルトたちの匂いを辿ってあの場所に現れたのかもしれない。
その他の情報もあるにはあったが、生息地や習性といった今回の戦闘には関係のないものばかり。知識としては面白いが、今はもっとクリティカルな弱点が欲しかった。足遅いことが弱点じゃないか、とかなんだか言い出す奴は、私に謝ってほしい。
ハイオークに関する情報を思うように入手できなかった私に残された道は、レベルを上げてステータスで殴ることだ。序盤から、レベ上げ脳筋戦法はどうなんだと思いながらも、私は地面に腰を下ろし、再度レベル上げに勤しむことにする。
情報を集めて、移動して、レベル上げしてとなんだかんだやっていたら、太陽は再び頂点に近いところまで昇ってきている。私たちプレイヤーが初ログインしてからゲーム内時間で3日から4日たっている。私は洞窟にいたのでよくわからないが、少なくともこの森に来てから一度夜を越しているわけで、加速時間軸が使われているものの、現実世界でもそれなりの時間がたっている。
ハイオーク討伐は明日にして、そろそろログアウトしちゃおうかな…と考えていると、森の方から足音が聞こえてきた。
これ倒したら落ちよう、と森の方をジーと見つめ、茂みから姿を現すのがなんの魔物なのか待っていると、森からは三匹の見覚えのある魔物があらわれた。
見覚えのある犬の顔に槍。コボルトだ。
昨夜オークと戦ったコボルト達その本人が私の目の前に再度現れた。
森から現れた獲物が知ってる顔だったことに驚愕するが、彼らが生きていたことに、少しホッとする。そして、「生き残ったってことは、もしかしてハイオーク倒した!?」と慌てて神託を確認すると、今だお告げは変わりなく存在し、彼らがオークの元から逃げおおせたことが分かった。
しかし、じゃあなんでここにいるんだという疑問が解消されることもなく、彼らを襲うのはバツが悪いため、とりあえずどこに行くのか見守ってからログアウトすることを決める。
「私がログインするまでにやられるんじゃないぞ」と、一番に逃げ出したくせに戦友みたいな思いを込めながら彼らを見つめていると、あの最も立派な槍を持ち、オークにもダメージを与えることのできていた隊長格のコボルトと再び目が合った。
隊長と目が合い、あの時のような時間が止まったような感覚に陥る。
今、完全にこっち見たよな、と私がない汗を頬につたわせていると、隊長格のコボルトは後方の二匹に声をかけ、こちらに向かって歩いてきた。
茂みを抜け、一直線に歩み寄り、私の間合いの外ギリギリで停止すると、キノコを食べようとしてど突かれていたコボルトが、新しいものに変えたのか穂先が復活した槍を隊長に預け、スッと前に出て私の間合いの中に歩を進めてきた。
コボルトたちの不可解な行動に私の冷汗は量を増す。そんな私の状況を知るはずもなく、二匹のコボルトにジーッと見つめられる中で、コボルトは私の元までやってきて、少し止まったかと思うと、ペチペチと私の体を触ってきた。
何が何だかわからず、頭の中で「ひえぇーーーーっ!!」っとリアルじゃ絶対に出ないような悲鳴を上げる私を前に、今度はコボルト隊長がやってくる。
隊長はぼろぼろの麻袋のようなものを持っており、私の目の前でしゃがみこんだかと思うと袋を開き、私の前に色とりどりの宝石を並べた。
そんな隊長の行動に私があっけにとられていると、コボルトたちは再び私をジーッと見つめ動かなくなった。
く、くれるってことかな…
とりあえず、攻撃する意思はないようなのでその場から立ち上がり姿を現すと、後ろに控えたコボルトはビクッと体を揺らした。しかし、隊長格のコボルトは微動だにせず、私が完全に立ち上がるまで待つと、受け取れと言わんばかりに私から一歩距離をとった。
その様子を見て、いいのかなぁ…と思いつつ、おずおずと私が宝石をインベントリに仕舞い込むと、ど突かれていたコボルトが嬉しそうにこちらに駆け寄ってきて背中をバシバシと叩いてきた。
っ?…っ!!??
本格的にわけがわからず、頭をクエスチョンマークでいっぱいにしていると、ど突かれコボルトが私の背中をぐいぐいと押してきて、もう一匹のコボルトは行く先を示すかのように森の奥を槍で指し示した。
そこでようやく理解する。
これは、報酬の前払いだ。
コボルトに押された程度では微動だにしない私を目にし、隊長コボルトはついて来いと背中で語るように身を翻して歩き出す。すると先ほど槍で森を示していた寡黙そうなコボルトは私の前に位置どると、先導するように隊長の後についていく。その意図を察し、私が足を仕舞いこんで転がりだすと、必死に私を押し続けていたコボルトは勢い余ってつんのめった。
静かで美しい森の中に、異様な隊列が一つ。
私はハイオーク討伐に光が見えたような気がした。
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