7,VSハイオーク ①
予約投稿し忘れていました。
森から現れた、巨体を見て、今まで出会ってきた魔物との格の違いを岩肌で感じる。
大きさだけじゃない。ハイオークの体からは、他者の縄張りであるこの森で、自由に闊歩するのが当たり前と言わんばかりの強者のオーラを感じた。
強烈なハイオークの存在感にたじろぐ私を気にもせず、ハイオークはフガフガと鼻を鳴らし、右に左にと何か探すような仕草を見せる。そんなオークの様子を好機と見たのか、最初にキノコを食べようとしたコボルトがオークの前に飛び出し、その腹を貫こうと槍を突き出した。
素早いコボルトの攻撃をオークは避けることもできず、まともに腹で槍を受けた。木製ではあるものの鋭く加工されたそれは、勢いよく、オークの腹に突き刺さったかのように見えた。しかし、刺さったかのように見えた槍は、オークの筋肉によってへし折られており、コボルトは苦虫を噛み潰したような表情で穂先を見つめ、オークを睨みつけた。
そんなコボルトを煩わしく思ったのか。オークは手に持った丸太のような棍棒を振り上げると、コボルトに向けて勢いよく振り下ろした。
コボルトはその攻撃を間一髪のところで回避するが、棍棒の重さも込めて放たれた一撃は、すさまじい威力で地面をえぐり、もし、この一撃がコボルトに直撃していたら、確実に絶命していただろうことが予感させられた。
一連の攻防を見て私は、このオーク相手に戦うべきか否かを考える。
まず、オーク相手に勝機があるかだが、まず無いと考えていいだろう。オークの素早さは、見ている限り、当然私よりも上だ。流石に、コボルトのほうが速いようで、攻撃を避けられていたが、あれだって槍ではなく、爪や牙で攻撃していたら、もっと距離が縮まって回避が間に合わず、直撃を受けていたはずだ。
そして、攻撃力。高い物理防御を誇る私だが、直感的に感じる、あれは無理だと。まともに食らえば、耐えられるのは一撃がいいところ、下手したらそのままデスポーン一直線かもしれない。うまくいなすことができたら話は変わるかもしれないが、どちらにせよ、今までの相手とは格が違う、体格からいってこちらの攻撃が通らない可能性すらある。勝つのは正味無理だ。
では、今デスポーンすることを許せるか。これも微妙だとしか言えない。私は一度デスポーンを経験しているが、あの時は何もアイテムを持っていないばかりか、リス地点から離れてもいなかった。しかし、現在は、採掘で鉱石類を手に入れており、元々のリスポーン地点からも大きく離れている。リス地点が更新されるのか、されないのか。敗北時のアイテムのロストはどの程度なのか。その辺りを私が詳しく把握していれば、このまま特攻してもよかったのだが、勝機が薄すぎる上に情報も足りないとなるとここは一度撤退して、いろいろなことを調べ直してからの方が良い。
私はそう判断すると、転がる体勢は取らず、ゆっくりとオークたちから距離を取る。変に動くことによって、両者を刺激したくなかったからだ。
私がこの戦闘から離脱することを考えている間に、オークとコボルトは再び刃を交えており、圧倒的なパワーで棍棒を振り回すオークに、コボルトたちは入れ替わり立ち替わり攻撃していくことで上手く立ち回っていた。しかし、依然、オークに対して決定打を与えることはできておらず、一撃必殺の一振りをすんでの所で避け続けるコボルトと煩わしいコバエを相手にしているかのようなオークでは、見るからに消耗の度合いが違っていた。
唯一、仲間を叱りつけていた隊長格のコボルトだけは、オークに傷をつけることができており、オークも次第に隊長格ばかりを苛烈に攻撃するようになっている。負担が一匹に集中し、他のコボルトも仲間を助けようと、必死に自身に注意を向けさせるため攻撃を続けるが、オークは気にも留めない。痺れを切らして、槍の壊れてしまったコボルトが自身の牙を持ってオークに噛みつこうとするが、隊長格のコボルトはその捨て身の攻撃を諫めるがごとく、オークとの距離を一歩詰め、さらに自分に注意を向かせようとする。そして、その隊長の様子を見て、捨て身を図ったコボルトは攻めることができなくなってしまい、コボルト達の圧倒的不利で戦況は膠着していた。
その状況を観察しつつも、静かに後退し続けていた私は、そろそろ大丈夫だろう、と足を引っ込め、本格的に戦闘から離脱を図ろうとする。
必死に戦っているコボルト達には悪いが、私の方が足が遅いのだからどうか先に逃げることを許してほしい。
自分勝手に合掌し、コボルトたちの健闘を祈っていると、オークと必死のやり取りをしているはずの隊長コボルトと一瞬、目が合ったような気がした。
刹那の出来事だったが、時間が止まったように目に焼き付いたその瞬間は、何か悪いことがおきると確信させ、私の体に早く逃げろと警鐘を鳴らす。
しかし、私の体がそんなに素早く動けるはずもなく、あせあせと地面を蹴り飛ばし、逃げ出そうとすると、悪い予感が当たったか、隊長がこちらめがけて走りこんできた。
勢いよくこちらへ迫ってくるコボルトに、仰天し、動揺するが、そのままコボルトは私の背後にぴたりとくっついたかと思うと、私を盾にするように身を隠した。
そんなコボルトの行動にパニックになるが、まさかと思い、視線を先ほどまでコボルトたちが戦っていた方へ向けると、隊長格を追いかけて、オークがこちらに突っ込んできていた。
まずいっ!と思い、何とかすぐさま離脱する方法がないか画策するが、敵は既に私の眼前にたどり着き、棍棒を高々と掲げ、振り下ろさんとしていた。
間に合わない!!せめて勢いだけは!!!
オークの一撃が直撃することを悟った私は、せめてもの抵抗をと、オークに向かって地面を蹴りだし、疑似パリィを試みる。
私の頭と加速しきる前の棍棒がぶつかりあい、土木現場でしか聞けないような鈍い音が私の頭に重く響き渡る。
オークの攻撃を頭で受け止めた私は、その衝撃から二歩、三歩とよろめき転倒する。加速前に受けることができたというのに、オークの攻撃力はすさまじく、私のHPは半分ほど削られてしまった。
一方で、オークの方も棍棒の根元の方で私を殴りつけてしまったことから、相当嫌な振動が手に伝わったようで、棍棒から手を放し、痛がるようにブンブンと手を振っていた。
それを見た私は、今度こそ機会を逃すかと地面を蹴飛ばし、振り返ることなく、現場を一目散で転がり逃げていった。
オークにできた一瞬の隙をコボルトたちがどのように利用したかはわからないが、遠ざかっていく戦場からあの地面を揺らすような一撃の音は聞こえてくることはなかった。
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オークたちの元から、必死に転がり続けていると、だんだん朝日が登り始めてきた。
いささかまぶしい日の光を感じながら、さすがにここまでくれば大丈夫だろうと考え、足を止めた私は、万が一の意味も込めて再び岩に擬態すると、メニューから掲示板を開きデスポーンと敗北時のロストについての情報を調べた。
調べてわかったことは、魔物陣営のリスポーン地はデス時にいたマップか訪れた集落になるということ。ここで言うマップとは今回の場合、森であり以前の洞窟のことだ。リス狩りを防ぐため同一マップでもリスポーン地点はたびたび変わるようで、さらに、リスポーンした場所には特殊なエリアが展開され、一定距離、一定時間を置かなければ魔物もプレイヤーも認知できない空間になるらしい。
そして訪れたことのある集落もリスポーン地点になるとのことだが、これは友好的な関係性を結べた時のみのことで、さすがに集落を攻め落とす際に、その場をリスポーン地点とし、そこから蘇ることはできないらしい。
ロストについてだが、一度デスすると、現在のインベントリの中からランダムで約一割のアイテムが失われるようだ。これを知ると急いで離脱する必要はなかったかもしれないが、勝てもしない相手に無駄にロストするよりはよかったはずだ。
しかしながら、想定よりもデスのデメリットが小さかったのは事実。
残してきたコボルトたちに何となく申し訳なさを感じつつ、メニュー画面を閉じようとすると、神託の欄に通知が来ていることに気付く。
お、やっと来た。と自分のゲームプレイがきちんと進んでいたことを安堵しつつ、ワクワクとした気持ちで中身を確認すると、私の思考はフリーズする。
・・・・・・た、倒せるの、あれ…。
待ち望んだ神託には「ハイオーク討伐」の文字。
数刻前に告げられていた無茶苦茶なお告げに気づき、私は存在しない手で頭を掻きむしった。
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