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5,森

 洞窟内を「採掘」してまわったところ、以下のような成果を得ることができた。


 鉛: ×11

 石炭:×25

 銅鉱石: ×3

 琥珀:×1

 水晶の欠片:×1


 宝石物が出てくるとは思っていなかったので、琥珀や水晶の欠片が出てきたのには驚いた。人間陣営であれば売却することでいい駄賃になっただろうに。飾り付けることが趣味の魔物はいるのだろうか。

 鉛や石炭はそのままセットでどこかの鍛冶職人に売りつけることができそうだ、こちらは魔物陣営でも大いに必要となるだろうし、しっかりと保管しておきたい。

 銅鉱石については、私の中で少し用途に悩んでる。ゲームによって立場がまちまちなので鉛と比較してどちらが貴重なのかがよくわからない。出土した量からして銅の方が貴重なのだろうが、現実基準で考えると、どうしても柔らかいものというイメージが先行してしまうため、あまりレアものを掘ったとは思えていない。鉛を売り払う際にこちらもあげてしまおう。


 ちなみに、先ほどから売るという表現を使っているが、知性の無い魔物同士の商売は物々交換になるらしい。そのため、私が鉱物等を売る際はその代わりに武器や装備を譲ってもらうことになるのだが、私は異形種のため装備ができない。なので、私が今回の鉱物を卸す先は知性のある魔物に、ということになる。そこで稼いだお金はポーションにでも変えようと考えている。ポーションはインベントリから直接使用することができたはずで、私でも使用することができるだろう。非戦闘時であれば、HPは徐々に回復していくが、私の「魔力」や「MP」の伸びを見るに碌な魔法は覚えられないだろうから、戦闘中の回復手段として備えておくに越したことはない。

 また、今回採掘を行う中で鉱物の他にも、採掘作業中に削った岩や石が多数出たが、こちらは削った先から食べることで消費してしまった。インベントリの圧迫を防ぐ目的もあったが、飲食の必要のないゴーレムがなぜ岩を食べているのか、という検証を行う意味合いもあった。しかし、結果としてゴーレムが岩を食べる理由はよくわからなかった。いくら食べても体が大きくなるわけでもなく、回復もせず、ステータスが伸びることもなかった。それはそうだろうという気もしなくはないが、だったらなぜ食べるのかという疑問は深まるばかり。さすがに無意味ということはないだろうから、こちらも試し続けるしかないと結論付けた。なお、宝石類を食べるのは現状貴重すぎるので保留した。鉛と石炭はまずかった。


 探索している途中で、洞窟内部に地下水源も発見した。ゴブリンが生息していることからどこかしらに水源が存在しているのだろうとは思っていたが、私が見つけたものは存外小さく、水の供給には使うことはできなそうだった。しかし、せっかく水場を見つけたのだからと、試しに片足を水に浸してみると、特にダメージを負うことはなく、フィールド上の水たまりや突然の雨にまで気を使う必要はないことが分かった。「水脆弱:Lv5」持ちとしては一安心だが、ダメージを受けたケースを見ることができなかったことには少し不安が残る。また、採掘作業を行っている最中、何度か魔物と交戦する機会があったが、どの魔物も私に対してまともに攻撃を通せず、全ての攻撃が1に計算されてしまうため「斬撃耐性」等の検証は進まないままだった。「こだわりのPK」に関してもいまだ検証は進んでいない。もしかするとまだ私のレベルがNPCより下なのかもしれないが、そんなことがあるのだろうか。


 移動を加速させる手段については少し光明が見えた。回転中にタイミングよく地面を蹴ることで格好は不細工だが、歩行のスピードから駆け足ぐらいの速さにスピードを上げることができた。もちろんこの速度では、いまだゴブリンプレイヤーには逃げられてしまうが、移動速度はほぼ倍になったため、スムーズに探索を行うことができるようになった。加えて、小さくジャンプすることも可能になったため、回転からの巻き込みもよりスムーズに行えるようになった。



 移動中の工夫はスキルに関与するものではないが、バグとして修正されるほど大きなものではない。解決とまでは行かないが、遅すぎる攻撃への回答としては及第点だろう。



 自身の発想に満足しながら、地面の位置を確かめるようにして足を蹴りだす。体の回転が速くなったことを感じ、体感する速度も見える景色も加速する。

 採掘や戦闘をある程度繰り返した私は、現在は洞窟から出ることを最優先に考え移動していた。

 ゲーム開始から考えて、ゲーム内時間のほぼ一日を洞窟内で生活していたが、少し飽きてしまった。鉱石を掘り続けたり、雑魚狩りをし続けたりといった単純作業が嫌いというわけではないのだが、それを続けていると、ふと心に「これゲームでやる必要ある?」と浮かんできてしまうのだ。いや、もちろん、興が乗っている時はこのような単純作業でも何時間と続けることもある。しかし、今日はゲーム開始日。初日からこんな作業めいたことしていては少しもったいない。

 事実、いまだ私の元には神託が下りてきていない。ゲーム内時間で一日が経過しているのにゲームが進んでいないのだ。普通に考えてちょっと異様。そのため、現在はより神託を得られやすい行動は何なのかと考え外を目指している。



 ゴロゴロと地面を転がり、ひとまず傾斜が上に傾く方を目指して進む。巷では、「右手を付くと絶対に出られる」だのどうのと言われることもあるが、正直いまさら遅い。初めからやっておけばよかったなと思うこともあったが、採掘ポイントで右往左往しているうちに忘れてしまっただろう。

 よくないな…こうやって自分を正当化する理由を考えていると仕事で上司に怒られたことを思い出す。やめよう。ここに上司はいない。私はゲームをしているんだからゲームのことを考えればいいのだ。長めの有休だから、出社した時に白い目で見られるんだろうなとか考えちゃいけない。というか有休は社員の権利であって、とらなかったらとらなかったで急かしてくるんだ。私が文句を言われる筋合いは断じてない。…もう少し分けてとるのが社会人としては普通だよなぁ…。いや、だから私は普通に権利を行使しただけで…



 などと、あっちにすればよかったか、こっちにすればよかったか?と考えていると、存外出口の近くにまで来ていたのか、あっさり外へたどり着くことができた。




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 外に出るとそこに広がっていたのは、木漏れ日の落ちる静かな森。所狭しと競うように木々が生えているわけでもなく、大規模な伐採が行われたかのように自然が破壊されているわけでもない。誰もが想像する静かで美しい森がそこには広がっていた。

 そんな森を目の前にし、先ほどまで代わり映えの無い洞窟の中でうろうろしていた私は感嘆のため息を吐く。



 ゲームの中で自然を感じるとは皮肉なことだ…。



 オフィス街ではまずありえない童心に戻る光景。葉の隙間から除く空を見上げると、雲一つない晴天で、緑に囲まれていることからか、穏やかな心持にさせられる。葉の形は広葉樹のものだろうか、本来ゴーレムが知覚するはずのない、暖かな森の香りを感じることができ、周囲を見渡してみても、遠目に小型の魔物が見えるばかりで本当に穏やかな森だった。

 そんな森に心を洗われ、誘われるように森の中を歩いていると、気にも留めていなかった茂みから何かが飛び出し、静かだった森に雑音が走った。



 ガサガサと茂みから飛び出した何かは、そのまま私の背中に飛び掛かってきた。

 油断していた私は背後からそのまま不意打ちを食らい、ガキン!と、硬いもの同士がぶつかった音がしたと同時に、地面に倒されてしまった。

 驚く私が状況を把握しようとするが、その暇もないようで二回、三回と攻撃は繰り返される。しかし、幸い防御特化の私にはあまりダメージは通っていないようで、体を起こしながら、思いっ切り地面を蹴り上げると、飛び掛かってきた何かを振り払うことができた。



 グルルルル……



 振り払った先を見つめると、そこには、歯茎をむき出しにしてこちらをにらみつける狼がいた。



 これは…すごいな…



 襲い掛かってきた狼の姿を見て私は驚く。狼は体に木の葉を纏っており、牙をのぞかせる口と鋭い眼光以外、すべての部位が葉に覆われていた。リーフウルフといっただろうか、茂みや木の中に擬態し奇襲を行う、私と似たタイプの魔物だ。通常、群れをつくって狩りを行うこの魔物が、単独で、しかも肉の無い私を狙ってきたことに疑問を覚えるが、相手を見る限り、それを考える暇はなさそうだ。


 リーフウルフはもう一度飛び掛かろうと臨戦態勢を整えている。鋭い牙や爪を見るに、私が今まで戦ってきた洞窟内の魔物たちよりも火力は高そうだ。しかし、「斬撃耐性」の効果だろう、HPの減りは変わらず1。今回も私の硬い体は被ダメージを限りなく0に抑えていた。唯一の懸念点は、リーフウルフがゴブリンよりも明らかに素早い事だが、私は既にヒット&アウェイ戦法への回答策を編み出している。抜かりはない…。


 にらみ合いながら、ゆっくりとにじり寄ってきたリーフウルフは、ついにその牙で私に噛みつこうと飛び掛かってきた。

 その瞬間、私は飛び込んでくるリーフウルフめがけて、同じように小さく跳ね上がった。

 ガチッ!!と先ほどよりも鈍いを音を響かせながら、両者の頭部が激突する。重々しく着地した私と、軽やかに身を翻したリーフウルフは再び一定の距離でにらみ合う。一見、先ほどまでと変わらぬ光景に見えるが、距離をとったリーフウルフは、明らかに自身の口に違和感を覚えているようで、こちらをにらみつけながら、しきりに舌を動かしている。


 これこそが私が生み出した新戦法、その名も「疑似パリィ」。敵の攻撃に合わせて、自らも突進(?)することで敵にダメージを与える戦法だ。この発想と、実行は自身の頑強な体から生み出したもので、「硬くてダメージを受けないんだったら、盾みたいに扱えばいいじゃないか」、と思い至ったがゆえにこの戦法を編み出した。なお、こちらも変わらずダメージは受けているし、他にも弱点が存在する。それゆえ「疑似」。しかし、今までダメージソースに乏しかった私が新たなダメージソースを手に入れたのだ。又も、不細工な行動であるものの私は気に入っている。



 ふふ…どうだ狼。私にも牙はあるのだよ…



 あまりにもうまくハマった戦法を前に鼻息を荒くし、もう一度来いよ、とばかり狼をにらみつけていると、リーフウルフは一歩後ずさったかと思いきや、そのまま逃げて行ってしまった。

 先ほどまでの血気盛んな様子から打って変わったその態度に、豆鉄砲を食らったような気持ちになるが、早速、新戦法の弱点が露呈したことを感じ、無い肩を落とす。



 逃げられたらパリィも何もないんだよな…。NPCならそのまま戦い続けるかと思ってたけど違うのか。



 狼が逃げていった先を寂しげに見つめながら、いくつかの可能性を検討すると、一つ思い当たる節があった。「称号」だ。私は今までプレイヤー以外の魔物と相対した時、逃げられたことがなかった。だからこそ気づかなかったが、仮に「こだわりのPK」の発動条件がダメージを受けたことであれば説明はできる。あのリーフウルフは私のパリィでダメージを受け、なんだかよくわからない「威圧感」をうけたから逃げたのだ。洞窟でNPCゴブリンと戦った際は足をつぶして、逃げたくても逃げられない状態にしてたからわからなかったのだ。



 ただ、そう考えるとこの称号正直邪魔なのでは…。いや、普通にプレイヤーだっていう可能性もある。ヒット&アウェイ戦法を知らなかったとか、知ってても思いのほかパリィがうまくいって、私を脅威に感じたとか、考えられないことはない。とりあえずパリィのダメージは通っていた。それで満足しよう…



 せっかくもらった称号から、なんだかお粗末な香りが漂ってきたことに蓋をし、私は無理やり気持ちを切り替える。



 とりあえず、この森の中も探索してみよう。知りたいこともたくさんある。私が木を木材として入手できるのかとか、木の実とか拾えるのかとか、岩に擬態する戦法は森でも通用するのかとか試すことはいくらでもある。



 新戦法がうまくいった矢先、もらった当初はうれしかった称号が思ったよりもポンコツで、かみ合わせが悪いのではないかと気づいてしまった私は、再び頭を悩ませながら森の中を探索していくのだった。 




 ―――――――――――――――――――――――




「こだわりのPK」

 自分よりもレベルの低いNPCに対し極微量の「行動阻害」を、ダメージを与えた敵に「警戒」のバッドステータスを与える。


…………


 会社の話を少し出しましたが、本作品に主人公の同僚、上司、友人、その他もろもろが登場することはまずありません。



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