32,WE1 『迷宮行脚』 ④
前回の投稿は“ 06/21 18:00 ”です。
ボス部屋を目指して、さらに3時間ほどが経過したころ、私たちは中ボスの部屋と見られる、扉の前にたどり着いた。
ここまでくる間に、人間陣営のみんなの情報から、より確度の高いイベント仕様を理解することが出来た。
まず、私たちがボス部屋だと思っていた部屋は、所謂、中ボスの部屋だった。
最初に中ボス部屋を攻略したパーティーは、ボス狼を含め5体の魔物を倒した際、攻略度が今までになく上昇したことを感じたため、その場がボス部屋だと勘違いしたようだ。しかし、その後先に進むと、さらに大きな扉があり、その先には光り輝くトカゲがいたということだ。
トカゲの強さは凄まじく、攻略班であるそのパーティー曰く、「現状倒せると思えない。」と感じたほど。
現在、それなりの数のパーティーが中ボス部屋を突破し、ボスに至っているが、そのほとんどが同じようなことを言っている。特殊な攻撃を行ってくることは無いが、圧倒的な防御と、攻撃力で押し通してくる、と。
ただ、共有されている情報もあってか、徐々に与ダメージ量は上がっているようで、ボスアタックを何度も繰り返せば、倒せるかもしれないと掲示板では言われていた。
ボスを倒せば、中ボスを倒した時以上の攻略度上昇は必至。そのため、現在の人間陣営は、終着点が変わったものの、依然、中ボス部屋を目指すことが全体の方針となっている。
また、中ボスを倒すことのできたパーティーが増えてきたことによって、中ボス部屋についての情報も段々と集まってきた。
まず、中ボスには大きく分けて二つのタイプが存在する。
一つが、攻撃型、もう一つが防衛型。
攻撃型は、基本的にボスの魔物を取り囲むように配下(?)の魔物が5体ほど配置されており、配下と共にボスが攻撃してくるという。
防衛型は、ボスの魔物が固定で、無機質な体を持った女性型のボスを守るように、2~3体の魔物が配置され、ボスの支援を受けながら、配下の魔物が攻撃してくるという。
一見、数の多い、攻撃型のボスの方が難しいと思ってしまうが、実はそうではなく、どうやら、攻撃型のボス部屋は属性が偏っていることが多いらしく、自分たちのパーティーが有利に戦えるボスを相手することが出来れば、上級者でなくとも勝つことは可能だと言われていた。
そして、防衛型のボスはというと、かなり厄介で、配下の魔物に対し、回復やバフを行ってくるらしい。
攻撃型の取り巻きよりも、防衛型の配下たちは強い魔物が多いとのことで、それらにバフや回復が入ることで、かなりの凶悪さを見せるという。ただ、その分、ボス本体はかなり柔らかく、何とか隙をついてボスだけを倒すことが出来れば、倒せる可能性があるとのこと。
防衛型のボスはこれまで、討伐が報告されたのは合計で6件しかなく、攻撃型と比べてハズレの扱いを受けている。攻略難度から言って防衛型の方が多くの攻略度を貰えそうなものだが、現状、双方を攻略している人間がいないため、検証はできていない。
これから私たちが挑むボスも攻撃型の方だったらありがたいけど・・・
「ユキ、MPは回復した?」
「うん、大丈夫。もういけるよ。」
ボス攻略について考えながら、MPを回復させていると、アヤカがタイミングよく声をかけてくれた。
アヤカも魔法職のため、MPを回復させる必要があるが、ヒーラーの私の場合、ポーション節約のため、戦闘後に皆を回復させる役割も担っている。そのため、戦闘後はこうして私待ちになってしまうことがしばしばある。
私のMPが回復したことを知ると、ダイキとヒロトも立ち上がり、ボス部屋に突入する準備を始める。
「一応さっきも言ったけど、もし、防衛型だったら一気に突っ込んでいくからね。僕とダイキで取り巻き2体を抑えるから、アヤカはボスに攻撃お願い。」
「わかってる、まかせて!」
元気よく答えるアヤカに、ヒロトもにこりと頷く。
実際に戦った際、作戦通りうまくいくかはわからないが、防衛型を倒しているパーティーの戦法がこれだったのだから、マネするほか無い。
攻撃型だった場合は、その逆で少し様子を見ながら戦うことになっている。
中ボス部屋は、属性が偏っていることが多いせいか、初見の魔物が多い。まずは相手の属性や弱点。戦法を理解してから、その都度、組み立てていくことになっている。
「にしても、もう攻略度が7%か~。中ボス倒してからはあっという間だな、80%以上もいけそうだし。」
ダイキがあっけらかんと言うが、私はそれに反論する。
「どうだろう。イベントが始まってから6時間で7%だよね?もう少し稼いでおけないとまずい気もするけど・・・」
これは、ただの勘ではなく、イベントの仕様に基づいた不安だ。
「なんでさ?実質3時間で稼いでるんだから大丈夫だろ?」
「ポーションが足りなくなるよ。いくらヒーラーがパーティーにいたって、戦闘中のMPには限界があるし、魔物陣営と違って私たちはMPポーションをもってないでしょ?中ボス戦でデスポーンしたり、回復アイテムを使っているようじゃ、ボスまで進めても体力が持たない・・・と思う。」
私が自分の感想を言うと、ダイキも「そうかぁ?・・・」と口元に手を当てて再度、現状のペースについて考えている。
すると今度はヒロトが口を開いて。
「後半戦になるとどんどん厳しくなるのは、多分正しいと思う。一度リスポーンすると、入り口付近まで戻されるみたいだから、ここまで戻ってくるのにも時間がかかるし。
それに、デス数の制限もある。ボスを攻略する方法が見つかる前に、実力者がデスしきってしまったら、ボスを倒せないどころか、中ボスを倒せる人が減って攻略度を稼ぐスピードも減るだろうね。」
と、神妙な面持ちで語る。
「そもそもボスを倒す必要あるの?中ボスだけ倒してリスポーンすればいいじゃん。」とアヤカが言うが、残念ながらそれは仕様上できない。というか、ダンジョンの外でも、そのようなことはできない。なにか、専用のアイテムや、魔法があれば別なんだけれど・・・
「なぁ、今言ってたこと、一応掲示板で共有したほうがいいんじゃないか?要は、上級者がボスに挑みすぎたらまずいってことだろ?俺たちみたいな、初、中級者が情報集めるからって、書いとかねぇと、あいつら挑み続けちまわないか?」
中ボス部屋を攻略することで、攻略度を多く稼ぐことができ、それを安定して行える可能性の高い、人間陣営の強者が、このダンジョンを死ぬこと無く周回するには、ボスの攻略が必須。だからこそ、ボス攻略のためのトライ&エラーは私たち初、中級者が行う。
私たちでも気づけるようなことを、ゲーム慣れしてるであろう上級者が理解していないとは思えないが、情報を周知させるのは重要なこと。
ダイキの意見に皆が賛成し、私たちの考えを掲示板に書き込んでから、中ボスには挑むこととなった。
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「それじゃあ、行くよ。」
掲示板に情報を書き込んだのち、私たちはとうとう中ボス部屋に突入する。
ヒロトの言葉に、皆頷き、先陣を切って行く前衛の二人が、共に扉を開ける。
攻撃型、防衛型、双方の対策は立てたが、やはり当たるのなら攻撃型の方がいい。
自分たちの実力がそこまで高くないことは自覚しているが、どうせイベントに出るなら、ボスの姿も直接拝んでみたい。
私の隣に立つアヤカは、防衛型だった場合、初撃を担うことから、少しばかり緊張しているように見える。そんなアヤカの様子を見て、私は尚のこと攻撃型が出てくることを祈る。
扉が完全に開き、中ボス部屋があらわになる。
ゆっくりと中に入っていくと、岩肌に包まれた、コロッシアムのような円形の部屋の中に、数匹の魔物を視認することが出来た。
攻撃型だ!
敵の中に、鉄でできた女型の魔物がいないことから、私たちは賭けに勝ったことを直感する。
勝利への確率が大幅に上がったこと喜びつつ、相手の魔物を観察するとやはり一筋縄ではいかないことを実感させられた。
・・・どれも、初見の魔物ばかりだ。
唯一見たことがあるのは中央にいるゴーレムだけだ。
しかし、そのゴーレムも私たちが知るものと違い、丸い岩でできた手が備え付けられている。体も一回り大きいように思える。ゴーレムの亜種なのだろうか?
そんなゴーレムを取り囲むように、赤褐色の鎧を纏った剣士、地面から体を半分出したモグラ、細長い動く岩、枯れ木、岩でできたトカゲの5体の魔物がいる。
存在感から言うと、ボスはあのゴーレムか鎧の魔物だろうか、大部分の魔物が初見だが、モデルになった生物や今までの知識から、ある程度攻撃は予想がつく。だが・・・
「ヒロト、これまずくない・・・?」
アヤカが、盾とメイスを構え、魔物を牽制するヒロトに向かって、問いかける。
アヤカがそう思うのも、無理はない。
私たちが相手する中ボスが攻撃型ということは、敵の属性は偏っていると考えていいだろう。つまり、見た目からしても、彼らは岩系統が多い。となれば、通常のゴーレムの耐性からしても、弱点は水であり、火と風は通りにくいと考えられる。
しかし、アヤカのメイン魔法は火属性だ。いくら威力重視の魔法を使おうが、耐性が不利だと実力を100%発揮することができない。しかも、アヤカは効率よく経験値を入れていくために、他の属性の魔法を持っていない。そのうえ、硬い体を持つ魔物に対し、斬撃は分が悪いため、ダイキもどちらかと言えば分が悪い。
属性が偏るということは、こちらに不利な魔物がそろうこともあり得るということか。メイン火力二人が潰される・・・、最悪のパターンを引いたかもしれない。
「そうだね・・・。よし、じゃあ、ダイキとアヤカはサポートに回ってくれ。火力は僕とユキで出す。ユキ、大丈夫そう?」
斬撃と火が効かないとなれば、メイスによる打撃と私がサブウェポンで持っている水魔法を使用するしかない。
「私は大丈夫。でも、私の魔力じゃ、弱点付けても、どこまで入るか・・・。回復もできなくなるよ?」
ヒーラーの私が火力を出すということは、回復手段がなくなるということ。そしてそれは、私たちが懸念していたポーションの枯渇に直結する。
「言いたいことはわけるけどよ、そもそも3回しかデスできないんだ。あきらめて無駄に落ちるより、一回一回全力出して戦った方がいいと思うぞ、俺は。」
ポーション残量が頭をよぎり、迷う私に、ダイキがまっすぐな意見をくれる。
「・・・わかった。じゃあ、皆回復は各自お願い。誰から狙えばいい?」
「相手の数が多い。まずは体力の少なそうな奴からいこう。あのトカゲが前に出てきたら、そいつを。モグラは地面に隠れるだろうから、トカゲが前に来なかった時は、動きの遅そうなゴーレムに行こう。」
ヒロトの指示に、短く「わかった。」と返し、杖を構えて狙いを定める。
先手は相手に譲る。
どんな攻撃が来ようと、ヒロトのスキルなら私が危険にさらされることは無い。とにかく当てることだけを考えよう。
私がより一層杖に力を込めたタイミングで、敵のモグラが地面に潜りこみ、鎧剣士とゴーレムが前進してきた。
「来るぞ!!」
ダイキが声を張り上げ、私たちに緊張が走る。
最も接近が速かったのは、先頭にいたこともあってか鎧の剣士。
ダイキ目掛けて直剣を振りかざし、斬りかかってきた。
肩口目掛けた袈裟斬りを、幅の広い大剣でガードしたダイキの足元には、ボコボコと地面を盛り上げながらモグラが接近してきている。
危ないと思い、魔法を鎧剣士に打ち込もうとするが、それよりも先に、ヒロトがメイスで以て、ダイキのカバーに入る。
ヒロトの打撃を鎧剣士がシールドで防御したと同時に、ダイキは地面に向けて大剣を振りかざし、モグラが飛び出した瞬間、大剣を叩きつけた。
ガキン!!と金属同士がぶつかったような音がすると同時に、モグラの魔物が後方に弾き飛ばされる。
前衛二人の様子を見て、トカゲの現在位置を一瞬確認するが、まだ前には出てきていなかったため、私はこちらに転がってきているゴーレムめがけて水魔法を放つ。
同時に、アヤカもなぜか後方で待機している枯れ木のような魔物に向かって火魔法を放った。
私たちの放った攻撃は、どれぞれの標的に向かって一直線に飛んでいく。
アヤカが放った火魔法は、枯れ木に向かって直撃コースで飛来するが、近くでじっとしていた、トカゲの魔物が口を大きく開けると、そこから岩石が発射され、掻き消されてしまった。
まさかの魔力系の攻撃に驚くが、アヤカの魔法は牽制目的の物のため、当たるかどうかは問題でない。
本命である私の魔法は、転がるゴーレムに邪魔されること無く飛んでいき、防御されること無く、直撃した。
が、ボトリとゴーレムから岩が落ちるのみで、当たったにもかかわらず、ゴーレムは直進を続けてきた。
なんで!?何かのスキルを使ったの!?
ダメージを負った様子のないゴーレムに不気味さを感じながらも、私は急いで次の魔法を用意する。
ヒロトは依然、鎧剣士の相手を務めており、アヤカは出の早い魔法を使って、トカゲの魔物を牽制し続けている。モグラの魔物を弾き飛ばしたダイキは、ゴーレムを待ち構えながら、モグラの様子も注視している。
重いタワーシールドを持っているせいか、何度か攻撃を食らってしまっている、ヒロトを見て、何とか隙を作ろうと、鎧剣士に水魔法を飛ばすも、あまり効いている様子はなく、この魔物は弱点が違うのかと、舌打ちをしたくなる。
全員が手一杯の状況で、さらにパンクさせるかのように、細長い岩の魔物が滑る様な動きでヒロトに突進していく。
「ヒロト!2体目が行ってる!!」
声を張り上げて注意を促すも、だからと言って逃げ出せる状態では無い。
前衛同士でサポートを、とダイキを見るが、転がってきたゴーレムと、近距離で殴り合いを繰り広げており、カバーに入れる状況ではない。
くっ!
私は自身が手助けするしかないと悟り、再び、水魔法を鎧剣士に向かって解き放つ。
すると、今まで私の攻撃に反応もしなかった鎧剣士が図ったかのように、ヒロトを放置し、盾で魔法を防ぎながら、私めがけて突進してきた。
突然自身から獲物を変えた鎧剣士に驚きつつ、その意図に気づいたヒロトが慌ててスキルを発動しようとするが、そこに細長い岩の魔物が体当たりをかましてくる。
魔物の攻撃を、ヒロトは何とか盾で攻撃を防ぐが、スキルは中断され、私を襲う鎧剣士を阻むものはなくなってしまった。
障害なく私の元へたどり着いた剣士は、大きく上段に剣を振り掲げ、私を切り裂こうと剣を輝かせる。
やられた!!
両手で杖を頭上に突き出し、振り下ろされる直剣を何とかガードしようとし、グッと目を閉じる。
「ユキ!!!!!」
大ダメージを覚悟し、グッと体を固くしていた私は、アヤカの声に、はっ、と目を開けると、次の瞬間、私目の前で剣を振りかざしていた鎧剣士が、爆音とともに炎に包まれた。
ボゴゥ!!!
よほど炎に耐性が無かったのか、燃え盛る炎の中、ガラガラと崩れ落ちていく鎧騎士を前に、私は一瞬惚けてしまうが、再三呼び続けるアヤカの声に再び意識を覚醒させる。
「アヤカ、ありがt・・・」
「ユキ!下!!地面!!!!!」
「ユキ!避けろ!!!」
え
ボカボカッ!!
二人の声に反応しようとした瞬間、ゲームによって作られた痛覚に似た何かが、私の足元と顔面に響き渡る。
そのまま、アヤカにお礼を言うことも、ダイキの声に疑問の声を上げることもできないまま、私の視界はブラックアウトした。
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