30,WE1 『迷宮行脚』 ②
前回の投稿は“ 06/19 18:00 ”です。
ワールドイベント開始30分前。
私は、ボスである虹晶蜥蜴に繋がる、特定エリア。所謂、中ボス部屋で五匹の魔物と共に待機していた。
私たち魔物陣営のチャットファイトを鎮火させようとしたのか、元々予定されていたのかわからないが、ワールドイベントに追加要素が加わった。
それは、プレイヤーがどのようなプレイスタイルでイベントに参加するのか選べるというもの。
中ボスになるか、中ボス部屋の子分をやるか、通常の魔物として徘徊するか、の三択から選ぶことができ、それぞれに違った恩恵を受けられるようになっている。
この追加要素が発表された際、スレ内はお祭り騒ぎだった。なにせ、各々がやりたい放題できるようになったのだ。私自身、すごく喜んだ。
元々、イベント攻略派はどこに当てはまろうと、各人全力を出して戦うという方針なので、今回の追加要素はただ喧嘩しなくてすむ、というぐらいの恩恵かも知れないが、RP勢にとってはかなり大きい。違和感なく、全力で戦える場を整えてもらったことで、楽しみながら、攻略にも貢献。という最高の舞台を用意してもらえた。
RP勢も、イベントに貢献したくないという人はいなかったので、パーティを組むならパーティを組むできちんと理由を付けてほしかったのだ。今回はその役目を運営が果たしてくれた形となる。
なお、そのパーティー戦が行える、中ボスの子分パターンだが、きちんとバランスも考えられているようで、魔物プレイヤーは基本的に三人までしかパーティーを組めない。
種族やプレイヤーのレベルによって多少の差はあれど、あまり魔物陣営が有利になりすぎないようにしているらしい。特に、強めのプレイヤー三人がパーティーを組んだ際は特殊で、中ボスが回復支援型の後衛魔物固定になるという。
バフや回復をしてくれるのはありがたいが、防御がやたら薄く、しっかり介護してやらないとすぐやられてしまうらしい。さらに、デス時に味方に対しデバフを撒いてくるようなので、回復を見越して敵の攻撃を代わりに受けてやるなど、NPCとの連携が必要だといって、さっそく掲示板で対策本部が建てられていた。防御の硬い私は、そっちを選べば大活躍だったかもしれない。
しかし、私は自らが中ボスになることを選んだ。
私の能力だと、子分でも徘徊型でも目立ちすぎる。中ボスであれば、何らかのユニークな魔物として理解してもらえるだろう。
また、私は既にミニゴーレムを2体自分で出すことができるので、その点が有利に働くかもしれないという戦略面での思惑もあった。
実際、基本的に中ボスプレイヤーには5体の魔物がランダムで配置されるらしく、私の場合はミニゴーレム2体を足して7となるので、数の面で有利を取れる。
人間陣営が何人までパーティを組めるか知らないが、ここまで魔物陣営のパーティ人数が調整されているってことは、まさか数パーティー一気に部屋に入ってくることは無いだろう。一パーティ相手なら絶対にこっちの方が数が多いはず、いい勝負ができそうだ。
なお、掲示板にて判明したことだが、脳筋と騒がれたミノタウロスさんは、徘徊プレイを選択したとのこと。
全部、一人で壊すつもりだ・・・。と、スレ内は大いに盛り上がった。
ほぼ、中ボスみたいなプレイヤーが通路に徘徊することとなり、そんな怪物とエンカウントする人間陣営に憐れみを覚えながら、私は自身の受け持つ魔物や、魔王の力によって強化されたステータスを確認する。
私の元にランダムで選ばれた魔物は以下の5体。
・アースディガー
・ロックドラコ
・ロック・ワーム
・アース・ブランチ
・動く銅鎧
という面々だ。
どこがランダムなんだと言いたくなる。
アースディガーは、岩場で見かけたモグラ型の魔物だ。
地面に潜って、敵の背後に邪魔されること無く回れるので、攻めの始動としてかなりいい働きをしてくれそうだ。
「奇襲」という、自分を認識していない敵に、大ダメージを与えるスキルを持っているため、火力も優れているが、地中を移動している間は、地面が盛り上がって、居場所が目に見えてわかるので、活かしきるなら混戦にする必要がありそうだ。
弱点は水属性と、地上に上がった際にできることがないこと。そのため、彼ができるだけ地中に入れるよう、サポートしようと思う。
ロックドラコは、岩場で見かけたロックリザードの進化した姿だと思う。姿が似ているというか、大きくなっただけでたいして変わりがない。
しかし、攻撃方法は大きく変わっている。リザード時代と同じように、近接での爪や牙を使った攻撃に加えて、MPを消費して岩石を飛ばせるようになっている。大技というわけでは無く、MPの消費も軽めに打てるので、遠距離からの魔法攻撃がメインになりそうだ。
ただ、なまじ遠近両対応なだけあって、威力はあまり大きくない。アースディガーの奇襲を入れるための崩し等に使うことになるかもしれない。
弱点は水属性と、防御力の低さ。大きくなったとはいえ、まだまだ柴犬程度なので、斬撃系の武器以外にはかなり弱い。
ロックワームは、細長いロープを岩で作ったかのような魔物だ。
名前から少し嫌悪感を感じるが、見た目は岩でできている以外、何の変哲もないホースみたいな生物だ。口を開けない限り、どちらが頭かもわからず、歯の無い口内や蜷局を巻かない姿から、やはり蛇ではなくワームなのだと思わせる。
基本的な攻撃方法は、硬い体を用いた体当たりと頭突き。高さは無いが、2mほどの長めの体を持っているため、相手パーティに突っ込んで行くだけで、かく乱できると思う。
弱点は水属性と、体の長さから被弾部位が大きいところ。それを活かした囮役という面もあるだろうから、自由に暴れてくれることを期待したい。
アースブランチは、砂漠や荒野に生えていそうな、枯れ木のような魔物だ。
木のように見える皮は、よく見ると全て岩でできており、葉を付けることや花を咲かすこともできないが、岩の枝を自在に操り、敵を攻撃したり拘束することができる。
また、「アースヒール」というリジェネ系の範囲回復魔法を使用することができ、私たちの中で、唯一の回復役となる。そのため、後方から枝を用いてロックドラコを守り、加えて、回復を行うというのが基本の戦術となりそうだ。
弱点は水属性と、動きが私以上に遅いこと。枝の速度は移動速度に比例しないので、やはり、後方支援兼防衛が仕事となりそう。
動く銅鎧は、その名の通り、中身のない動く銅製の鎧だ。
銅製の直剣と、葉型状のカイトシールドを装備しており、中身がないことから、一応はゴースト系のアンデットに分類される魔物となる。
戦力としては、動ける私、という感じで、盾と鎧による物理耐久と、剣による斬撃というように、攻守バランスよく行うことができる。ただ、魔法にはあまり耐性がなく、特に火属性の魔法は相手にすることができない。火魔法が飛んできた際には、私を盾にでもして避けてほしい。
この5匹で私は人間陣営と戦っていく。
見事に岩や鉱石系統の魔物ばかりが集まった。絶対恣意的に選ばれている。
水属性の魔法使い集団がやってきたら私たちは壊滅するぞ、ボーナスステージもいいところだ。
流石に気になって掲示板を覗くと、各地から同様の報告が上がっている。
実力が足りないプレイヤーでも、運次第では相性のいい部屋と当たれる、ということだろうか。
属性は偏りまくっているが、遠近攻守のバランスはかなり優れているように感じられる。私は基本的に中衛でミニゴーレムを投げつつ、戦うことになりそうだ。
戦闘になれば、敵はロックドラコを狙ってくるだろうから、私とアースブランチがそれをどこまで耐えられるか。そして、耐えている間に、どこまで戦況をこちら側に傾けることができるか、がカギとなりそうだ。
そんな私のステータスはというと、あれから3日間、ひたすらレベル上げを繰り返し、現在13Lvになっている。正直、岩場の魔物は既に経験値的においしくなく、ただただ効率が悪かった。
しかし、イベント待機中に移動してしまい、中途半端なところでイベント突入。という風にはしたくなかったので、あきらめて岩場でレベリングをし続けた結果がこのレベルとなる。もう少し上げれたとは自分でも思う。
さらに、解放された、夜の岩場についてだが、特に何も見つけることが出来なかった。
魔物も昼間とあまり変わりがなかったことから、スケルトン出現時、マンティスが逃げ込んでいた、セーフゾーンである巨石の岩窟が、スケルトンが居なくなることでフリーになり、拠点として使えるようになる。というのが本来想定される流れなのでは?と思い始めた。
一度だけ、背中にトパーズを積んだゴーレムを見つけ、換金系の魔物が出るようになったのか、とぬか喜びしたが、その後、目にすることは無かったので、やはり報酬は拠点だったのかもしれない。実際、拠点は手に入っているので問題は無いのだが、少し残念な気持ちになった。
魔王によるステータスへのバフは、全能力を約1.2倍にするというもの。
思ったよりも少ないなと感じたが、これは各プレイヤーによって倍率が違うらしい。最大倍率が1.6倍で平均が1.4ほどだったので、それだけうちの面々はバランスが取れているということだろう。
パーティー勝負では、圧倒的な“個”が存在するよりも、全体の平均値の高い方が勝ちやすいし、連携がとりやすい。というか、圧倒的な個はなんてものは、倍率1.6ぐらいじゃ作り出せないと思う。そう考えると、うちのチームは結構強い。
かなりいい線に行けるかもしれない。
偏ったチーム編成だったが、その実力に自信を持ち始めつつ、私はイベント開始を待った。
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種族:ゴーレムリーダー Lv13 【 魔王補正無し 】
HP:99/99
MP:13/13
力 :37
魔力:9
防御:101
魔防:42
速 :5
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<通常スキル>
「転がり」:Lv1 「採掘」:Lv2
<種族スキル>
「火耐性」:Lv2 「風耐性」:Lv2
「斬撃耐性」:Lv2 「水脆弱」:Lv5
「ゴーレム生成」:Lv1(60/60)
<パッシブスキル>
「体重」:Lv1 「飲食不要」
「不思議な瞳」
<称号>
「こだわりのPK」
「ジャイアントキリング」
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『魔物』
「後方支援型自動操縦人形 TypeA」
ゲームバランスを守るため、開発部によって、急遽、創られた人形系の魔物。機械的な様相を持ちながらも、体つきは女性のため、ゲーム性も相まってプレイヤーからは“姫”と呼ばれている。鉄で作られた簡素なドレスを身に纏っているため、肌から何まで全身鈍色だが、決して着色の時間がなかったというわけでは無い。
なお、今回制作された後方支援型自動操縦人形は、意外と便利だったため、以後、様々なゲーム内コンテンツに流用されることなる。そのため、モデリングの時間が取れず、開発部総出の懇願により、身体をスキャンさせることとなった女性社員の上司は、ゲーム内に彼女が登場するたび、使用料を徴収されるようになった。
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