25,クエスト:呪われた正義 ③
前回の投稿は“ 06/15 18:00 ”です。
ポーションを呑んでひとまず体力を回復した私は、スキルポイントの残量等も確認しながら、二体のスケルトンを見据える。
新たに現れた貴族のような魔法使いスケルトンは、よく見ると床から10㎝ほど浮いており、裾の長いローブによってその足先がどのようになっているのかすら伺えなかった。
深めにかぶったフードからは、青く光る眼光が気味悪く輝いており、表情を作れないはずの口元はなぜか笑っているようにも見える。
煙の中から現れ、煙によってスケルトンを蘇らせた。ネクロマンサーか何かなのだろうか、あの力が何度使えるかわからないが、何度も復活させられては面倒だ。魔法職ということを考えれば、防御面は薄いだろう。ミニゴーレムを投げつけてみて様子を見るか?
小手調べに、ミニゴーレムを投擲しようと、右拳を振り上げると、大剣スケルトンが魔法使いを庇うように、さっと立ち位置を変える。いや、魔法使いが変えさせているのか。どちらにせよ、簡単に頭を潰させてはくれないようだ。
けど、投げるもんは投げさせてもらう!
大剣スケルトンが魔法使いを庇っているが、私はお構いなしにミニゴーレムを投げつける。
案の定、投擲したゴーレムは大剣によって防がれてしまうが、問題は無い。既にミニゴーレムには指示を出しており、その内容は魔法使いの方を狙え、というもの。弾かれたゴーレムは、地面に降り立つとそのまま魔法使いの元へと転がっていく。
魔法使いスケルトンは、ミニゴーレムを対処している間、私の相手を大剣スケルトンにさせようと考えたのか、魔法使いスケルトンがワンドを一振りすると、大剣スケルトンがミニゴーレムの相手をすることなく、私に向かって突っ込んできた。
魔法使いスケルトンがどんな攻撃でミニゴーレムを倒すのか、観察したい私は、ひとまず拳でスケルトンの攻撃を受け、ミニゴーレムの行く末を見守る。
ミニゴーレムは魔法使いスケルトンの元にたどり着くと、小さな足で地面を蹴り、スケルトンに向かって突進していく。
そんなミニゴーレムの攻撃を魔法使いスケルトンは滑るように宙を移動し、簡単に回避する。
そして、煌びやかに装飾されたワンドに魔力を込めると、ミニゴーレムに向かって魔法を繰り出した。
その魔法は光や音などではなく物体を伴っていた。
水晶のように透き通り、光を反射させるそれは、通路で相対したスケルトンの魔法よりも速い速度でゴーレムに飛来し、岩の体に突き刺さった。
ミニゴーレムの体に突き刺さった魔法は、すぐに霧散し原型を留めることは無かったが、その影響は確かに残しており、ミニゴーレムの体は被弾部位から少しずつ霜焼けていった。
氷属性魔法。
私の知る限り、β版では発見されていない魔法だ。
体に霜が巡り、明らかに動きの悪くなったミニゴーレムに対し、魔法使いスケルトンは追撃の一撃を放つ。
避けることもできず、再び体を貫かれたゴーレムはHPを削り取られ光となって霧散した。
一連の攻撃を見て私は大剣スケルトンを即座に処理することを決める。
先ほどから拳で受けていた大剣スケルトンの攻撃に体で合わせ、大きく弾くと、再びマウントポジションをとる。
前回の戦いで、大体の行動が把握できていた私はガードしようと伸ばしてくる大剣を右手で払い、初めから全身プレスで潰しにかかる。
しかし、押し潰そうとする直前、視界の右端から輝く物体が飛来する。
魔法使いスケルトンによって放たれた、氷の結晶が私の体に突き刺さり、ダメージを与えると同時に霜焼けを作る。
減ったHPを見ている暇もなく、邪魔をしてくる魔法使いスケルトンに向かって、霜焼けていない左拳を投げ飛ばす。
魔法使いスケルトンが避ける素振りを見せないので、当たったかと思うが、魔法使いスケルトンはこの場に現れた時と同じく、黒い霧を放出しその中に隠れ、姿をくらました。
予想外の回避方法に驚愕するが、足元の大剣スケルトンが起き上がろうとしているのを見て、左拳を生成しなおし、スケルトンを殴りつける。
再び倒れこむ大剣スケルトンに周囲を警戒しながらプレスをかまし、二度目の勝利をあげるが、喜ぶ暇もなく、すぐさま立ち上がり、魔法使いの姿を探す。しかし、発見するよりも先に再び私に対して魔法が飛来した。
動きの遅い私に当然避けられるはずもなく、またもろに突き刺さった。
魔法が飛んできた方へ視線を移すと、そこにはワンドを構えた魔法使いスケルトンが再び魔法を行使しようと魔力を込めはじめているところだった。
これ以上の直撃はまずいと、両拳でガードする体勢を取るが、スケルトンはこちらを小馬鹿にしたように瞳を青く揺らすと、私ではなく、砕け落ちた大剣スケルトンに向かって魔法を行使した。
しまったと思い、慌てて魔法使いスケルトンに対し、ミニゴーレムを投げつける。
しかし、霜焼けた体では、うまくゴーレムを投げつけることができず、魔法使いスケルトンは黒煙を出すこともせず、難なくそれを回避した。
着弾したミニゴーレムも魔法使いスケルトンを襲うが、宙に浮いていることもあり、突進を簡単に避けられてしまう。
もう一度ミニゴーレムを投げつけたい衝動に駆られるが、スキルポイントがたまり切っておらず、今投げてしまうと、30秒はゴーレムを生成することはできない。
黒い煙に包まれて大剣スケルトンが復活する。
再び相手が二体になった状況で片手オンリーで戦うのは愚策。
結局、私のスキルポイントとHPのみが減らされて、敵の勢力は変わらずという完全な劣勢に追い込まれてしまった。
振り出し、というよりマイナスに行かされた私が、ひとまず、HPを確認してポーションを使うと、そんな時間は与えないとばかりに、大剣スケルトンと魔法が飛来する。
急いでポーションを消費し、残りHP2割ほどまで削られていた体力を全快させると。もはや大剣スケルトンは無視し、魔法のみを拳でガードする。
盾や鎧を使う魔物と違い、私のガードは体そのもので受けていることに変わりはなく、あくまで直撃を防ぐだけでダメージ自体は受けている。
しかし、それでもガードするしないではダメージ量が変わり、今回に至っては大剣スケルトンからの直撃を受けてでも、魔法ダメージの軽減を優先したかった。
右拳に魔法が着弾し、大剣スケルトンの斬撃がノーガードの体へ叩き込まれる。
大剣スケルトンの攻撃のみであれば笑っていられるダメージだが、魔法を含めればそうはいっていられない。
同時に相手し続けるのは良くないと、一度大剣スケルトンの攻撃を拳で払いのけ、魔法使いスケルトンに向かって、ようやく一体分余裕を持てたゴーレムを投げつける。
先ほどと同じように、ゴーレムを黒煙で回避したスケルトンは、ミニゴーレムに向かって魔法を放つ。
大剣スケルトンの相手をしながらその様子を見ていた私は、試してみたいことを思いつき、スケルトンの攻撃に合わして体でパリィをすると、ミニゴーレムが倒されてしまう前に、大剣スケルトンに手早く、止めを刺した。
それとほぼ同時に、ミニゴーレムが氷に貫かれ消滅すると、魔法使いスケルトンが再びワンドに魔力を込め始めたので、今度はミニゴーレムではなく、私自ら魔法を止めに走る。
迫りくる私を見て、魔法使いスケルトンは一度魔法の行使をやめ、黒煙に隠れて私を回避しようとする。
その行動を見て私は確信する。
少なくとも復活の魔法を他の魔法と同時発動することはできないと。
魔法使いスケルトンはミニゴーレムの投擲を今まで3度回避したが、その中で黒煙を使わずに回避したのは一度きり、大剣スケルトンを復活させている時だ。
思えばあの時、ミニゴーレムの突進を避ける際にも、ただ避けるのみで反撃は一切していなかった。最初の投擲と先ほどミニゴーレムに対してはすぐに魔法を放ったのにだ。
つまり、黒煙と氷魔法は何とも言えないが、少なくとも復活の魔法はこちらが攻め続ける限り使用することができない。それも、生半可な攻撃ではない。黒煙を使わなければ逃げ切れないと思わせる攻撃をし続ける必要がある。
先ほど、突っ込んでくる私を見て、魔法使いスケルトンは黒煙を使った。
つまり、距離を詰められたら、勝てないと敵自身が判断したんだ。わざわざ教えてくれたのだからそこを突かない理由はない。
魔法使いスケルトンが私の後方から姿を現し、再び魔力を込め始める。
スケルトンの移動先に気づいた私は、すぐさまそちらの方に転がりだし、距離を詰めて近接戦を挑もうとする。
そんな私の動きを察していたのか、スケルトンのワンドからは復活の魔法ではなく、氷魔法が放たれ、氷の結晶が私に向かって飛来する。
こちらの狙いは最早相手の魔力切れ、黒煙という発生の早い回避手段を持たれている以上、相手のMPを枯らさないことにはまともに近づけないだろう。
しかし、その場合、私の頼みの綱となるのがポーションだ。ただでさえ相性の悪い遠距離魔法系の魔物にガリガリと削られ続けたら私のHPの方が持たない。
魔法使いスケルトンに私のポーション残量など知るすべもないだろうが、HPとMPの勝負という点は理解しているようで、復活の魔法を餌に私に対して氷魔法を放ってきた。
魔法使いスケルトンのMP残量がわからない以上、できる限り被弾を避け、ポーションの消費を抑えたい。それはつまり、ガードですらなく回避をするということ。回避ができないことは有利に事を運ぶことができず、私にはそれが難しいということを、魔法使いスケルトンもわかっているはず。でも。
そっちがラグ無しテレポートとかいう反則技を使ったんだからな。
こっちも反則スレスレの回避法を見せてやる!
飛来する結晶に対し、転がりを解除した私は勢いそのまま右手の拳で氷を殴りつける。
そして、魔法が拳に当たる瞬間。私はミニゴーレムを体から切り離した。
ミニゴーレムに結晶が突き刺さり氷の花弁が花開く。
しかし、そのダメージは私には届かない。切り離されたゴーレムは自律した存在。私はHPを減らすことなく、魔法を防御し再び魔法使いスケルトンへと距離を詰める。
勢いの止まらない私に、魔法使いスケルトンは焦りを覚えたか、再び氷の結晶を作り出し私に向かって解き放つ。
それを同様の手段で回避した私はさらにスケルトンへと距離を詰める。
魔法の直撃を受けるたび、嫌がってゴーレムを投げ飛ばしてきた私が、問答無用で突き進んでくる姿を見て何かを感じたか、魔法使いスケルトンは慌てた様子で魔力を集め黒煙を用いて回避しようとする。
しかし、その間合いは最早遠距離とは言えない距離まで狭まっていた。
スケルトンの魔法が完成するよりも早く、私は残りのスキルポイントを全て使い、ミニゴーレムを生成し、魔法使いスケルトンに向かって投げつける。
飛来するそれをスケルトンは避けようとするが、今までと違い、距離が近いため完全に避け切ることができず、ワンドを持った右腕にゴーレムが直撃してしまう。
カランカラン、と軽い金属が奏でるような音を残し、スケルトンのワンドが床に転がる。
右手を砕かれ、衝撃で床に倒れこんだ魔法使いスケルトンは、砕けた右腕で縋るようにワンドに手を伸ばす。
しかし、そのワンドは私に慈悲なく踏みつぶされ、同時に魔法使いスケルトンの目から光が失われる。そして、私は両手の無いどこか馴染みのある体で、動かなくなったスケルトンに最後の一撃を加えた。
【クエスト】
「呪われた正義」 Clear
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「スケルトン」
骨でできた体を持つ、一般的なアンデット。重量がなく軽いため、戦闘は意外と軽やか。その分防御力は無く、とりわけ殴打系の武器には弱い。進化先に様々な派生が存在するため、プレイヤーからも人気が高く、β版ではスケルトンのみで結成されたクランが作られた。
「スケルトンナイト」
剣を携えたスケルトンが進化した種族。剣士としてはひよっ子でまだまだ剣速は遅い。しかし、剣術系のスキルを持つため、太刀筋はまともで、ただのスケルトンに剣を持たせるのとは雲泥の差が出る。プレイヤーの場合、装備によって新たなスキルを習得していくため、魔物陣営の中ではかなり人間陣営と近いプレイが可能。
「スケルトンメイジ」
魔法を扱えるようになったスケルトン。扱える魔法は火魔法一択であり、器用さに欠けるが、物理、防御、素早さのステータスがほぼ魔法系統に集約するため火力としてはそれなりに高い。魔法職としてはMPが低く、マナポーション目当ての金策に頭を悩ませることが予想される。
「大剣骸骨」
大剣の扱いに特化したスケルトン。重い剣を振り回すために骨も強化。普通のスケルトンとは比べ物にならないほどの膂力を誇り、渾身の一撃は敵の防御を打ち砕く。殴打系の攻撃に弱い点は通常種と変わっていないため、耐性含め主人公とめっぽう相性が悪い。今回の大剣骸骨は騎士団の団長を素体として作られたが、なぜか魂が定着せず、スキルのほとんどを使用できないでいた。
「レッサー・リッチ・ネクロマンサー」
人間が正しい過程を踏まずに、一足飛びにリッチに至ろうとした末路であり、自然発生することのない固有のアンデット。
素体となったのは、とある貴族の次男坊。彼は幼少期から魔法が得意な秀才であると周囲から持て囃されていた。家族を含め、周りの人間が褒めてくれたこともあり、どんどん魔法にのめり込んでいく次男だったが、王国の魔法学校に入学した際、本物の天才たちと相対することとなる。
次男の成績は決して悪くなく、秀才と呼ばれるにふさわしいものだったが、彼の心に宿る小さなプライドが、自分が自分よりも身分の低い平民に劣っているという事実を認めることができなかった。天才たちに勝利するため、学園内でひたすらに研鑽を積んだ次男だったが、どれだけ努力しようと天才に追いつくことはおろか、並び立つこともできなかった。
才能だけでなく精神も疲弊した彼は、魔法学校の奥底に眠る禁書に縋ってしまう。家柄もよく、成績優秀で努力家な次男に対し教員たちは疑いの目を向けなかった。彼は教師に取り入り、遂に禁書を手にしてしまう。
彼は手に入れた知識を元に、人間の寿命という枷を解き放つ“秘薬”の製法を編み出し、学会で発表するが、皮肉にも彼が追い続けた天才たちによって、製法の矛盾と、秘薬に関する知識を禁書から得たと暴かれてしまう。必死の反論虚しく、捕えられることとなった彼は、禁書から別に得ていた“死者を冒涜する魔法”を使い発表の場にいた多くの人間の命を奪った。しかし、抵抗はいつまでも続かず、天才達の手によって次男は鎮圧、そのまま独房に送られ、アンデット化を恐れた魔法使いたちによって、その一生を地下で磔にされることとなった。
終わったはずの男の運命をさらに大きく変えてしまったのは、たった一つの知らせだった。彼が独房に放り込まれて数十年が経過したある日のこと、外界と遮断された地下の一室で、天才たちへの恨みを戯言のように呟き続けている彼の元に、一通の手紙が届く。その手紙がなぜ彼に送られたのか。なぜ、彼に渡すことを許されたのか。詳細な事実はわからないが、その手紙の内容が彼の消えかけていたプライドを大きく燃え上がらせた。
それは、彼の家の五男坊が騎士団長に命じられたという知らせだった。
勉強ができず、どんくさく、いつも泣いてばかりいた無能な弟が、自領を守る長に任ぜられたという知らせであった。
努力家の彼は、いつも言い訳だけはしなかった。それは己の才能が天才たちに劣っていることを認めたく無かったから。しかし、弟は別だった。弟の才能は自分と比べるまでもない。低く、下等で、劣っているはずだった。
だが、今、弟は自らが育った地でその土地を守るべく、多くの人間の期待を受け、名誉の中生きている。比べて自分はどうだ。暗く狭い地下の奥底で、何日も何日も意味のない呪詛を吐くばかり。誰からも認められず、愛されず、称賛されることもない。
輝かしい弟の姿が脳裏をよぎり、彼は完全に狂った。
才能に胡坐をかいた怠け者たちに敗れ、地下に送られた自分が、その両方を持たない弟に劣っているという事実を頭が正しく認識しなかった。
かくして、最悪の魔術師が野に解き放たれることとなる。
暴走した次男は、自らの領地へ舞い戻り、己の力を証明するため一つの魔道具を作り出す。それは禁忌の知識が詰め込まれたワンド。
自らの死と引き換えに、この世界に厄災と復活をもたらす輪廻のワンド。
ワンドを作り終え、騎士団が自分を探していると知った次男は、自ら命を絶った。
狂った世界に復讐し、次こそは才に溢れる人間へ生まれ変わるため。
なっっっっっが。
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