22,スケルトン退治
夜になり、あたりが暗くなったところでスケルトンたちが四方八方から湧き出てくる。
その中に飛び込み、新しく得た力で攻防を繰り返す私のテンションはかなり上がっていた。
これ、気分いいしかなり楽しいぞ!
リキャスト時間が終わり、私の体に岩石の拳が取り付けられる。すぐに、投げつけるのではなく、次のゴーレム生成がすぐにできるよう、スキルポイントが満タンになるのを待った後、大量のスケルトンに向かってミニゴーレムを投げつける。
ガラガラガラ・・・!
ミニゴーレムは1体のスケルトンにぶつかっただけでは止まらず、骨を砕きながら、着弾した後もボーリングの様に転がり多くのスケルトンを蹴散らしていく。もう片方のミニゴーレムもスケルトンたちに放り込むと、私はすぐさま両手を生成し、背後に近づいていたスケルトンたちを薙ぎ払って相手をする。
投げつけられたゴーレムたちには既に、私の背後を守るよう命令してあり、ゴロゴロと戻ってきたミニゴーレムはそれに従ってスケルトンが近づくと、体をぶつけて転倒させている。
自律して動くわけでは無いので、倒れたスケルトンに追撃を行うなどの行動はせず、ただひたすら私に近づくスケルトンを邪魔し続けている。数が数なので抜けてくるスケルトンもいるが、その量も振り返って拳を振るえば済む程度、ミニゴーレムたちはかなりの仕事をしてくれていた。
そうしてミニゴーレムたちが消滅する3分が経過する前に、今度は自分が相手をしていた正面に向かってミニゴーレムを2体投げつけ、すぐさまゴーレムを生成。先ほど足止めを食らっていたスケルトンを薙ぎ払うという繰り返しでスケルトンを狩り続けていた。
たまに被弾することはあれど、HPが増えた私にとって1ダメージはそこまで重いものではない。
戦闘中ゆえに自動でHPが回復することは無いが、だからと言って回復薬を使うまでもなく、圧倒的と言っていいほど、私たちはうまく戦えていた。
スケルトンたちの量は減ることはないが、戦法を変えてくることも無いのでただひたすら骸骨を狩り続ける時間が続く。
この量を倒したら、さぞ経験値やドロップアイテムがおいしいかと思いきや、既にかなりの数を倒しているにもかかわらず、入ってきている経験値はかなり少ない。この分ではドロップアイテムにも期待はできなそうだ。
スケルトンたちは思い思いの武器を携えてこちらに襲い掛かってきているが、どれもお粗末な出来で、私はおろか、ミニゴーレムに攻撃しただけでぽっきりと折れてしまう始末。
そんな武器、なんで持っているんだと思いながら、近づくスケルトン対して拳を振るっていると、奥の方に一匹だけ、武器以外にも、鎧や盾を装備しているスケルトンが見えた。
親玉が出てきた!と思い、フル装備スケルトンに向かってミニゴーレムを投げつける。同時に後ろのゴーレムが一匹消滅してしまうのでそのまま転がって親玉の方へと向かい、敵の大将を叩きに行く。
フル装備のスケルトンは投げつけられたゴーレムを盾を使ってガードしようとするが、その重量に負け、倒れこみながら受け流すことで精一杯だった。
その隙に、ミニゴーレムを投げつけたことでできた道を転がり、無理やり親玉へ近づくと、回転の勢いそのまま左手のゴーレムを叩きつけた。
リーダーゴーレムっぽさが出てきた私の攻撃を、すんでのところで回避したスケルトンは、大振り直後で体勢の整っていない私に長剣を振るうが、質の悪い武器ではまともな攻撃もできず、切りつけた衝撃で剣は根元から折れてしまった。
ミニゴーレムを受け流した際に盾も半壊しており、右手に持つ剣も武器の様相を為していない。
そんなスケルトンに私が近づいていくと、彼は己の負けを悟ったのか、両腕を下げ抵抗することなく、私の攻撃を受け入れた。
新しく生成した右腕でスケルトンを叩き潰すと、私に迫ってきていたスケルトンたちもガラガラと崩れ落ちていく。やっぱり、このスケルトンが親玉だったのか。
けど、完封されながらも戦い方を変えなかったスケルトンたちの親玉にしては、諦めが速いというか、勝敗を察することができていたような・・・
親玉スケルトンの散り際に通常のスケルトンたちに無い知性を感じ、違和感を覚えていると、頭の中に何者かの声が響いてきた。
・・・ツ・・・ツヨキモノヨ・・・・・・
ソロプレイを楽しむ私に対し、それはあまりにも不意打ちで、肩をビクッと震わせて周りをキョロキョロ見回してしまった。
しかし、周囲には骨の残骸が広がるばかりで、私に話しかけるような何者かは存在していない。
驚く私をよそに脳裏に響く声は続ける。
・・・タノミガ・・・アル・・・・・・
・・・タマシイノカイホウ・・・ワレワレノヒガン・・・・・・
・・・アンネイノチ・・・ヤスラカ・・・ナ・・・シ、ヲ・・・・・・・・・
再び頭の中に流れ込んできた声は、縋る様な声で私に何かを頼み込み、不穏な言葉を最後に途切れていった。
な、なんだったんだ・・・
親玉を倒したことによる演出だろうか。奇妙な声に翻弄されビビっていた私の前に、今度はメッセージが現れる。
『クエストを受諾しますか。』
【クエスト】
「呪われた正義」
クエスト受諾のメッセージウィンドウが表示されたことで、先ほどまでの現象の謎が解け、少しほっとした気持ちになる。
クエストの発生イベントだったのか。急に声がするから驚いてしまった。
特殊な演出に翻弄されてしまったが、種がわかれば怖がる必要もない。気持ちを落ち着けた私はメッセージウィンドウからクエストを確認する。
クエストの内容は・・・騎士たちがアンデット化した原因を突き止めて、解呪する、というもの。
あのスケルトンたち、どうやらかつてこのあたりに存在した領地で仕える騎士だったらしい。そして、彼らはこの地に犯罪者である魔術師を捕縛しにやってきたが、呪いを掛けられてしまい、それ以降、意思の無いスケルトンとしてこの地を彷徨っていたようだ。
呪いによってスケルトンになった彼らは不滅の存在となり、既に数百年近く放浪し続けていたらしいが、百年ほど前、突如団長であったあの親玉のスケルトンにのみ意識が戻ったという。団長の予想によると、魔術師が死に、呪いの効力が落ちたからだそうだ。
しかし、意思が戻ろうと、ここから離れることはできず、訪れる人もいなくなっていた。そんな時に、自分たちを簡単に蹴散らす私という存在が現れ、こんなことを頼み込んできたというわけだ。
思ったより重い内容に乾いた笑みが浮かぶが、クエスト自体はもちろん受諾した。
はじめてのクエストだし、これをクリアすれば、彼らの魂は浄化されこの場にスケルトンはわかなくなるかもしれない。スケルトンがいなくなれば、いままで夜に探索できなかった分、新たな発見や魔物が姿を見せるかもしれないし、報酬ももらえるだろうからいいことだらけだ。岩場で足止めを食らった分を取り返させてもらおう。
クエストの報酬を想像し心を躍らせながら、私は一応今回の戦果であるドロップアイテムと経験値を確認する。
「スケルトンの骨」×8に、「骨材」×13と、「スカルヘッド」×3。レベルも1上がっただけ。
思った通り、大量のスケルトンを倒したにしてはさみしい、報酬だ。
「骨材」というのが唯一使い道がわからないが、「スケルトンの骨」とわざわざ分けているのだから、何か違う用途があるのだろう。検証スレに貼っておこうか。
私が報酬やステータスを確認し終わるころにはミニゴーレムは消滅していた。
今回の戦いで想像以上の大活躍を見せたミニゴーレム。今後もっと敵が強くなった際にどこまでやれるかが楽しみだが、現状の満足感は半端ではない。
ただ、心配な点があるとすれば、私が「投擲」等のスキルを所持していないことだ。
私はミニゴーレムを投げつける際に、スキルの補正がかからないので実戦中に外す可能性がある。今回は、スケルトンが所狭しといたので、外すも何もなかったのだが、素早い敵、それもこちらの動きをうかがってくるタイプだと、正直自信がない。しっかり当てるのであれば、速度の面からも遠距離よりも中距離として考えるべきなのかもしれない。
確実に強くなっていると実感するが、まだまだ課題も多い。
このクエスト中にまた魔物と交戦する機会があるかはわからないが、油断せずに戦っていこうと気を引き締めた。
特に、回復薬を渋らないようにと。
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【クエスト】
「呪われた正義」
我々はエスカドル辺境伯に仕える騎士団。「煌盾」。
王国より脱走した闇の魔術師を捜索、討伐するため、ここダラグ山地を訪れた。
首尾よく、魔術師の隠れ家を発見した我々だったが、敵は狡猾であり、我々の存在に気づいた魔術師は隠れ家に呪いをばら撒き姿を消してしまった。
隠れ家を襲撃した我々に呪いは襲い掛かり、次々と伝播する強力な呪いは、数日もたたないうちに我々の命を蝕んだ。
意識が戻った時、私は自身が魔物になり果てたことと、既に長い年月が経ってしまっていることを理解した。人々を守護するべき存在である我々が、多くの命を奪ったことも。
強き者よ、我々は未だ解放されていない。蝕まれた魂は、この大地に縛り付けられ、暗黒によって幾度となく蘇る。
我の意識が戻ったということは、かの魔術師は息絶えたのだろう。しかし、この現状と魔術師の狡猾さを鑑みるに、奴は何らかの方法で呪いを保っていると考えられる。
強き者よ。どうかこの地獄を、穢れた魂を罰してほしい。
そして、贖罪も許されぬ我々に、終焉を・・・。
エスカドル辺境伯領 騎士団「煌盾」団長 ダリル・フェン・エスカドル
ブクマ&評価ありがとうございます。
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