2,VSゴブリン
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ゴブリンたちとの戦闘をどのように行うか考えるため、私はまず、ベータ版時にNPCのゴーレムがどのような戦闘を行っていたのか確認することにした。
掲示板やまとめサイトを調べていると、戦闘方法のみならず、基本的な生態も掲載されているサイトにたどり着き、そこには「採掘」のスキルがゴーレムたちにどのように使われているかも載っていた。
サイト曰く、ゴーレムたちは日ごろ、「採掘」によって掘り出した石や鉱物を食べているらしく、このスキルはゴーレムたちが食料を確保するために使用しているスキルであることが分かった。しかしながら、私のパッシブスキルの中に「飲食不要」が存在するのと同じく、ゴーレムたちは食事をしなければ死ぬというわけではなく、かけた体を修復したり、邪魔な岩をどかしたりと、手や指がない分、器用にできない作業を補う役目も果たしているらしい。それゆえ、このスキルはもちろん戦闘時にも利用されており、穴を掘って岩に擬態し、奇襲攻撃を行うことがゴーレムたちの基本戦術であり、私が行った転がりからの押しつぶしもNPCによって行われている行動であることが分かった。
そうとわかれば、同じ情報を掲示板等を調べて得ているであろうゴブリン達の裏をかいて、壁に擬態し転がり落ちることや、落とし穴を掘って逃げ場をなくすといった、普通のゴーレムであれば取らない行動をとってハメ勝つこともできそうだ。しかし、それをすれば相手に私がプレイヤーであるとすぐにばれてしまい、面白みに欠ける。もちろん、私がNPCでないことなどそのうちばれてしまうのは承知しているが、勘違いしてくれているのであればそのままでいてもらった方が面白い。もしかすると、掲示板等で私のことをリス地点付近にいる危険なモンスターとして宣伝してくれることもあるかもしれない。そうなったからといって、どうなるわけでもないし、何が起きるかはわからないが、そちらの方がワクワクする。そのため、今回はサイトに掲載されている通り、基本の待ち伏せ戦術でいこうと決めた。
作戦は「一人一人確実につぶす」だ。ゴーレム種は群れをつくらない性質上、ゴブリンのような群れをつくるタイプの魔物よりもステータスが強く設定されている。しかし、だからといって高い防御力を破られないかといえば、そうではない。どんなに硬くても、相手の行動が攻撃であると判定されれば、私のHPは1減ってしまう。これはベータ版の情報に記載されていた。そのため、私がまともに3匹を相手することは得策とは言えない。というか、1匹相手でも奇襲がなければヒット&アウェイで負ける。なので、私は奇襲で相手の一匹に攻撃したのちその一体のみを執拗に狙うことにする。その後は多分、タコ殴りで負けてしまうだろうが、簡単に負けるわけにはいかないので、少し仕掛けを施しておこうと思う。
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ゴブリン達を倒すために少しばかり細工をし、「採掘」を使って地面から突き出た岩に擬態していると、先ほど、ゴブリン達が逃げていった方向から拳に石を握りしめたゴブリンが3匹現れた。
先のゴブリンだと判断し、息をひそめていると、彼らはお互いに死角を補いながらゆっくりとこちらに近づいてきた。10メートルほどまで近づいたところで、こちらを警戒していたゴブリンが、私の方を指さし、何やら3匹で相談し始めた。その様子をしばらく眺めていると、どうやら、私が岩に擬態したゴーレムかどうか確かめようとしているらしく、こちらに向かって手に持っていた石を投げつけてきた。
それなりの速さで飛んできた石が私の体にぶつかると、HPが1減ったことが感覚的にわかった。しかし、これはゴブリン達にはわからない感覚なので、私はそのまま動かず、ゴブリン達が完全に警戒を解くまで待つことにした。
石をぶつけても動かない私を見て、石を投げつけたゴブリンは仲間たちの方を向き、胸をなでおろすようなしぐさを見せるが、どうやら仲間のうち1匹はまだこちらを怪しんでいる様子で、仲間たちをもう一歩下がらせると、私の方へ走り出し、手に持った石で殴りかかってきた。
再びHPが減った感覚に襲われる。しかし、私はまだ動かなかった。ゴブリンの方から私に近づいてくれた今は絶好のチャンスだが、正面で見合う現状ではまだまだ避けることができてしまう。ゴブリンが満足して背を向けた時が開戦の合図だ。
私を殴った後、身構えて警戒していたゴブリンはようやく私をただの岩だと認識してくれたのか、ぺちぺちと体をたたいて再度安全を確かめていた。その後、さすがに大丈夫そうだと言わんばかりに仲間の方を向いてグーサインをするゴブリンに対し、目いっぱい背伸びをして起き上がった私はそのまま倒れこんだ。背後の気配と、仲間の驚く顔から私の存在を察知したゴブリンはこちらを見ることもなく、私の眼下より離脱しようと試みるがまたも足だけが間に合わなかった。
ぷちっ!っと軽い音が聞こえるかのようにゴブリンの左足が消滅したのを確認すると、私は仲間のゴブリンの様子を確認することもなく負傷したゴブリンを押しつぶし、とどめを刺した。
自分の体の下から先ほど経験したのと同じような感覚がしたことを感じ、ゴブリンを1匹倒したと断定する。そして、そのままゴブリン達の方へ向かって転がっていくと、残りのゴブリン達も今回は戦う意思があるようで、すぐさま私に向かって石を投げつけると二手に分かれて私と距離を取り出した。
石が二発とも命中し私のHPが2削れるも、私は迷うことなく、仕掛けを施した方へ走ってくれたゴブリンに転がっていく。彼らは既に手ごろな石を失っており遠距離攻撃はできない、しかし、そもそもの移動速度が私とは違うので十分に引き付けてから私を避け、攻撃に転じようと待ち構える。そんな相手の思惑に乗せられるかのように私はそのままゴブリンに向かって転がり続ける。
目の前のゴブリンは私が進路を変えられないだろうタイミングで横に飛び、私はそのまま壁にぶつかっていった。ドン、っと鈍い音が響き、攻撃が不発に終わると、後ろから追ってきていたゴブリンが私に向かって飛び掛かり、避けたゴブリンも私に攻撃を加えようと拳を振り上げた。
が、そのうちの一体の攻撃は私の身には届かなかった。私がぶつかった壁が少し崩れ、ゴブリンの頭大の大きさの石が数個、転がり落ちてきた。瓦礫というには規模が小さすぎるが、突然の落石に驚き、硬直するゴブリンを私はバックするように転がり押しつぶした。
この壁は、私が事前に適当に「採掘」をしまくった壁で衝撃を与えると崩壊するようになっていた。他の場所でも何度か試し、試行錯誤していたが今回の結果はうまくいきすぎだろう。実験段階ではこんなに石は落ちてこなかった。まぁ、私に投げつけてきた石は多分私が掘った壁の残骸だろうから、それでトントンということにしておいてほしい。
石と共にゴブリンを潰したことを確認すると、私は残った最後の一体と向き合う。残党のゴブリンは仲間が二人ともやられたとて、最後までヤル気のようで、私が崩した石を再び拾い上げ臨戦態勢をとっている。
飛び道具の補給が多くあり、速さも勝てないとなるとヒット&アウェイで私に勝ち目はない。元々、一匹倒せれば御の字の作戦だったのだから大成功だろう。そう心の中で頷き、その後は少しでもNPCらしく見えるよう、追いつけるはずもない敵を追いかけまわし続け、初めてのデスポーンを経験することとなった。
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『魔物』
「洞穴ゴブリン」
洞穴や洞窟にすむゴブリン。悪戯好きで、雑食。そこまで器用ではないが武器や罠を作って狩りを行う。集落をつくり群れで生活するが、集落が大きくなると族長や鍛冶屋といった役職が生まれ、人間にとってより脅威な存在となる。基本的に一匹見たら十数匹はいる。