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17,逃げ場

 スケルトンたちにタコ殴りにされ、ふてくされながらログアウトした翌日。再びログインした私は、再度、岩石転がる岩場に足を踏み入れていた。

 太陽は上がったばかりで、夜になるには時間がある。岩場の広さがわからない以上、もう少し慎重に行動すべきなのだろうが、先日のわからんごろしで私は少しムキになっていた。

 

 デスポーンしたことで、コボルト達からもらった宝石の一部が消滅した。

 正直あんなギミック、対応のしようがない、と怒鳴り上げたいが、スケルトンの柔らかさにかまけて、逃げずに戦う選択を取ってしまったのは自分。情けない気持ちになりつつも、岩場を攻略してしまえば、昨日の失敗も成功への道筋だったのだ、と誰に聞かせるわけでもないが納得させられるような気がして、再度チャレンジしている。成功への代償にしては、失ったものが高価すぎる気がする。


 昼間の岩場は、夜と違い。少なくない種類の魔物がいた。

 亀形の魔物の「ターロス」に、でかいカマキリの「マンティス」。岩の体を持った「ロックリザード」に、柴犬ほどの大きさで、モグラの魔物である「アースディガー」。これに加えて、空に魔物が数種類とそれぞれが、それぞれを食らい合っている。

 

 すべての魔物と戦ったわけではないが、彼らは少なくとも、スケルトンたちよりは歯ごたえがあった。

 空の魔物は私を餌とみなしていないのか、ちょっかいをかけられたことすらないが、マンティスとロックリザードとは既に戦う機会があった。

 マンティスは離れた間合いからでも、翅を使って飛び込んでくるなど、かなりロングレンジのファイターであったが、鎌が斬撃判定のため、あまり脅威には感じなかった。とっとと通り抜けることを考えているので、あまり観察などはしていないが、力関係としてはマンティス<ターロス<アースディガー<マンティス、といった形なのだろう。見た目で判断しているので、確証はないが、多分間違っていない。

 ロックリザードは全員のおやつだ。私と戦った時も、果敢に攻めてきたが、体が大きくないので、押し潰して終わった。現実世界だったら確実に絶滅しているレベルで、食べられているところしか見ない。



 そして、実はもう一匹、この岩場で私は魔物と遭遇している。

 お仲間であるゴーレムだ。



 初めて見た時は、少し感動して、交流しようとしたが、容赦なく襲われた。

 手を出されたからにはやるしかないので、お互いゴンゴンいわせながら体を打ち付けあったが、全然HPが減らず、不毛すぎたので私の方から退散した。

 

 せっかく、同族に出会えたのに、殴り合って解散とは何とも後味が悪いが、何せ知力があるわけでもなければ、会話ができるわけでもない。ゴーレム自体に愛着がわいてきた私にとっては、少し悲しい結末だが、これも自然の摂理というやつなのだろう。


 

 それにしても、彼らは夜の間どこに息をひそめているんだ?



 ゴーレムに遭遇したことで、昨夜の回答が岩への擬態だったんじゃないかと頭痛がしてくるが、マンティスに至っては、ただデカいだけのカマキリなので、スケルトンたちにどのように対抗しているかがわからない。

 もしかすると、翅によって夕方辺りにどこかへ飛んで行っているのかもしれないが、そんなに長時間飛べるのなら、普段地上にいないような気もする。空から奇襲した方がよっぽど狩りが楽だろう。


 他の魔物のスケルトンへの対抗策を考え、昨夜自分にも何かできたんじゃないか、そもそも、毎晩おきることでもないのか、と悶々とするが、それもこれも岩場を抜けてしまえば関係なくなること。

 障害物が少ない割に、先が見通せないが時間との勝負であるため、先を急いだ。




 ・

 ・

 ・




 空が赤く染まり、夜が近づいてきた頃。私は未だ、岩場から抜け出せないでいた。

 

 焦る気持ちを抱えながら、私は周囲を見渡す。地平線の先に木々や、何か魔物の集落があるわけでもなく、このままでは昨夜の二の舞になることは明らかだった。

 

 他の魔物もいつの間にかぱったりと消えてしまっていて、周囲には既に私しかいない。

 ターロスやゴーレムが岩に擬態してやり過ごそうとしているであれば、私も同じように凌げるため、周囲の岩石の周りをわざとらしく転がってみているのだが、反応は無い。

 では、マンティスのように擬態ではなく、どこかに逃げることでしか逃れるすべを持たないものはどうしているのかと、姿を探すがどこにも見当たらない。マンティスの体高は160㎝以上はある。そんなバカでかい虫が姿を隠せるところなんて、すぐに見つかってしかるべき。しかし、それらしきものは私の視界には一切入ってこず、焦りを募らせるばかりだった。



 くそ、皆一体どこに隠れたっていうんだ・・・



 赤い空が、だんだんと黒に染まり、夜がすぐそこまで来ていることを予感させる。

 

 あたりが暗くなっていくことで、スケルトンが出てくる恐怖以外にも、もう、他の魔物を見つけることができなくなるという焦燥感にも襲われる。


 必死に探し、転がり、何とかして解法を見つけようとする。しかし、どれだけ辺りを見渡そうと、この場で動いているものは、依然、私一人であった。そして


 

 カラカラ・・・



 ついに、タイムリミットが来てしまった。



 ッ・・・・・!!



 昨夜、腐るほど聞いた骨の音を聞き、体に緊張が走る。

 前回の経験から、戦っても無意味だと理解した私は、すぐさま音のなる方と反対方向へ進路を変える。

 

 転がりだした私の後方からは既に無数の骨の音が響いてくる。組みあがった彼らが、私と比べてどの程度の速さで迫ってくるのかわからないが、確認することもできず、せめて私と同じぐらいの速度であってくれと願いながら私は転がる。


 背後から聞こえる骨の音に、ドタバタと走る足音が混ざり始める。


 状況は前回よりも悪く、中途半端に岩場を進んでしまったせいか、先ほどから前方にも、組みあがっていく骨が見える。いちいち壊している暇も、進路を変える暇もないので、それらが完成する前に追い抜き、横切り、行く先もわからないまま、どうにか逃げ切ろうとひた走る。


 後ろから聞こえてくる足音が鳴りやまず、前方にスケルトンが現れ続けるが、どうやら、私から一定の範囲内でしかスケルトンが生まれず、生まれたスケルトンもさほど足が速くないことを悟る。つまり、私はこのまま転がり続けていれば、挟み撃ちに会うことはなく、袋叩きにされることもない。


 

 逃げ切れるかもしれない!



 私が希望を見出すと、大きな岩の向こう側に、ちらりと私が探し求め続けていたマンティスの姿が見えた。


 ようやく見つけた、なんでここに、今更見つけても、と、突然視界に飛び込んできたマンティスに対し、様々な思考が頭の中をよぎるが、このチャンスを逃すわけにはいかない。

 私は進路を変え、マンティスの元へ向かう。彼がどうやってやり過ごそうとしているのか知らないが、その方法を奪って、私を追いかけ続けているこいつらも押し付けてやる。


 次々と組みあがっていく、スケルトンを横目に、私は巨岩を避け、マンティスが一体何をしようとしているのかその眼に収めようと、岩の端から回り込んでいく。


 カマキリの全貌が視界に映った時、そこにいたのはマンティスだけではなかった。


 私が見たマンティスは、あくまで岩の上から頭を覗かせる、マンティスの一部に過ぎなかった。

 見えていなかった彼の体には、おびただしいほどの白骨が群がっており、マンティスの足や腹を思い思いのやり方で痛めつけていた。

 苦しそうに、鎌を振り、多数のスケルトンを蹴散らすマンティスだが、次の瞬間にはそれを超える数のスケルトンが飛び掛かる。


 死骸に群がるアリのように、マンティスを蝕んでいくスケルトンを見て、自身の選択が間違っていたことを悟り、後悔するも、足を止めることはできなかった。


 私が気づくことのできた、自分から一定の範囲内でしかスケルトンが湧くことができないという縛りも、スケルトンは完成する前に振り切ることができるということも、既に前方に大量のスケルトンが存在する状況ではどうすることもできない。


 

 せめて、マンティスがここで攻撃されている理由を・・・!



 マンティスを取り囲むスケルトンの一部は、既に私の存在に気付いている。

 マンティスもろとも、私も地獄に連れて行かんとするスケルトンを前に、私の運命は確定したようなもの。


 ならば、今回は最早くれてやる。

 そして次こそは振り切ってやると、マンティスがこの場に来て、何をなさんとしていたのかを、せめて目に焼き付けようと、マンティスの前方。彼が、進もうとしていたその先に何かがあると信じて、目を凝らしてヒントを掴もうとする。


 凝視した先、マンティスの前方には岩があった。ただの岩じゃない。約3mはあろうかという、巨岩がそこにはあった。そして、巨岩の麓には不自然に一つだけ岩が転がっており、それには何かに切り付けられたかのような傷と、地面を引きずった跡が存在した。

 引きずられたその先に視線が自然と吸い込まれる。

 すると、そこには、巨岩が裂けてできた洞穴のようなものが存在しており、その入り口は、ちょうど私が入り込める程度の大きさだけ開いていた。


 直後、私は進路を変え、その洞穴に飛び込まんと、全速力で転がった。


 マンティスに絡んでいたスケルトンを、できる限り避け、小さく跳ねて潰しながら、必死の思いで穴まで進む。

 私が彼らを潰し、減速するたび、後方のスケルトンが私に纏わりつき、体は重く遅くなっていく。それでも無我夢中で前へ前へと進み続け、どうにか私はその穴へと転がり込んだ。


 息つく暇もなく、入り口から流れ込んでくるであろうスケルトンに対応しようと、振り返って彼らに対峙。今度こそ一匹ずつ相手してやろうと、息を荒くしていると、なぜかスケルトンたちは洞穴の中に入ってこようとしなかった。


 入り口のすぐ外にいるスケルトンは、私の方を見るわけでもなく、突然無関心になったかのように、ボーっとその場で突っ立っている。

 襲ってこなくなった理由はわからないが、そんな彼らをわざわざ自分から挑発することもできず、どうしたものかと、その場から動けずにいると、私の目の前に唐突にメッセージウィンドウが現れた。



 『“巨石の岩窟”を新たな拠点として登録しますか。』


 

 え?



 窮地に陥った私は、唐突に自宅を手に入れることとなった。



 ―――――――――――――――――――――――




『魔物』


「ターロス」

巨大な岩を背負ったかのような亀形の魔物。堅牢な甲羅はマンティスの鎌を易々と弾き、頑丈な顎は

外骨格のみならず、ゴーレムですらかみ砕く。一方、お腹への攻撃は弱点となるため、アースディガーの存在に日々怯えており、基本的には岩に擬態し大人しくしている。


「マンティス」

大きな鎌を携えたカマキリ型の魔物。長く鋭い鎌は敵を切り裂くだけでなく、地面に掘られたアースディガーの巣を貫くなど、意外と器用に扱える。かなり、好戦的な性格でターロスやゴーレムに対し攻撃手段がないにも関わらず、挑み続ける。巨体ゆえか翅はあるが長くは飛べない。


「アースディガー」

中型犬大のモグラの魔物。地中に穴を掘って生活し、その中にはアリのように、様々な役割を持った部屋が作られる。しかし、知能が低く、自身が作った巣穴のことを良く忘れてしまうので、ターロス狩りで地上へ出るたびに新しく巣穴を作り直している。地域によっては、アースディガーが使わなくなった巣穴に、別の魔物が住み着くことも。



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