16,岩場
コボルトたちからの追求を何とかごまかした私は、集落の端っこで掲示板を眺めていた。
ラッキーなことに、なぜかコボルトたちが、ハイオークを討伐した日付を勘違いしていたため、私がNPCという結論で、話が落ち着いた。しかし、あれ以降、コボルトたちが私が特殊なNPCだと勘違いしたのか、チラチラと見てきていて怖い。後を付けられたく無いので、彼らよりも後に集落から出たいと考えている。
掲示板で度々話題に上がっている、詳細データを私も見たが、本当に曖昧な書き方がされていた。
キャラ使用者数の欄で、ゴーレムは数千人以下となっていたが、絶対そんなにたくさんいない。検証スレでゴーレムのことをやたら詳しく書き込んでみたが、誰からの反論も、訂正もなかった。もちろん、嘘を書いたわけではないので、どこかでゴーレムプレイヤーたちが書き込みを見て、後方プロデューサー面ベガ立ちしてるかも知れないが、本当に数千人いるなら、交流しようとアクションかけてくる人がいてもいいはずだ。
もし、ゴーレムプレイヤーが極端に少なく、数十人しかいない状態であるなら、今回NPCに勘違いされたのは幸運だったと言える。ロールプレイも楽しみたいのに、その環境が無くなるのは困る。
また、今回掲示板を見ていて一番心躍ったのが進化についてだ。
脳筋ミノタウロスさんの件は、神託への知見を深めるいい機会となったが、それよりも、進化が20レベルで起きる、というのは私にとって超朗報だった。
手、速さ、攻撃手段、遠距離武器。欲しいものが沢山あるが、このうち少なくとも一つは進化によって手に入ると考えると、興奮が止まらない。
ミノタウロスさんは、分岐が二つだったから、私も同じような感じなのだろうか。大きくなるか、手が付くか、なんて予想してみるが、そう考えるとどんどんデカくなっていった方がロマンがある気もする。悩ましい。
ともかく、進化することは現在一番の目標であると言っていい。残り6レべを一気に上げていこう。
ほかの目標はというと、武器の売却だろうか。
「豚骨棍棒」を掲示板で公開したところ、皆の食いつきは相当なものだった。
あんなに皆が欲しがるなら、一対一で交渉するより競りにかけた方が価値が上がるよな、と思いながらも、そんな機会をうかがっていないで、価値が下がらないうちにとっとと売却してしまおう、とも思う。そのうちあれぐらいの武器は腐るほど出てくる、アドバンテージが消えないうちに売りつけたい。
私は、自身が掲示板で見た内容を整理し、コボルト兄弟が、早く集落から出ていくことを願いながら、ぼーっと空を見上げる。
神託と、称号についてはサンプルがなさ過ぎて解明無し。意外と軽めの神託も多いみたいだから、行く先の決まっていない、今のうちに何か下りてきてほしいけど。
チラチラと飛んでくる視線に居心地の悪さを感じながら、私はしばらく岩になって過ごした。
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日が沈み、月がやけに輝く夜。
ハイオークを一緒になって倒したコボルトたちに別れを告げ、私はコボルトの集落から西側にある、以前コボルト兄弟に詰め寄られた、岩石が多い岩場の方へ向かって行った。
これで、洞窟→森→コボルトの集落→岩場と来ているが、全て西に進んでいる。何かあった時に迷わず戻れるようにと考えてのことだが、この世界の広さも知らないので、あまり気にしなくてもいい距離なのかもしれない。
コボルト兄弟はいつの間にか、いなくなっていた。コボルトたちに聞いたら、良くあることだと言っていたので、多分ログアウトしたんだろう。私もそろそろしたいとは思っているが、彼らのいる環境から逃れたい事情がある以上、タイミングを逃すわけにはいかない。
夜のということもあってか、あの二人からの気味悪い視線を思い出し、転がる体をブルりと震わせる。
今移動している岩場は、木々が少なく、生えている草も背が低く、見晴らしがいい。
森と違って、空からの外敵が多く存在する地帯だ。多分、魔物たちも背面の防御に優れたものが多い。コボルト兄弟から逃れる目的もあるし、防御が固い相手とやり合っても時間がかかりすぎる。
岩場はできる限り早く抜けて、経験値稼ぎはその次の場所で行うことにした私は、この体で出せる全速力を出し、大地を転がる。
すると、周囲から何かが軽いものを動かしたような、カラカラっという音が響き始めた。
音のした方を振り向くと、どんどんと音は数を増やしていき、私の目の前で、白く細い白骨が組みあがっていく。
すべての骨が組み合わさり、目の前にはスケルトンが現れた。
突如現れたスケルトン相手に、経験値を早く稼ぎたい頭になっていた私は「防御薄そう」としか考えておらず、進路を変え、スケルトン相手に突進を試みる。
スケルトンの動きは緩慢だったが、私の突進程度なら造作もなく避けれるらしく、よろめくように位置を変え、回避する。
最初に出会ったゴブリンのプレイヤー以外にまともに突進当ててないなと、涙目になりそうになるが、当たらないなら、近接戦。私は、こちらに向かって駆け寄ってくるスケルトンに対応するため、グッと足元に力を入れ、待ち構える。
スケルトンは武器を持っておらず、素手で攻撃してくるかと思いきや、自身の片腕を外し、それを振りがぶって殴りつけてきた。
壊れたらどうするつもりなんだと思いつつ、前に飛んで、腕の衝撃を和らげる。
が、ハイオークのような怪力を持っていないスケルトンは、私の体と骨の腕が接触すると簡単に押し負け、そのまま潰れてしまった。
あっけなく終わったスケルトンとの戦いに拍子抜けをくらう。しかし、よく考えてみるとハイオークの件で結構長い間、森の集落付近に留まっていた。ハイオークが強すぎてマヒしていたが、私は既にこのあたりで苦戦するレベル帯ではないのかもしれない。
尚更ここを抜ける理由ができてしまったと、足をしまい、転がる体制に入ろうとするが、今度は複数の骨が組みあがる音が周囲より響いてきた。
スケルトンはどんどんと数を増やしていき、ざっと数えただけでもその数は20体を超える。
そして、それらは皆手に武器を持っており、組みあがった物から、ケタケタと笑い声を上げながら、私に向かって走り出してきた。
最初の一匹を同じ要領で押しつぶすと、すぐさま次のスケルトンが来るので、今度はそちらを対応する。
何度も繰り返し、そろそろ終わりかなと周囲を見渡すと、そこには新たに組み合がるスケルトンたちが。
唖然とする私に、スケルトンたちが迫りくる。
どんなに弱い攻撃でも1ダメージは1ダメージ。
気づくと私は岩場の入り口にリスポーンしていた。
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