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封印のカード  作者: ににん
プロローグ
3/10

炎と氷の襲来〈ファイアドラゴン/アイスドラゴン〉

リオンのした提案。それは、まずはエレンが偵察に行ってくるというものだった。

彼女はもともと幻術の魔法を使うことができ、それを使えば魔物にも化けることも可能だという。

もちろん彼女が危険に晒される可能性もあるために言い出したリオンもあまり気が進まない策ではあったのだが、当の本人は「これくらいのことでへこたれていられません」と言って聞かなかった。


「そうか……」

「はい。町の皆さんのお役に立てるのなら私は構いません」

「分かった。頼んだぞ、エレン!」


◆◆


───しばらくしてエレンが戻ってきた。

「どうだった?」

「はい、やはりこの近くにいるようです。普通のものとは違う痕跡がいくつか残っていました。でも、不思議なことにその気配が消えていたんです」

「消えた?一体どこに?」

「分かりませんが、おそらくはどこかに身を潜めているのでしょう。あるいはすでに次の標的を探しているのかも…」

「なるほどな。じゃあとりあえず町は出ずに、ここで待機するしかないようだな」

そしてリオンたちは夜まで見張りを続け、交代で睡眠をとったのであった。


翌日。

リオンたちは早速行動を開始した。

向かったのは町の中心部。目的は情報を集めるためだ。

先日の戦いで多くの住民たちが亡くなったことから、町は今も悲しみに包まれていた。

しかし、それでも人々は前を向いて生きている。リオンはそんな彼らから情報を聞き出すことにした。


「すみません。少し聞きたいことがあるのですがよろしいですか?」

「ああ……。何だい?」

脚を押さえつつ歩いている男に声をかけると、傷の痛みに顔をしかめつつも返答が返ってきた。


「実は私たちは旅から戻ってきたばかりの者なのですが、町を襲ったという魔物について何かご存知ありませんでしょうか?」

「町を襲った魔物だって!?あんたらもあいつらに襲われたのかい?」

「いえ……。私たちはすれ違った形なのですが、そのときには知り合いもが何人か亡くなってしまったんです」

リオンは悲しげな表情を作って見せた。

すると、その話を聞いた男はため息を一つ吐いて言った。


「なるほどね…。お互い大変な目にあったもんだ……」

「ええ……。幼い子もいたんですよ?本当に酷い話です」

「……」

「それで、何か知りませんか?」

「ああ……すまんね。リオンも詳しいことは分からないんだが、聞いたところによるとなんでも最近になってこの地域に現れたという魔物らしいんだ」

「最近に?ということは以前からいたわけではないと?」

リオンの問いに男が答える。


この町の周辺には昔から魔物が生息していた。それを退治するためにリオンたちのような冒険者が定期的に訪れては討伐をしていたのだが、一週間前ほどを境にぱったりとその数が減ったのだという。

そのため、魔物に襲われることが急に少なくなり、安心して暮らせるようになっていたのだそうだ。

しかし、それが突然現れた魔物によって再び脅かされることになったのだ。

しかも、今回は今までに起こった襲撃とは比べ物にならないほどの規模のものだったという上、例の大型が加わっていた。そのせいでこの町は壊滅寸前にまで追い込まれたのだ。


そこまで聞いたところで、今度はエレンが質問をした。

「特に大型の魔物は見ませんでしたか?」

「大型ってのはどんな風なやつなんだい?」

「そうですね……。例えば火を噴くようなやつですとか……」

「いや、そういうのは見たことないなぁ……」


どうやら今回出現した魔物はほとんど小型のものだけということのようだ。しかしそうなると、あの遺跡にいた神官が言っていた言葉の意味が変わってくる。

『お前たちの魔力は魔物たちにとって極上の餌だということを忘れるな』


俺たちの魔力が餌だとすれば、魔物たちはリオンたちを狙ってきたはずだ」

「けれど、魔物は私たちではなく町を襲撃した…」

ということは、あの言葉には重要な意味が隠されているのかもしれない。

俺の推測が正しければだが、魔物たちを呼び寄せているのは……」

「魔族、ですね」

リオンが考えていたことをエレンが代わりに口にした。

やはり彼女も同じ考えに至ったようだ。


俺もそう思う。ぎりぎりまで大型を繰り出さず温存し、やむを得ずに投入した。しかもすぐにひっこめたらしい念の入れようだ。どうやら相当にリオンたちを食わせたいらしい」


その時、町の外縁部のほうから悲鳴と怒号が響き渡った。

「なんだ?!」

「行ってみましょう!!」


───町の外側。そこでは人々が逃げ惑う光景が広がっていた。

「助けてくれぇ!!!」

「もうだめだ!終わりだ!!死にたくないぃいいいいいいいいいい!!!」

そこには魔物たちの姿があった。


「あれは……あの姿は……ワイバーン!」

エレンが驚きの声を上げる。


「知ってるのか?」

「はい。私は何度か見たことがあります。ですが、この数は異常です。奴らはせいぜい数匹で群れを成すだけのはずなのですが……」


その言葉を否定するかのように上空を百匹以上の飛竜が飛び回る。数匹は待ちきれないかのように既に地上の人間たちに襲い掛かっていた。

「とにかく今は住民の避難が最優先だ。行くぞ、エレン!」

「わかりました、リオンさん!」


こうして、町を襲った魔物たちとの本格的な戦いが始まった。

───町を襲う魔物のうち、地上に近いのは全部で二十体ほど。


幸いにもすべて小型ばかりで、なんとか手に負えそうだ。

エレンは幻術を使う隙もないのか短剣を手に撹乱しようとしている。そうしてできた隙へリオンは魔術を詠唱し放った。

「〈炎弾(ファイア・バレット)〉!」

放たれた魔法が一匹のワイバーンに命中し、爆発する。

そして、それを皮切りに次々と他の個体も他の冒険者の手で撃ち落とされ、あるいは切り倒されていく。


しかし、そこで予想外の事態が起こった。

「ぐっ……。な、なんだこれ……。手が震える……」

「これは……何が…?ワイバーンだけじゃないの…⁉」

突如として冒険者たちの動きが悪くなり始めたのだ。そして耳にもその大きな翼が空気をたたく音が届き始める。


「まさか……こいつが本命ってわけか…」


上空を見上げると、そこには二匹の巨大なワイバーンが悠然と空を飛んでいた。

「グォオオオオン!!!」

「キィイインッ!!」


いや、その翼とは別に頑強な前足が両方に見えた。あれは―ドラゴン。一流の冒険者の話でしか聞いたことのないような超一級の魔物が、しかも二匹、輪を描くように飛びまわっていた。


その雄叫びだけで地面が揺れるような感覚を覚える。

「なんて威圧感だよ……」

「リオンさん、どうしますか!?このままでは……!」


確かに状況は絶望的だった。

ワイバーンだけならともかく、これだけ強力な魔物を相手にするのは無理がある。

「くそ……。何か手はないのか……?」


――そのとき、ふとリオンは思い出した。

「そうだ!エレン、あのカードを!こっちに渡せ!」

「カード……?あ、あの時の……?」

「ああ、頼む」

「わ、分かりました」


エレンは鞄の中からあの時に使ったカードの束を取り出してこちらへと投げ渡してきた。

それをキャッチしたリオンは一枚ずつ確かめていく。

「あった、これだ!」


それはあの遺跡で封じた悪魔像。あのときは脅威以外の何物でもなかったが、この状況なら――。

「力を貸せ!ガーゴイル!」

叫ぶのと同時に魔力が一瞬抜け落ちる感覚。その直後、前方に巨大な影が現れた。それは紛れもなくあの時の巨大な悪魔。


「キィイインッ!!」

突然現れた悪魔に驚いたのか、竜たちは一度距離を取った。


しかし、それで攻撃の手を止めるつもりは無いらしい。

再び飛竜たちが空から攻撃を仕掛けてくる。

「まずい……っ!」


どうやら二匹の竜はことなる属性の種だったらしく、片方が炎のブレスを放ったのに対しもう一方は氷のブレスだった。それらがガーゴイルの下半身を氷漬けにし、上半身を赤熱させる。


「グルルルル……」

どうやらガーゴイルは苦しんでいるらしい。


しかし、そんなことには構わずに今度は竜が爪で引き裂こうと襲い掛かってきた。

「ガァアアッ!!」

「させません!〈幻術・月光蝶〉!!」


瞬間、エレンが竜たちを包み込むように美しい光の鱗粉を振りまいた。

「ギャウウッ!!」

その美しさに見惚れていた竜たちは鱗粉に触れてしまい、嫌がり苦悶し始める。

「今だ!やれ、ガーゴイル!あいつらを仕留めろ!」


リオンの言葉を聞いたガーゴイルは再びゆっくりと動き出し、そして……

「グアァアアンッ!!!」

大きく口を開けると、そこから火球が放たれた。

その威力は凄まじく、あっという間に竜たちを飲み込み、見守るように旋回していたワイバーンの多くを巻き込んでしまう。


そして、そのまま大空に大爆発を引き起こした。


爆風で押しつぶされそうになるのをなんとか耐えきったリオンは空を見上げる。

そこにはもう何も残っていなかった。

ただ、雲一つない青い空が広がっていた。


「やったぞ!勝ったんだ!」

「はい!やりましたね、リオンさん!」リオンたちはハイタッチをして喜びを分かち合う。

そうして、リオンたちの町を襲った魔物の大群は全滅し、後に残ったのは町を覆う瓦礫だけだった。


「それにしても……すごい戦いだったなぁ……」

「えぇ……。さすがにここまでとは思いませんでした……」


町を襲った竜たちの脅威と無我夢中で召喚した悪魔の強大さに今も手の震えが止まらない。その一方で町のあちこちには傷を負った冒険者たちが転がっていた。

幸いにも今日の戦いでは死人はほぼ出なかったようだが、それでも重傷者は多数いるようで今も治癒師が走り回っている。


「とりあえずギルドへ報告に行くか……」

「そうですね、私もそれがいいと思います」


そのとき。

突如目の前の瓦礫が吹き飛ばされ、黒く焼け焦げた巨体が持ち上がった。「な、なんだ!?」


「あれは……アイスドラゴン⁉」


それは先ほど倒したはずの竜の片割れだった。


「嘘だろ……」

「まさか……生きてるんですか?あれだけの攻撃を受けたんですよ⁉リオンさん、ガーゴイルは!」

「今日は無理だ!さっきので分かった。アレは、慣れないうちは相当に負担がでかい。自分たちで何とかするしかない!」


リオンは護身用の短剣を構えると、アイスドラゴンに向かって駆け出した。

「グォオオンッ!!」

「ぐぅう……っ!」


瀕死でなお、大抵のものを凍り付かせるであろう竜の吐息ブレスが容赦なく襲いかかってくる。

リオンは咄嵯に地面を蹴って回避するが、その風圧で吹き飛びそうになった。

「くそ……っ!」


だが、この一撃を回避したことでリオンは大きく体勢が崩れてしまった。

そこに竜の前足が叩きつけられる。

「しま……っ!」


――避けられない!! リオンは衝撃に備えて身構えるが、しかし一向に痛みは来ない。

代わりに感じたのは既視感のある魔力の流れだった。


(これは…今のはまさか!)

目を開けると、そこには拾った必死にカードをこちらへかざしたエレンの姿だった。

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