夜空を駆ける希望
夜空を埋め尽くす闇の中、瞬く光――。
夜空に凛々と輝く月――。
夜空を彩る星々――。
寒い寒い冬の頃……夜空というキャンパスに、一つの流れ星が描かれた。
それは、流れ星ではなかったが、それでもその日、人々は空を見上げる。それを偶然、必然、運命……様々な言葉を思い浮かべながらもそれを見て、三度。祈る。祈る。祈る。
流星を、たった一つの希望かのように、それは一瞬の瞬きで、夜空からは刹那の時もなく、それでも三度祈り続ける。
その思いは、永遠ではない。だけど、夜空の一瞬よりも長く長く、その思いは、少しの幸せを祈った人々に届けた。
夜空を駆ける――。
夜空を駆け抜ける――。
夜空をただただ駆け抜ける――。
彼は駆けていた。彼は、幸せを運ぶため、駆けていた。彼は想いであり、彼は人々の希望。彼は誰もが知っていて誰も知らない、そんなそんな淡い存在。だが、確固として存在する。
誰もが一度は、信じ、そして忘れていくようなそんな存在。だけど、彼は存在している。信じている人々がいる限り――。
彼は、幸せの具現者。彼は、幸せを平等に配るもの。
それは、人々が生み出した。それは、人々の想いの具現者。
彼は、夢なのかもしれない。誰もが憧れ、期待し、あらゆる夢を託し、もたらす存在。
だから、彼は駆ける。一生懸命に駆ける。希望を、幸せを、夢を……届けるために。
夜空がまた、光で瞬く。でも、それは流れ星ではない。
彼は夜空を駆けていた。ただ、ただ、駆けていた。
大きな白い袋を背に持ち、それは全ての希望と幸せと夢が詰まった袋。
彼に出来ない事はない。なんたって、彼は一夜限りだけど、世界中の幸せの配達人なのだ。
その日、空を見上げれば鈴の音と共に現れる、夜空を駆ける流れ星。
聖なる夜。祈りを捧げ、静かに寝息を立て明日を夢見る子供達。
全ての人が経験する幸せの朝を迎えさせるために、彼は人々の想いを力に変えて一生懸命駆け抜ける。
たった一人。でも、一人じゃない。そんな不思議な存在。
白い白い真っ白な雪にも負けない、立派な白い髪と髭を蓄え、その目は世界中の子供達が思い描き、集めたかのような幸せに満ち、赤と白の衣装を身に纏う。
彼が連れるは、八頭のトナカイ。彼はソリに乗り、大きな白い袋を担ぐと、手綱を引く。
それに合わせて、トナカイ達は、夜空へと飛び立った。
駆ける。駆ける。駆ける。彼らは、空を、夜空を、世界を、駆け巡る。
誰かが言う。一人で世界を駆け巡るのは不可能だと。かつて信じた存在。それでも、今は信じていない存在。だけど、何と言われようとも彼は駆ける。希望と幸せ、夢を――世界中にプレゼントするために。
彼は想いで出来ていた。
彼らは、人々の想いで出来ていた。
なら、その願いを叶えない訳には行かないだろう。
その日、たった、たった一夜。わずかな時間。取るに足らない時間。それでも、それでも、世界中に幸せが訪れたのだ。
世界が幸せになるよう、希望が生まれるよう、夢が紡がれるよう、信じて彼らは生まれたのだ。
彼は純粋に全ての人々に幸福を配る世界唯一の配達人。
今年もまた、夢見る子供達、それを願う世界中の人達のために、たった一夜限りの仕事をこなすのである。
彼にとって距離も時間も関係ない。幸せになってくれるのならば、そんなものなんて事はない! ただ届けるだけなのだ! 全てを超越し、どんな障害も乗り越え、突破して、辿り着く。
たった一夜の希望を紡ぐため彼らは、世界を駆け巡った……。
「世界中に幸せを、メリークリスマス」