戯れ言 ネコと私と思春期妹 心疾患兄妹編
この日、私は妹と喧嘩をした。と言うよりも、妹が突っかかって来た。
「ネコ~かわいいねぇ。かわいいねぇ」
声を高くして飼い猫のキジトラを撫で繰り回す私を見て、妹は白い目を向けた。
「兄貴・・・マジでそれやめてくんない? 気持ち悪い」
「何だ妹、お前だってこんな感じで親父にあやされてたじゃん」
「アレはお父さんに付き合っただけ。兄貴のはマジでキモい」
「妹よ。それは俺とネコの世界であって、お前にはお前の世界がある。人それぞれの関係せいもあるだろう。多様の愛情表現があっても良いじゃ無いか。そのことで誰かに迷惑かけたりしたか?」
「だって嫌なんだもん。兄貴風呂上がりにふざけてネコを又に挟んで前隠したりとか、撫でられないじゃん」
「前隠しているから良いじゃ無いか! TPOは弁えているつもりだぞ妹。ちょっとワガママじゃないか?」
「そんなんだったら、モロ出しの方がマシ! ってか全然TPO弁えてない! せめて腰にタオル巻け! 裸でネコ挟むな!」
涙ながらに訴える妹に、当時の私は理不尽を感じずにはいられなかった。
「しかし妹、ネコは嫌がってなかったぞ」
「私が嫌なの! 毎日一緒に寝てるんだから」
心疾患を持つ私と妹だが、妹は殆どベッドで過ごしている。
そして、ネコは何故か横になった妹の腹の上がお気に入りだ。
いつも重いと愚痴をこぼしているが、何だかんだで妹も可愛がっていることは間違いない。
(そんなに嫌だったのか・・・・・・)
つい、障害のことばかりに目が行ってしまい失念していた。その時初めて、自分が男で妹が年頃の女子であると理解した。と言うよりも妹が女だと考えた事すらも無かった。
「分かった。兄ちゃんが悪かった。もう、ふざけてネコを又には挟まない。しかし、ネコと遊ぶときに声が高くなるのは自然と出てしまうんだ。それくらいは良いだろう」
「違う! ネコ挟むよりも、そっちが嫌なの! 兄貴のネコにかける高い声がキモいの!」
「え? そっちなの!? それはそれで、ちょっとショックなんですけど」
遂に泣き出す妹、私は遠巻きに見ていた母に引きずられ別室へ連れて行かれた。
「何、妹泣かしてんの?」
「だって、ネコを又に挟まないって約束しようとしたら、ネコと遊ぶときに高い声出すなって言うから・・・さすがに妹がワガママじゃないか? 動物と遊ぶときくらいいいじゃんってか、自然と出るんだよ」
「まあ、アンタの言いたい事も分かるけど、ふざけて前を隠すためネコ挟むのはアウトね。私も嫌だわ」
「お、おう」
「ただ、ネコとじゃれる時は・・・まあ、ちょっと説得してみるわ」
「よろしく頼む」
何とか母が仲裁し、それ以来、妹は私がネコと遊んでいる時に何かを言う事は無かったが、その視線は諦めが入り交じったような、さらに冷ややかなものだった。
確かに、私も思春期女子に対して反省すべき点も色々あった。と今では思う。
しかし、ネコに声をかけるのがキモい言われるのはちょっとメンタルにきた。
どうして、動物を飼っているとつい声を高くしてしまうのか今でも分からない。
一つ言えることは、飼っている動物の前で愛情を隠さず声に出してしまうことは、決して悪い事じゃ無いと思う。そして、同時に妹にはちょっとワガママを通させて済まないと思った。