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197話、反省会で見えてきた事実

「おっ、居た居た! アカシック、こっちだ!」


「……嘘だろ? ここまで届いたのか?」


 朱色の泡状と化した『黎明れいめい』に視界と聴覚を奪われて、体感的に数分後。ようやく視界が色付いてきたかと思えば、ノームの姿はどこにもあらず。

 急いで生死を確認すべく、地上まで下りてきたものの……。見える範囲の荒野は、全て等しく消し飛び。ただ滑らかなで、広範囲に渡って抉れた大地だけが残っていた。

 『黎明』を使用したのは、夜の帳が降りた高高度でのはずだが。まさか、遥か下にある大地にまで攻撃が届いていただなんて。


「うわぁ……。デコボコだった荒野が、滑らかに抉れちゃってる……」


「お、おぞましい威力と範囲だな……」


「世界の均衡を崩すどころか、一撃で半壊しかねないな」


 地上で放っていたら、『土の瞑想場』自体が消え去っていたかもしれない。これが、禁断の召喚魔法の威力か。想像を絶する光景を目の当たりにして、そう謳われるのも納得してしまった。


「ノーム爺さん、見事に埋まっちまってんな」


 先を行ったシルフの元へ付き、真下を覗いてみる。あまり拝みたくない、視界の先。だらしなく開いた口と腹部以外、地面に埋もれたノームを見つけた。


「やった、のか?」


 地上に降り立つも、ノームは動き出すどころか呼吸すらしていない。


「……殺って、しまった、のか?」


「だぁーっはっはっはっはっはっ!!」


「むおっ!?」


 血の気が引き、恐る恐る近づくや否や。ノームが勢いよく起き上がり、驚いて体を波立たせながら半歩後ずさる私。


「はっはっはっはっ、はぁ……。やっぱり、負けちまったかあ」


 豪快な笑い声が途切れ、空を仰いでいたノームの顔が垂れ下がり。つぶらな褐色の瞳が、私の方へ向いてきた。


「魔女の嬢ちゃん。色々文句が言いてえから、全部吐かせてくれえ」


「え? も、文句?」


「そうだあッ! 束縛魔法のせいで迂闊に近づけねえし俺様の苦手な空へ行ったり虹色の鳥をアホみてえに垂れ流したり俺様の得意な戦法で一回も戦えねェォオオアアアアアアーーーッッ!!」


「うるさっ!?」


 よっぽど鬱憤が溜まっていたのか。怒りの大咆哮が地鳴りを巻き起こし、抉れた大地を揺さぶっていく。


「はっはっはっ。俺と契約したから、風魔法の『ふわふわ』がしこたま強化されて、ノーム爺さんにとっては、絶大な威力を発揮する束縛魔法になっちまったんだからな。あれは想定外だったから、俺も驚いたぜ」


「しかも、無詠唱でバンバン使えんだろお? 俺様にとっちゃ、嬢ちゃんの『奥の手』級に脅威な魔法だったぜえ」


「奥の手……。あ、そうだ」


 戦闘が終わりを迎え、双方落ち着いて話せる状態になったから、戦闘中に気になった事や些細な事まで、あれよあれよと一気に思い出してきた。

 一向に姿を見せなかったノームの動向も気になるし。ここからは、互いに気になっていた所を言い合っていこう。


「ノーム。私も色々と気になってた事があるから、聞いてもいいか?」


「なんだあ?」


「まずは……、そうだな。私の『奥の手』を防いだって言ってたけど、何をしたんだ?」


 結局、今回『奥の手』は最後まで発動してくれなかった。もし入念に対策されているのであれば、今後は大精霊との闘いで使えなくなってしまう。


「ああ、それかあ。それは単純に、嬢ちゃんの魔力が『土の瞑想場』に馴染まないよう、場の全体を搔き乱し続けてたのさあ」


「場の全体を?」


「そうだあ。たとえば、岩石を降らせたりだろ? 場が荒れまくる大技を連発したり、わざわざ俺様が決死の覚悟で止めに入ったりなあ」


「止めにって、あの時か」


 場面は、ノームが一回目の『双臥龍狂宴』を発動させた後。私が『天翔ける極光鳥』を同時召喚して、有象無象と化した『竜の禊』を押し返した時だ。

 確かに私は、『奥の手』の発動が早まるよう追加詠唱していた。なるほど。だから瞬間移動まで駆使し、止めに入ってきた訳か。

 辺りに降り注いでいた、岩石もそう。死角から攻撃を放つ一種の手段だと、予想していたのだが。理由は単純に、私の魔力を搔き乱す為だったと。それに……。


「それだけの為に、『双臥龍狂宴』や『大地の覇者』を使ったのか?」


「それもあるがあ。虹色の鳥から身を隠す為に、使わざるを得なかったんだがよお。如何せん、俺様を見つけるのが上手くてなあ。ずぅーっと、あいつらに追われてたぜえ」


「ずっとって、『大地の覇者』を召喚してからもなのか?」


「その通りだあ。『大地の覇者』の中で、逃げ回りながら倒してたぞお。お陰で、『双臥龍狂宴』と『大地の覇者』をまともに操れなかったから、真価をまったく発揮出来なかったぜえ」


 疲れた様に当時の置かれていた立場を語り、湿ったため息を吐くノーム。後半戦、私達は敗北寸前まで追い込まれていたというのに。

 ノーム(いわ)く、それでも万全の状態で戦えていなかったというのか。それはそれで、また身の毛がよだつ事実だ。『天翔ける極光鳥』には、本当に感謝しておかなければ。


「なるほど……。一回目の『双臥龍狂宴』が、やたらと手応えがなかったのは、そういう訳だったのですね」


 私と二手に分かれた後。担当した『双臥龍狂宴』の本体へ近づく前に、圧倒的火力で殲滅したウィザレナが言う。


「だぜえ。あん時は、俺様もとにかく切羽詰まってたからなあ。操れねえでアホみてえな挙動をしてる本体を見て、から笑いしてたぜえ」


「つまり、まともに操れていたらですけど……。『天翔ける極光鳥』様達には目もくれず、私達のみを攻撃していたのでしょうか?」


「あったりめえよお。本当なら、あそこで嬢ちゃん達を潰せてたんだぜえ? 本気の状態で真っ向勝負してたら、ぜってえ負けなかったぞお?」


「うっ……」


 勝ちを確信するノームの雄々しい笑みに、ウィザレナとレナの体に波が打った。そうだ。二回目の『双臥龍狂宴』は、レナの『緋月ひげつ』で私達が強化されていなかったら、対抗すら出来ていなかった。

 今回の戦いは、全て『天翔ける極光鳥』達のお陰と言っても過言ではない。もし、ノームが『竜の禊』を多重召喚して、それを見た私も出来るんじゃないかと疑い、実際に試していなかったら……。

 私達は一回目の『双臥龍狂宴』の本体が出現した時点で、負けがほぼ確定していた事になる。ウンディーネと戦った時もそうだが、つくづく運が良かったな。


「『天翔ける極光鳥』も召喚した数によっちゃあ、完全に禁断の魔法級になっちまうからな。つっても、もう片足突っ込んでるけどよ」


「え? そうなのか?」


 シルフの考察に、あっけらかんと反応する私。


「光芒化した『天翔ける極光鳥』は、基本防御不可能だ。来るのが分かってたとしても、普通の奴らは防ぎようがねえ。それを国や大衆に向けて、数千数万と降らせてみろ? あっという間に消滅しちまうぜ?」


「……あっ」


 私が『天翔ける極光鳥』を放ったのは、水を司る大精霊ウンディーネ、不死鳥(フェニックス)、土を司る大精霊ノームのみ。

 いずれも、人の領域を軽く超えた存在だ。そして私は、まだ人間や他の種族に対して『天翔ける極光鳥』を放った事が無い。いや、放てる訳がない。

 とんでもない奴らと連戦していたせいで、感覚が色々と麻痺していた。対人戦で『天翔ける極光鳥』を召喚したら、たった数羽で決着が付いてしまう。


「分かってると思うけどよ、アカシック? 『天翔ける極光鳥』の使いどころを、決して間違えるんじゃねえぞ?」


「わ、分かってる。対人戦では、絶対に使わないと誓う」


「おう! それでいい。つっても、それ抜きでもお前に勝てる人間なんざ、この世に居るかすら怪しいけどな」


「魔女の嬢ちゃんも、余裕でバケモンだからなあ。今まで戦ってきた奴らの中で、一番強かったぜえ」


「は、はぁ……」


 ウィザレナなら、強いと明確に分かるけども。私も、そこまで強いのか? あまり実感がないけど……。たぶん、ここら辺の感覚も狂っていそうだな。


「エルフの嬢ちゃん達もそうだぜえ?」


「わ、私達もですか!?」

「ふぇっ!?」


「ああ。『星雲瀑布』だっけかあ? あれも久々に、身が震えるほどやべえって直感したぜえ。もし、『緋月』で強化された状態で使われてたら、分かんなかったかもなあ」


 『星雲瀑布』。あのノームを畏怖させた、約五十を超える超巨大な流星群の嵐。あれも、一国を軽く飲み込みかねない範囲と威力があった。


「あれは、私も心が熱く昂ったよ。もしかしたら、このままノームを倒せるんじゃないか? とな」


「ウィザレナも十分すげえが。レナだって、ちゃんとすごかったぜ? もし二人が居なかったら、アカシックは序盤辺りで負けてただろうな」


「アカシック殿……」

「シルフ様……」


 私とシルフで、二人を褒めちぎってみれば。目をまん丸にさせていた二人が、膝から崩れる様に脱力し。重力に任せて尻もちをつき、気疲れしたようなため息を同時に空へ吐いた。


「よ、よかったぁ~……、アカシック殿の役に立ててぇ……」

「じゃ、邪魔じゃないかなってずっと思ってたから、本当によかったぁ……」


 ずっと胸の内に留めていたであろう本音まで吐き出し、更に長いため息で本音を包み込む二人。


「二人が居たからこそ、私はあそこまで戦えたんだ。あの時は付いて来てくれて、本当にありがとうな。とても心強かったよ」


「大口を叩いて喝を入れた手前。役に立ててなかったらどうしようって、内心ずっとビクビクしてたぞ……」

「ウィザレナに同じくぅ……」


 弱い部分まで曝け出すと、二人は完全に気が緩んだのか。上体が徐々に倒れていき、二大精霊を前にして地面へ倒れ込んでいった。


「はっはっはっ。普段は堂々と構えてるクセに、意外と小心者なんだな。お前ら」


「こういう所があるから、この二人は憎めないんだ。日頃からお世話になってる、最高の仲間だよ」


 清々しく笑うシルフの声に、私の口元も思わず緩んだ。帰ったら、二人にはご馳走を振る舞ってやらないと。


「んで、ノーム爺さん。あんたは、この三人に負けたんだからな? ちゃんと契約してやれよ?」


「分かってらあ。けど、少しだけ休ませてくれえ。こう見えても、瀕死寸前なんだからよお」


 まるでそんな様子を見せていないノームが、ニッと渋い笑顔を作り。その笑顔を保ったまま、ゆっくりと地面に倒れていき、豪快な砂埃を巻き上げた。


「おい、ノーム爺さん? ……ちょっ、嘘だろ!? ノーム爺さんが息してねえ! アカシック、今すぐ『フェアリーヒーリング』をやってくれ!」


「なんだと!? え、あ……、ひ、“光の杖”!」


 ―――頼む、我があるじよ。彼の者を、亡き者にしないでくれ。


 慌てて『フェアリーヒーリング』を唱えるも、魔力が足らないのか発動してくれず。

 なりふり構っていられない私は、懐から秘薬入りの小瓶を取り出し、蓋を雑に開けながらノームの口に秘薬を流し込んだ。

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