表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第五章開始】竜人少女と奴隷の少年  作者: 大久 永里子
第二章 少年と竜人
93/239

93. 少年と竜人少女と冬の夜

「地下牢って――――――――――――どうしてそう思うの?」


 尋ねるナギの声が張り詰めていて、ラスタを鼻白ませた。


「どうしてって、領主というのは大抵、領地で何かあった時には裁きを与える役目も負っているものじゃないのか?住居の地下を、牢屋にすることが多いらしいが。」

「―――――――――――――――――」



  まさか。

  ミルは「地下室」だ、って言っていた。

  牢屋もあるのかもしれないけれど、普通の部屋もあるんだろう。



 「獣人の記憶」は、思わぬ情報をカバーしているらしい。

 突然生じた疑念を、ナギは打ち消したが、打ち消しきることが出来なかった。

 闇でも見える竜人の煌めく青い瞳は、少年の顔から血の気が引いて行くのを見つめていた。



  もしかして―――――――――――――

  ミルは自分を心配させまいとしたのかもしれない。



 強張る声で、ナギは相棒に切り出した。


「―――――――――ラスタ。明日あしたの朝、館の地下を見て来てくれないか?」

「地下がどうかしたのか?」

「………ミルの部屋は、地下室の筈なんだ。」


 ナギにはもう、ラスタの顔はほとんど見えない。

 だが竜人の光る目が一度小さく見開かれ、それからふいと横を向いてしまったのは分かる。


「………なんでわたしが。」

「ラスタ!頼むよ。」

「知らぬ!」


 幼い少女は、おそらくむくれ顔をしているのだろう。闇の中でも、それだけは感じ取れる。拒絶の強固さに、ナギは困惑した。


「ラスタは……………ミルのことが嫌いなの?」

「私が大好きなのはナギだけだ。ほかの奴らのことは知らぬ!」


 あどけない声が告げる言葉の極端さに、ナギは目をみはった。


  自分以外の人間と、関わったことがないからかもしれない。

  ラスタをそんな異常な環境に置いてしまったのは、自分だ。



 暗闇の中で、青い瞳がちらりとナギを向く。

 少年は、悲し気な表情かおをしていた。



「―――――――――――――――――見てくればいいんだろう。」

 やがて沈黙を破った声は、憮然としていた。

「―――――――――――えっ………。」

「ふんっ。」

「……………ありがとう。」



 目を逸らした竜人の少女に微笑みながら礼を言い、ナギは複雑な気持ちだった。



  こんな所でラスタを育て続けたら駄目だ。

  自分とミルのためだけでなく、ラスタのためにも、一日でも早く

  ここを出なきゃいけない。



 もう真っ暗だ。

 寒さもきつい。

 体をわらの山の中に入れないと。

 訊きたいことや、話したいことがまだ沢山あるのに。




 奇妙なに気が付いて、竜人の少女が少年に向き直った。



「寝るのか?」

「―――――――――――――――――――――――――――――」



 数秒、沈黙があった。




「――――――――――――ラスタ。」

「うむ?」

「竜の方が、抱っこして寝やすい。」



 少年のその言葉に、青い瞳が戸惑う様子を見せる。

「………大きいから、人間ひとの方が温かくないか?」

「竜でもあったかいよ。抱っこしやすい方があったかいと思う。」

 内心ひやひやしながら、少年は主張した。

「そうか?」

 応えたラスタの声は既に半分納得しかけていて、少女の気質の素直さを教えるようだった。


 最早ラスタの瞳以外、何も見えない。

 その瞳に浮かぶ困惑の色を、ナギは緊張を押し殺しつつ見つめていた。


「喋れないから、不便だと思うが。」

 ぶつぶつとあどけない声が言ったが、だが次の瞬間、闇の中で青い瞳の位置ががくんと下がった。



 とてとてとて。



 小さな足音がする。


 すぐ傍まで来た温かな生き物に、ナギは左手を差し伸ばした。

 その手に黒竜が、頭を擦りつける。

 もう煌めく瞳しか見えないけれど、手に触れる竜は昨日きのうより一回り大きい。


「大きくなったね。」


 少年が思わず言うと、黒竜の青い瞳は嬉しげにした。


 ナギがわらの中に体を沈めると、小さな黒竜は少年の左脇に挟まれるようにして丸くなった。



 朝訊ききれなかったことを、眠ってしまう直前まで色々訊ければよかったのにと思う。

 確かに、喋れないのは不便だった。

 全部明日(あした)の朝に仕切り直しだ。



 やがて眠りに落ちたのか、腕の中で小さな竜が、静かで、規則正しい呼吸をし出す。

 人間ひとの姿でなくとも、赤ちゃん猫のサイズだった昨日きのうまでより、存在感はぐっと大きかった。


 ラスタが素直に竜になってくれてよかった。

 見えない小さな竜を見つめながら、ナギはほっとしていた。



 今はともかくとして、「あと二年で大人になる」というラスタの、この先の成長が少年は怖かった。



 寒気のきつい冬の暗闇の中で右手を伸ばし、ナギは温かなラスタの丸い背中をそっと撫でた。





  ずっとこうしていたい。





 でもいつか、離れなければならないんだろう。


読んで下さった方、ブクマや評価、いいねして下さった方、本当にありがとうございます。

物凄く励みになります。ちょっとだけ頑張れますので、ぜひ下の☆☆☆☆☆を押して頂けたりすると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ