89. 沐浴
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
窓の外が茜色に染まり出している。
その日は二日に一度の沐浴の日で、気持ちが急くのに、ナギはすぐには牛小屋に帰ることが出来なかった。
与えられた石鹸で体を洗った少年は、大きな盥に張られた湯を木桶で数回すくって体を流した。
床は浴室の奥の排水口に向かって僅かに傾斜していて、泡を含んだお湯を、あっという間に吸い込んで行く。
見張りの使用人の男が少年奴隷の足枷を手にして、無言で傾斜の上に立っていた。
家畜のように、少年は黙って体を洗った。
四年経っても、他人に見張られながら体を洗うことに慣れない。
せめて会話でもあればまだ違うのかもしれないが、監視の男は一言も口を利かずにそこにじっと立っているのだ。
ミルはどう感じているのだろう、と思う。
数日に一度のペースで、ミルも同じように監視されながら、同じように沐浴させられていると言う。
さすがにミルの監視は女中達が持ち回りで行っているようで、それだけは一抹の不安を抱いていたナギを多少安堵させたが、それでも、人目に晒されながらの沐浴は、十代の女の子には恥ずかしくて辛い仕打ちではないだろうか。
もうじき15歳になるミルは、随分女性らしくなってきていた。
気のせいかもしれない、自分にとってミルがそう見えているだけかもしれないとも考えたが、ミルは段々と、館で目立つ存在になってきているようにナギには思えた。
よく考えてみたら、この館にはヘルネスの二人の娘を除いて、若い女性がいないのだ。
館の使用人が全部で何人なのかナギには未だに分からなかったので、もしかしたらナギが知らないだけかもしれないが、少なくとも少年がここで見たことのある女中は、一番若くて三十代の後半くらいに見えた。
ミルのことを思うと、ナギはいつも不安で堪らなくなる。
喉の奥を何かに締められるように感じて、息が苦しかった。
少年は無言のまま沐浴を終えた。
そして歯を磨き、服を着終えると、ナギの足には再び鉄の枷が嵌められた。
ほんの短い時間だけでも、朝にラスタが自由をくれたせいかもしれない。
その瞬間が、今日は何かひどく屈辱的に感じた。
男に連れられて少年奴隷が勝手口に向かって歩き出すと、鉄の鎖が廊下を打つ音が、いつにも増して、固く冷たく耳に響いた。
早く牛小屋に帰りたかった。
ラスタに会いたい。
ブワイエ一家の夕食の支度で忙しい台所に入る。
そこに黒い服の女がいて、少年はぎょっとした。
読んで下さっている方、今日たまたま読んで下さった方、本当にありがとうございます。
多忙のため、次週以降少しの間、更新が滞りがちになるかと思います。
なるべく早く通常ペースに戻りたいと思います、ごめんなさい><
励みになりますので、評価やブックマークして頂けると大変嬉しいです!




