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【第五章開始】竜人少女と奴隷の少年  作者: 大久 永里子
第二章 少年と竜人
86/239

86. 空を飛ぶ(2)

  訊いてみよう。


 そう思い、視線を上げて、ナギは「えっ……」と呟いた。


「ラスタ――――――――――!」


 制止の声は間に合わなかった。



 故郷にいた時、ナギには問題のないことでも「小さな弟達が真似をすると危ない」と言うので、彼らの前で斜面をよじ登ったりすると、ナギは母から怒られたりした。

 少年の頭の中で、あの頃の母の声が甦る。



  やらかした――――――――――――――!


 小さな女の子がその背と同じ長さの金髪をなびかせて、ひょいとナギの目より高い位置から飛び降りた。



「待っ……!」



 母の教えは偉大だとか思いつつ、少年は慌てふためきながら、少女の落下予想地点で手を広げた。

 竜人はもしかしたら物凄く丈夫なのかもしれないけれど、そんな賭けをする気にはなれない。


 ナギが腕で作った囲いの中に、少女は落ちた。


  間に合った。


 抱き止めることに成功―――――――したつもりだった。


 一瞬後、少年の腕の中に少女はいたが、彼が予測した衝撃はいつまでもやって来なかった。

 正確に言えばナギが腕で作った輪はまだ引き絞られていないのに、ラスタはなぜか少年の腕の中にとどまっていた。



「心配するな!」


 青い瞳の少女が得意げに笑う。その顔の位置がナギより少し高い。金色の髪が、さらさらと揺れながら少年の腕に触れている。


 ゆっくりと、少女の足元に視線を向けて、サンダルを履いた小さな足が地面に着いていないのを見た時、ナギは開いた口がふさがらなかった。



「――――――――――――――飛べるの?」

 掠れた声で少年がそう訊けたのは、数秒を置いてからだ。


「『飛べる』と言うか、『持ち上げてる』みたいな感じだ。触らないで物を動かせる。」

 少し考え込むようにしてからそう応えると、竜人の少女は宙に浮いたまま、左手を上げた。

 そしてナギの足枷を解いた時のように、小さな人差し指が小屋の扉に向けられる。



 がちゃり。



 少女の指の先で、両開きの扉の左のハンドルが回った。

 それからハンドルは、逆回転して元に戻った。扉の外でかんぬきが受けがねに掛かる音が、かちんと響く。


 独りでに物が動いた――――――――――――――。


 まるで見えない手があるかのように。


「扉を抑えてすぐに開けられないようにすればよかった。次からはそうする。」

 小さな少女が少しむくれながら言う。自分の不手際に、自分で腹を立てているようだった。


 ナギはただハンドルを見つめていた。


 言葉が出ない。


 ほかに訊こうとしていたことがあったのに。

 次々と知りたいことが出来る。

 訊きたいことを全部訊き終えられるまで、これでは何日掛かるだろうか。


 ゆっくりと少女に視線を戻すと、少年は硬い声で尋ねた。


「もしかして――――――――――外からドアや窓の鍵を開けることが出来る?」

「もちろんだ!!」


 空中で、少女は胸を張って笑った。


「――――――――――――――――――――――」


 国境まで歩くための装備を揃えられるかもしれない。そう思い、ナギは緊張した。



 もう一つ、知りたかったことを少年は尋ねた。



「ラスタ――――――――――――――。もしかして、ヴァルーダ語が分かる?」


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