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【第五章開始】竜人少女と奴隷の少年  作者: 大久 永里子
第二章 少年と竜人
84/239

84. 黒い服の女

 苦しげな音を立てながら、蝶番ちょうつがいの壊れかかっている扉が開いた。


 寒々しい冬の朝が口を開け、その中に、陰気な顔をした黒い服の女が立っていた。


 屋内の温度が急激に下がる。


 息を飲み、少年は予期せぬ訪問者を見つめた。


 誰だかは知っていた。


 扉が開こうとした瞬間に、ナギは何人かの人物を予想した。

 だが扉の向こうに立っているのは、少年の予想の片隅にもいなかった人間だった。


 30代か、40代くらいに見える女。


 春に輿入れして来ることになっている、ハンネスの婚約者の家から来ている女だ。

 何人かでやって来て、数日前からブワイエ家に滞在している。

 輿入れに向けて用意やら打ち合わせやらの必要があるのか、相手の家から人が遣わされて来るのはこれで二度目だった。


 客人の素性を教えてくれたのはミルだ。


 ナギとミルが話せる機会は変わらず少なかったが、話せる機会がある時は、ミルは館で起きていることを、よく教えてくれた。

 お蔭でミルが来てからの一年で、ナギはそれまでの三年よりも館の事情に詳しくなっていた。



  なんでここに、他所よその家の人間が。



 ナギはただ目を見開いて相手を見ていた。


 足枷が外れていて、立つことが出来ない。

 梯子を降りろと言われたり、相手が近付いて来たりしたら、でも気付かれる。枷が外れていることに。


 黒い服の陰気な女は、戸口から無言でナギを一瞥した。


 後ろで束ねられた薄黄色の髪が、冷たい風に晒されて微かに揺れている。ハンネスの婚約者の家の使用人には制服があるようで、着ている服は同行のほかの女達と同じだった。女は白いエプロンをしていて襟と襟飾りの布も白かったが、逆光のせいなのか、その黒い色しか印象に残らない。


 沈黙のまま女の視線を受け止めた少年は、意識も体も張り詰めていた。


 女は何も言わず、牛小屋に入って来ることもなかった。


 数秒ナギを見やると、女は再び扉を閉めた。


 冷気と光が弱まる。


 身じろぎもせずに、ナギはその様子を見守っていた。

 足音が遠ざかって行くのが聞こえる。



  なんだったんだ―――――――――――――――――――――。



 起きたことは異様だった。

 他家の人間がこんな早朝に家畜小屋の周囲をうろつくなんて、まるでブワイエ家の目を盗むかのような行動だ。


 閉じられた扉を見つめたまま、ナギはしばらく動けなかった。


 ブワイエ家に対して忠心の欠片かけらでもあるのなら、報告するべき不審な出来事なのかもしれないが。欠片かけらの持ち合わせもないので、館に告げるべきなのか迷った。自分の身に影響がない出来事であるのなら、首を突っ込もうとは思わない。




 ぽんっ。




 小さな音がして、少年の頭上に、少女ではなく漆黒の竜が現れた。


 ナギは目をみはった。


「ラスタ………?!」


 これまでは「新種の何か」かと思えないこともない見た目だったのに、もうだいぶ竜らしい。


 黒竜は、また一回り大きくなっていた。


 少年が両手を伸ばすと、青い瞳の竜は楽しげな表情で、その手の中に舞い降りた。


読んで下さっている方、今日たまたま読んで下さった方、本当に本当にありがとうございます!


よろしければ下の☆☆☆☆☆を押して頂いたり、ブックマークして頂けたりすると物凄く嬉しいです!!

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