83. 大好きだから
竜人の少女が目を上げる。
少し困ったような表情だった。
「母の記憶で、ヤマタの地理なら少しは分かると思ったんだが。」
その言葉に驚き、少年は少女を改めて見やった。
ラスタが突然母親の話を始めたのは、この場所を突き止めようとしてくれてのことだったらしい。
―――――――――でも自分の母親と父親のことが気にならないなんてこと、
あるだろうか。
ナギの意識はまだラスタの両親の話から離れられなかったが、竜人少女は小首を傾げると、次の疑問を口にした。
「――――――――――それでわたしはどうして、ナギの所に来たんだ?」
牛が益々落ち着きのない様子を見せていて、時間に追い立てられていることを意識したが、この質問を通り過ぎることは出来ない。
ナギは卵だったラスタを拾った日のことを、出来るだけ正確に少女に語った。
話しながら、ナギは胸が苦しくなるのを感じた。
ラスタは自分のことを、親だと思っているのかもしれない。
そう考えたことが小さな竜を、隠しながら育てる大きな理由になっていた。
それが思い違いだったのなら、自分は、自分とミルと仲間達のために、ラスタをただ犠牲にしたことになる。
「そうか。ならナギが拾ってくれなかったら、わたしはまだ生まれていなかったな。」
話が途切れた時、ラスタはにこにことそう言ってくれたが、ナギの罪悪感は消せなかった。
自分が拾わなければ、ラスタは家畜小屋で育つことはなかった。
「ごめん。………こんな所で育てて。」
微かに俯き少年がそう言うと、竜人の少女はきょとんとしたように目を瞬かせた。
「不自由なかったぞ。」
それはラスタが、牛小屋しか知らないからではないかと思う。
「ナギが拾ってくれてよかった。」
だが少女は笑顔でそう言うと立ち上がり、なぜか誇らしげに胸を張った。
「ナギのことが大好きだからな!」
光に包まれた少女の満面の笑みを見た時、胸に何かを打ち込まれたかのように、ナギはその場所に強い痛みを感じた。
その時。
がちゃり。
扉の外で、閂がストッパーに当たる音がした。
はっとしてナギが扉を見やるのと同時に、ラスタはぽんっと、微かな音を立てて消えた。
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