79. 竜人少女(4)
「――――――――――――――――――――――――………!」
12歳で家族と故郷から切り離され、鎖に繋がれて過ごした四年の日々が、その時、血を吐くような苦しみを伴ってナギの心の中を駆け巡った。
数秒前は自分が泣いていることに気付いてもいなかったのに、今度は歯を喰いしばっても声が漏れて、はっきりと涙が止まらなくなった。
四年を家畜小屋で過ごした少年は、顔を伏せ、肩を震わせて泣いた。
小さな手が、その頬に触れている。
笑顔だったラスタが、今は心配そうにしていた。
相棒にそんな表情をさせちゃ駄目だと思ったが、自分を落ち着けるのに、数分かかった。
胸の中の激しい波立ちを抑え込み、涙を噛み殺す。
竜人の少女は、少年のそんな様子をじっと見守っていた。
ようやく少年が鎮まった時、少女はあどけない程の表情を浮かべた。
「ナギはなんで牛小屋で暮らしているんだ。」
その問いに少しだけ驚いた。
青い瞳が、真っ直ぐに自分を見つめている。
ラスタは何を理解していて、何を理解していないんだろう。
例えばラスタが新しく手に入れた力を迷いもなく使いこなすのは、本能なのかもしれない、とは思った。
ただラスタは明らかに、自分で直接見たり聞いたりしていない多くのことを知っているように思う。
だからナギは自分でも気付かぬ内に、ラスタがこの世の全てを知っているかのように錯覚しかけていたのだ。
でも決してそうではないようだった。
床まで届く金色の髪に包まれるようにして、小さな少女が目の前にちょこんと座っている。
何をどれだけラスタが知っているのか分からず、どこから話せばいいのか分からなかった。
少しの間考えてから、ナギはようやく話し出した。
「―――――――――――――僕とミルの故郷は、ヤナって言う国なんだ。」
ラスタが頷く。
先刻「ヤナの服みたいにも出来る」と言っていたくらいだから、ラスタはナギがヤナ人であることは知っていて、ヤナについての幾らかの知識もあるのだろう。
「12歳の時に僕と友達は、故郷のヤナから攫われた。それからこの国に連れて来られて、売られたんだ。――――――――――――ミルは一年前に、同じ目に遭ってここに連れて来られた。」
「――――――――――――奴隷狩りという奴か?」
頷くと、ラスタの青い瞳は少年の足首を締める、鉄の枷を見つめた。
ゆっくりと、ラスタが左手を上げた。
小さな人差し指が、鎖を差す。
かしゃん。
少年の足を縛る鍵が解け、まるで石が二つに割れるかのように、鉄の輪は開いた。
済みません、短め滑り込み更新です……!




