74. ラスタの二度目の成長(4)
広げた翼の左側がほんの微かに動き――――――――――――――――
ばんっ!!!!
「うわっ?!!」
ごうっ、という音が牛小屋の中から外へと駆け抜け、扉の左側が弾け飛ぶように開いた。
四角く開いた口の向こうでは、もう日が昇っていた。
外は白い光に満ちていて、その前に、翼を広げた竜が立っていた。
絶句して、ナギは立ち尽くした。
牛達がパニックを起こしている。さすがに宥めないとまずいかもしれない。
黒竜が半身に振り返り、少年を見上げる。
ラスタのこんなに弱気な表情を、ナギは初めて見た気がする。
小さな竜と牛達の様子を交互に見やりながら、少年は、すぐには起きたことが理解出来なかった。
心臓がどきどきしている。
……………風?
その言葉がナギの胸に浮かぶまで、数秒掛かった。
翼で風を起こした?
あんなに微かに翼を動かしただけで?
身の置き所がなさそうな表情をしている小さな黒竜は、水と火と、風を生むようになったのかもしれない。
その威力が衝撃的過ぎて、ナギは目にしたことがなかなか吞み込めなかった。
季節を四分の三周して、竜は、竜になろうとしていた。
◇
扉の蝶番を確認して、ナギは立ち上がった。
扉は壊れてはいなかった。
正直に言えば少しがたついてはいたけれど、見た目にすぐ分かるようなダメージはなかった。
と、物凄く申し訳なさそうに自分を見上げている小さな竜と目が合って、少年はもう一度その場にしゃがんだ。
「大丈夫。扉は壊れてないよ。」
微笑んでそう言うと手を伸ばし、ナギは子猫のサイズになった竜の頭をそっと撫でた。ラスタはようやく、ちょっと安心した表情をした。
火と風を作る力は、制御が難しいようだ。
本人にとってもそれが不本意なようなのに、新しく得た力をいちいち教えてくれるラスタの律義さが、ナギは少しおかしくなった。
「うっ!」
突然黒竜に甘噛みされて、少年は呻いた。加減してくれた感じだが、それでもだいぶ痛い。
悪戯っぽい瞳でこちらを見ているラスタは、いつものラスタに戻りつつある様子だ。
その時、火を作る力と風を組み合わせたらと思い至り、支配者達が獣人の卵を手に入れようとする筈だ、とナギは怖くなった。
竜人の卵をかえした自分は、ヴァルーダ国にとって、あってはならない危険な存在なのだろう。
自分は火を一つだけ作ることを望んだ。
でも千個の火を望む者がいて、それが可能だったら――――――――――?
ラスタはあの火を、一度にどれだけ生み出せるのだろう。
楽しそうにしている小さな竜を、少年は見つめた。
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