73. ラスタの二度目の成長(3)
―――――――――――――――まさかまだ他にも?
心臓が大きく波打ち、ナギは息を飲んだ。
以前の時は「消える力」だけだったのに。今回発現する力は、
一つじゃないのか。
「………ラスタ?」
緊張で、相棒に呼び掛けるナギの声は乾いていた。
名前を呼ばれた黒竜は、ちょっと考え込むような表情をした。それから周囲を見回して、そして竜は、右手を上げて小屋の扉を差した。
「え?」
外に出たがってる―――――――――――?
いや、ラスタは自由に外に出られる。
「―――――――――――ドアを開けてほしいの?」
尋ねると、小さな手で扉を差したまま、ラスタはこっくりと頷いた。
戸惑いながら、ナギは両開きの扉に歩み寄ると、左の戸に付いているハンドルを回した。
少年が小さく扉を開けると、外はもうだいぶ明るさを増していて、闇が薄まりつつあった。
ラスタは何をしようとしているんだろう。
どのくらい戸を開ければいいのかと思いながらナギが振り返ると、小さな竜は困り顔のまま、今度は反対側の手を上げて、小屋の奥の方を差していた。
「えっ?」
今度はそっち?
小さな竜に指し示されるまま、少年は前から奥へと牛小屋の中を移動した。
ここで何をすればいいんだろう。
柵に突き当たって、ナギはその前で困惑しながら立ち止まった。
この間仔牛が生まれて再び八頭に戻った牛達が、柵の反対側で不安げに鳴いている。
ラスタが生まれてから彼らの住まいは随分刺激的な場所になっていると思い、ナギは牛達に少し申し訳なくなった。
それとも牛も、「人生」に変化を求めていたりするだろうか。
次の指示を求めて少年が振り返ると、黒竜はやはり何か躊躇うような表情をしていた。
ほんの数瞬、ラスタはナギの顔を見つめた。そして悩ましそうにしながらも、黒竜は扉へ向き直るとふわりと舞い上がった。
その飛び方が、これまでと違っていた。
ほとんど羽ばたいていないのに、ラスタは宙に留まっている。
ラスタはナギと扉の間くらいの場所に動いただけで、すぐに地面に降りた。
僕に下がっていてほしかった――――――――――――――――?
ナギが相棒の意図を推し量っていたその時、地面の上で、ラスタが翼を広げた。
その後ろ姿は神々しい程に綺麗で、一瞬、ナギは黒竜に見惚れた。




