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【第五章開始】竜人少女と奴隷の少年  作者: 大久 永里子
第二章 少年と竜人
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71. ラスタの二度目の成長

◇ ◇ ◇ ◇ ◇


  消えている時のラスタは、物にさわれない。


 ラスタが狩りをしているらしいと分かった時、少年はすぐに問題点に気が付いた。

 黒竜は、何かを持って消えることも出来ない。つまり何かを狩っている瞬間と食べている時は、ラスタは姿を現している筈なのだ。


 わら布団の横で小さな竜にその疑問をぶつけると、ラスタは居心地悪そうにナギから目を逸らした。


「―――――――――――――――。」


 「そんな子に育てた覚えはない」という、数多あまたの親が口にしてきた言葉が少年の脳裏をよぎった。


 なにせ小さな黒竜は、ほかの動物に襲われたらひとたまりもなさそうな程に無力なのだ。心配しなければいけないのは、ヴァルーダ人に見つかることだけではなかった。


 だから外に出る時は姿を消すよう約束したのに、と思う。


 でも今のナギに、ラスタの行動を縛ることは出来なかった。



「行って来ます。」



 小さな竜が狩りに行っていることが分かってからも、ナギはそう告げて、毎朝ラスタと分かれた。

 夕方に再会するまで心配で仕方がなかったが、竜人は多分、こうやって大きくなるのだろう。

 自然と狩りを始めたラスタの行動は、本能に近いものにナギには思えた。




◇ ◇ ◇


 収穫の季節が近付いていた。




 早朝から日暮れまで、領地中の人間が畑仕事にかかりきりだ。


 ナギも牛小屋で横になると、気を失ったように眠ってしまうことが多くなった。





 一向に人の姿にならないラスタが二度目の成長を見せたのは、夏のナギの誕生日の前だった。




 夏の夜明けは、冬のそれより当然早い。

 だが季節を問わず、ナギの仕事が始まるのは「日の出前」だったから、その日もナギは、まだ暗い内に自然と目を覚ました。


 目を開けると、枕元にラスタがいた。青い瞳は、じっとナギを見つめていた。


 そんな様子を以前まえにも見たことがある。


 ナギは慌てて、わら布団を這い出した。






 やがてラスタは金色の光に包まれ―――――――――――――――――――――






 息を詰め、少年が見守る前で、ラスタは再び、「一回り大きな竜」になった………。





 牛達が騒いでいる。


 今度のラスタの大きさは、犬や猫の赤ちゃんに近かった。


 もう両手に載せるにはぎりぎりのサイズだ、と思う。


 伸ばした手に甘えるように頭を擦りつけてくる黒竜に、「おめでとう」、と少年はお祝いの言葉を伝えた。


 竜人の成長は、美しかった。

 生まれた時も、一度目の成長の時も、毎回深く心を打たれる。



 ただ―――――――――――――――――



  やっぱりまだ、人間の姿にはならないのかな――――――――――――。



 もしかしたら人の姿になるのは、何年も何十年も先なのかもしれない、とナギは少しだけ覚悟した。



 人に姿を変えることはなかったが、だがラスタはこの日、少年に新たな超常の力を披露した。



 ラスタに急かされるようにして梯子を降りて、二つの桶に水が満ちているのを見た時、ナギは驚愕して小さな竜を振り返った。



「ラスタがやったの?!!」



 空中で、美しい黒い竜はうなずいた。



「水が作れるようになったの?!」



 体が大きくなるごとに、使える力が増えるということなのか。


 この日から、ナギは井戸に水を汲みに行く必要がなくなった。




  どのくらい自在に水を作れるんだろう。



 「水を作る(この)力」がどのくらい柔軟に使えるものなのか、知っておいた方がいい。


 一通り驚いたあとにそう思い、緊張しながら、ナギは小さな竜に自分の左手を差し出した。


「この中に水を作れる?」


 ラスタはちらりと少年の手を見ると、すぐにうなずいた。


「!!」


 自分でラスタに頼んだというのに、突然左手の中が冷たくなった時には、ナギは思わず目をみはった。



  水だ!



 手の中で、透明な液体が光を抱いて揺れている。

 まじまじと見つめてから、ナギは左手に口を付け、その光を飲んでみた。



  おいしい――――――――――――――――――



 冷たくて、おいしい。



「凄い………。」



 少年が思わず呟くと、小さな竜はちょっと嬉しそうにしたが、珍しくそれ程得意げにはせず、何か神妙な表情かおをして地面に降りた。


「―――――――――――――――――?」


 地面から黒竜にじっと見つめられ、少年はやや戸惑った。


 ラスタは少し困った様な表情かおをしていた。


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