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【第五章開始】竜人少女と奴隷の少年  作者: 大久 永里子
第二章 少年と竜人
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67. 竜の不思議な力

◇ ◇ ◇

 目が覚めると、ラスタは胸の上で静かな寝息を立てていた。

 まだわずかに闇が薄くなっただけの世界に、鶏がけたたましく鳴く声が聞こえている。


 ナギは自分の右腕をわらの中から引き出した。

 いつもはナギが身じろぎするだけですぐに目覚めるラスタが、今日は起きない。


 昨日きのうの夜、ラスタはもう胸の上(ここ)では寝ないかもしれないとナギは思っていた。

 小さな竜が当然のように胸許に納まってくれた時は、嬉しかったのが本音だ。


 でもいつかはその時が来るのかもしれない。きっと自分は、物凄く寂しく感じると思う。


 黒竜の背中をそっと撫でると、ラスタはぴくりと反応し、ようやく目を覚ました。そして首をもたげて、小さな竜は嬉しそうに少年の手に頭を擦りつけた。


「おはよう。」


 ナギは微笑んで、小さくて温かい相棒にそう告げた。


 少年が体を起こす。

 するとラスタは軽く羽ばたいて床の上へと移動した。



  昨日きのう晩餐は何時いつごろ終わったんだろう。



 客人が滞在している間は、いつも通りに行動するのは危ないと思う。



 睡魔に抗えた時間は短かったが、昨日きのうはナギは、横になったあとも色々と考えを巡らせていた。



 今朝は最初に試しておきたいことがあった。



 「部屋」の隅に置いていた椀を手に取る。中に昨日きのうラスタが食べ残した雑穀が少しだけ入っていた。


「―――――――――――――ラスタ。」

その中から燕麦えんばくの粒を摘まみ上げると、ナギは小さな竜に呼びかけた。

「―――――――――――――ここで消えて、これを雑穀の納屋の中に置いて来ることは出来る?」


 これが可能なら、ナギとミルが置かれている状況を大きく変えてくれるかもしれないと思ったのだが、ラスタの答えは「否」だった。


 やっぱりラスタは「消える(この)力」のことをよく理解しているようだ。


 何かの理由で、燕麦えんばくが駄目なのかもしれない、とも思う。

 ナギは慎重に、「消える(この)力」で出来ることを見極めようとした。

 ラスタは少なくともかめの中に現れて、手で雑穀を掴むことは出来ていた。


 少年は質問を変えてみた。


「じゃあ納屋のかめの中から、雑穀をここに持って来ることは出来る?」


 だがこの質問にも、ラスタは首を横に振った。



  消えて移動出来るのは、ラスタだけってことなのかな……。



「じゃあ、燕麦えんばくを口の中に入れたらどう?」


 ラスタの答えは「出来ない」、だった。


「………例えば燕麦えんばくを持って消えたらどうなるの?」


 ラスタは少し考える顔をしてから、手を差し出してきた。どうやらやって見せてくれるらしい。

 ナギは固唾を呑むと、その小さな手に燕麦えんばくの粒を載せてみた。薄闇の中で、ラスタが麦粒を握り締める。



 ぽんっ。



 微かな音と共に、竜は消えた。

 そして燕麦えんばくの粒は、宙からぽとりと落ちた。


「――――――――――――――――。」



  やっぱり消えられるのはラスタだけってことか――――――――。



 ぽんっ。



 ナギの頭の横に、羽ばたきながら黒竜が現れる。

 両手の上に降りて来たラスタに、少年は確認の意味で尋ねた。


「消えられるのは、ラスタだけなんだね?」


 今度の答えは「うん」だった。


 少し残念だけど、分かることが増えただけ進歩だと思う。


 「教えてくれてありがとう」と言うと、黒竜が胸を張って見せたので、少年は笑ってしまった。



 「実験」を終えたナギは、別の大切な話を始めた。


「ラスタ。多分何日か、小屋や納屋に出入りする人間ひとが増えると思うんだ。だから納屋に、ラスタのごはんを置いておくのは危ないと思う。」

 ナギの言葉を、ラスタはじっと耳を澄ますようにして聴いていた。

昨日きのうと同じ雑穀のかめの中にラスタが食べる分を入れておくから、少しの間、自分でかめの中に入ってごはんを食べてほしいんだ。出来る?」


 するとラスタは数秒、ただ静かに少年を見つめ返した。

 それから少年の手の上で、小さな竜はゆっくりと頷いた。



 ―――――――――ラスタが「消える(この)力」を得たのが昨日きのうで、本当に良かったと思う。



「……水を汲んで来るよ。」

そう告げて、少年は急いで朝の仕事にとりかかった。





 じゃらっ、じゃらつ……


 鎖の音と、鶏の声がうるさい。


 外はまだ闇が濃かった。

 この世の物ではないかのように、煌々と輝いていた昨夜の館の姿が少年の胸に甦る。



 昨日きのうミルは、ちゃんと寝られただろうか。

 


 少女のことを案じながら鶏小屋の前を通り過ぎた時、ナギはどきりとした。



 食べ物の匂いがする。

 台所でもう朝食作りが始まっている。


 木戸まで近づいて台所の方を見やると、煙突から煙が上がっていた。

 少年は思わず後ろを振り返った。


 今ラスタを連れていたら、誰かに目撃されていたかもしれない。



  危なかった――――――――――――――――。


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