61. 少女奴隷の仕事
◇ ◇ ◇
これでラスタが、ヴァルーダ人に見つかったり連れて行かれたりしてしまう可能性は劇的に減った。
細い糸のようだった未来への道が、ぐっと広がるのを感じる。
だがまだ分からないことは多い。
「例えばここで消えてから、ずっと遠くで姿を現すことは出来るの?」
先刻ナギは、小さな竜にそんなことを幾つも尋ねた。
だがラスタの答えは、何かはっきりとしなかった。
ちょっと考えるような様子を見せて、それからラスタは、ほとんどの質問に、どこか曖昧に頷いたり首を振ったりしたのだ。
ラスタもこの力を使うのは初めてだった、と思う。
当たり前のように力を使いこなしているように見えたけれど、ラスタ自身にも、やっぱりまだ分からない所があるのかもしれない。
それとも「うん」と「いいえ」だけでは、答えきれない部分があるんだろうか。
ナギのこの疑問が解けるのは、もう少し先のことである。
―――――――――――――それにしても気になる。
馬小屋の世話を終え、台所に向かいながら、ナギはちらりと周囲に視線を走らせた。
ラスタがそこにいるんじゃないかと思えて、落ち着かない。
もしかして見えてないだけで、獣人ってそこらじゅういるんじゃないか。
そんなことまで想像してしまい、少年はますます落ち着かない気持ちになった。
獣人のことは、相変わらず謎だらけだった。
◇
ミルにこのことを伝えたい――――――――――――――――。
勝手口の前で、ナギは一度立ち止まった。
なんとかミルに、ラスタのことを伝える術はないだろうか。
ミルに与えられているのは、館の中と裏庭の仕事だった。
足が不自由なせいもあるのかもしれないが、ミルはここに買われてから、まだ館の門の外に出されたことがない。
ミルがやって来てから、女性や少女の奴隷の力の弱さは、使役者にとってメリットにもなるのだとナギは気が付いた。
ブワイエ一家はナギには立ち入らせなかった館の中の多くの部屋に、ミルが入ることは許した。これまでナギにさせることが出来なかった屋内の仕事は、次々とミルの仕事になったのだ。
ヘルネスが大怪我をしていたミルをあっさりと買ったのは、「安さ」だけが理由ではなかったのだろう。
女性の奴隷は、その非力さゆえに価値があるとも言えるのだと思う。
ラスタが育つまでに、どのくらいかかるだろう。見つけられることなく、どこまで育てられるだろう。
せめてミルだけでも、と思う。
もしラスタが助けてくれるのなら、少しでも早く、ミルだけでもここから
逃がしたい。
ミルが子供のうちに――――――――――――――――――。
勝手口の扉を開けると、ミルと目が合った。
結局朝の野菜の皮剥きはミルの仕事となっていて、そのお蔭で二人は毎日、会うことだけは出来ていた。
いつもと様子が違う。




