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【第五章開始】竜人少女と奴隷の少年  作者: 大久 永里子
第二章 少年と竜人
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58. ラスタの成長(4)

 もう一度ラスタに姿を消して貰ってから、ナギは牛小屋の扉を開けた。


 冷気が吹き付ける。東の空はもう白み始めていた。


 一度確かめたのにも拘わらず、それでも不安になる程、ラスタの気配は、一切なかった。


 歩き出すと、ナギを奇妙な感覚が襲った。


 まるでラスタが生まれる前に戻ったようだ。



 言葉も通じぬ国で鎖に繋がれ、夜明け前の道をたった一人で歩いて来た三年。



 その頃の孤独と絶望が急激に心に甦り、自分がどれだけラスタの存在に満たされていたのか、今更に気付いた。



 小さな竜は、そこにいることが信じられない程、完全に消えていた。

 鼓動が速くなり、息が苦しくなるのを感じる。


  ラスタはちゃんといる。分かっているのに。


 じゃらっ、じゃらっ……


 鎖の音や、忙しい鶏達の羽音が今日はやけに耳障りに響く。

 この三カ月、胸許のラスタに意識が向いていたから、こんな音がしていたことも、ずっと忘れていた。


 煉瓦の納屋の前で立ち止まり、ナギは二つの木桶を地面に置いた。


 雑穀をくすねていることは絶対に気付かれてはならなかったから、「ラスタのごはん」の確保は館の人間が起き出す前の、朝一でしなければならないことだった。

 ナギは身を屈めると、左の桶の中から椀を取り出した。


 まず木の椀を納屋に置いてから井戸に向かい、一回目の水を汲み上げた戻り道に「ごはん」を椀にすくって帰るのが、ラスタが生まれてから出来た朝のルーティンになっていた。


  だけどこれも、もうすぐ難しくなってくる。


 春が近付くとともに、麦畑は忙しくなる。その時期には館の人間や村人達も、早い時間から動き出すことがあったのだ。

 ナギが朝の水を汲み上げるこの時間に、外に人がいることがあるのだ。

 その時期をどうやって乗り切ればいいのか、ナギはまだ考え付いていなかった。


 でもラスタが姿を消すことが出来るのなら、何か方法を見つけられるかもしれない。


 そう思いながら高床式の納屋の戸を開けて――――――――――――



「うわっ??!!」

 思わずナギは飛び退すさった。


  えっ?!


 心臓がばくばくする。

 死ぬ程びっくりした。

 ―――――――――――――扉の中に、自分を待っていた存在がいたから。



  ラスタ?!!



 煉瓦の納屋の入り口で、小さな竜がこちらを向いて座っていた。



「えっ……」

 今何が起きたんだろう?

 ラスタは自分が扉を開けた瞬間に、中に入ったんだろうか。



 それとも――――――――――――――――――――



 ナギは慌てて館の方に目を走らせた。叫んだのは、まずかった。

 誰もこちらを見ていないことを確認してから、少年は急いでラスタに目を戻した。


 ここで悪戯を仕掛けるなんて、と小さな竜を叱りたくなったが、悪戯ではないのかもしれない、とも思えた。

 青い瞳はナギをじっと見上げていて、自分をからかっているようには見えなかった。


  何かを伝えようとしている?


 ラスタが喋ることが出来ないのが、もどかしい。


 まだ胸がどきどきしていたが、自分の気持ちが落ち着くのを待っていることも出来ない。

 掠れる声で、ナギは尋ねた。


「ラスタ――――――――今―――――――――戸がく前から中にいた?」


 小さな竜は、こっくりと頷いた。

 数秒、ナギは言葉も出なかった。



 超常の力――――――――――――――――――――――――



 ラスタは、「ただ消えている」のですらないのかもしれない。


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