57. ラスタの成長(3)
時間はナギを待ってくれなかった。
知りたいことがたくさんあっても、ここにいて、ラスタとじっくり向き合っていることがナギには出来ない。
「もう行かないと。」
少年が呟くようにそう言うと、小さな竜は一瞬だけナギの顔を見つめて、すぐに手の上から飛び降りてくれた。
鎖に絡まる藁をナギは急いで取り除き、それから急いで靴を履いた。
梯子を降りたナギが「部屋」の下から二つの桶を取り出した時、森で鳥達が目覚めの声を上げるのが聞こえた。
いつもよりかなり遅れている。
だが牛小屋の扉を出る前に、ナギは一度立ち止まった。
羽ばたきながら後をついて来るラスタに手を差し伸ばす。小さな竜が、少年の左手に舞い降りる。
これまでラスタを連れて外に出る時、いつも服や桶の中に隠れて貰っていた。
まだ小鳥のサイズだし、いつもどおりに首許に入ることもまだ出来るだろうけれど、それでもラスタは、以前よりは目立つだろう。
その内に、きっと服の中に隠せない大きさにだってなる筈だ。
だけど―――――――――――――――――
「ラスタ。姿が消せる?」
少年が尋ねると、手の上で小さな竜は、楽しそうに頷いた。
そして。
ぽんっ。
「………!」
はっとして、ナギは一瞬前までラスタが乗っていた自分の手の上を見つめた。
その手をゆっくり閉じて、開いてみる。
自分でも今気が付いたが、起きていることは自分がぼんやりと思っていたことと、少し違う。
ラスタは、ただ「見えなくなっている」んじゃない。
ラスタは、この場から「消えている」。
手の上には重さもなく、触れるものもなかった。
どういう仕組みなのか分からない。
ラスタは、ここにいるんだろうか?
ナギは周囲を見回した。
翼の音も聞こえなかった。空中は空っぽで、小さな竜の気配は、一切なかった。
「―――――――――――――――ラスタ?」
急に不安になる。
自分で今頼んだことなのに。しかも時間もないというのに。
ラスタに悪いとは思ったが、ナギは確認せずにはいられなかった。
「ラスタ、ごめん、いるの?ごめん、一度出て来―――――――――――」
ぽんっ。
「うわあっ!」
ナギの目の前に現れて、小さな竜は楽しそうに羽ばたいていた。
「ラスタっ!」
少年はさすがに抗議の声を上げた。
心臓に悪過ぎる。
悪戯好きのラスタにこれから毎日驚かされるのではないかと想像し、ナギは少し気が遠くなった。
でもとにかくも、ラスタが「そこにいる」ことは分かった―――――――――少なくとも、ナギの声は聞こえているのだ。
「そこ」が一体どこであるのか、今は理解出来ないけれど。
心臓にだいぶ負荷がかかったと思うが、ちょっとだけ安心する。
ナギは相棒を見つめ返して、尋ねた。
「―――――――――――――僕の近くに、いるんだね?」
空中で、黒い竜は頷いた。
遅筆、ちまちま更新で済みません……;




