55. ラスタの成長
「………!」
あの時と同じだ。
ラスタが生まれた時と。
もしかして
ナギは急いで、藁を這い出した。
足元で鎖がじゃらりと鳴った。暗がりで、落ち着きを失った牛達が声を上げている。
夜明け前の灰色の世界に、光が生まれていた。
金色の淡い光の粒がラスタを包んでいる。
息を飲み、ナギは光に包まれたラスタに向き合った。
どこを見ているのだろう。
宙を見つめ、ラスタは光の中にただじっと佇んでいた。
やがて。
ぽんっ。
微かにそんな音がした。
「えっ………」
あんぐりと口を開け、ナギはしばらく絶句した。
―――――――――――――――小さな竜が、目の前にいた。
――――――――――――――― 一回り大きくなって。
牛小屋に、予想と想像と期待を覆された少年の驚愕の声が響き渡った。
「ええええええええええええええええええええええええええっ?!」
三カ月、全っ然大きくならなかったのに!!
まとめて大きくなるの?!
想像の外過ぎる!
「ら す た………?」
おそるおそる、少年は小さな黒竜に声をかけた。
状況は、脱皮に似ている、とは思った。
少しだけ大きくなった竜は、自分の手と脚をじっと見つめていた。
金色の光が少しずつ薄くなっていくが、代わりに夜明けが近付いて、世界はゆっくりと明るくなっていく。
ラスタが成長した。
片手に包めるサイズから、両手で包むサイズに。
喜びと驚きと落胆が、この時、ナギの中ではごちゃ混ぜになっていた。
空気に吸い込まれるようにして、金色の光はなくなっていった。
黒い竜が小さく身震いした。
ラスタは翼を広げた。
「!」
ばさっ。
風が起こる。
風圧が、今までと全く違う。
たった一度だけ、ラスタは羽ばたいた。
ナギの顔と体を、風が撫でる。
小さな竜は、そのたった一度で高く、強く舞い上がった。
輝くような黒い体の生き物が宙を舞う。
ばさっ、ばさっ……。
黒竜はあっと言う間に牛小屋を横切り、大きな弧を描いた。
ラスタが一度の羽ばたきで進む距離は、段違いに長くなっていた。
そして。
ぽんっ。
「えっ……」
もう一度、ナギが全く想像していなかったことが起きた。
「―――――――――――――――ラスタ?」
牛達の声しかしない。
きゅっと心臓が掴まれたような気がして、藁布団の横で、ナギは急いで立ち上がった。
――――――――――――――――――――ラスタが消えた。
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